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Dear Four Seasons 〜魔剣使いが往く異世界剣聞録〜  作者: 鹿島ジュン
Adventures of the Four Seasons

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9/22

8話 劇的な逆転/Dramatic Reversal



 ナツの右手に収まる、鮮やかな夕焼けの琥珀の光を纏った《福音と呪詛の剣》。

 フユの左手に握られる、陽炎のように揺らめく蒼きオーラの《真実と欺瞞の剣》。

 そして、アキが天に向けて誇らしげに掲げる、激しく波打つ光彩を纏う緑の《繁栄と衰微の剣》。


 本当に不思議なものだ。魔剣を召喚する固有の言霊もそうだったが、ハルが自身の剣を《楽園と冥府の剣》と認識していたように、自分たちの握る魔剣が持つ名が、なぜか知識として脳に直接流れ込んでくる。


 楽園と冥府、福音と呪詛、繁栄と衰微、真実と欺瞞──。

 ポジティブな単語と、それに相反するネガティブな単語を繋げた、意味深なネーミング。

 フィクションにおいて魔剣や邪剣、妖刀といった類のアイテムは、決して「清く正しいもの」ではなく、恐るべき呪いや対価を孕む「危険なもの」として描かれることが多い。だからこそ、この相反する二面性を持つ剣呑な名前も、不思議と腑に落ちる感覚があった。


 それでもこの『魔剣』は、決して悪しき存在ではない──そんな確かな信用と信頼が、常人の枠組みを外す圧倒的な力と共に主の心身へと流れ込んだ。


 なぜ、四人は魔剣に選ばれたのに、最初に魔剣使いとして覚醒したのはハルだけだったのか。

 それはハルの覚醒動機が「ナツを助けるため」に他ならない。

 ところが自分達はどうだ? 助かりたい、死にたくないという願いや恐れが第一に来るばかりで、能動的な動機が一切ない。

 主がそんな体たらくな有様では、魔剣が「なぜ腑抜けを助けてやらねばならぬ?」と呆れてしまうのも無理はない。

 そういう意味では、魔剣たちが三人を裏切っていたのではなく、逆に三人が魔剣たちの期待と信念を裏切っていた。


 この魔剣は『悪い存在』ではなく、どこまでも『気高い存在』なのだ。


 ともあれ、格好の獲物のはずだった非力な高校生たちの、まさかの同時覚醒。

 あちらからしてみれば、あの群れを震え上がらせた恐ろしく得体の知れない魔剣士が、あろうことか三人も増えてしまったのだ。

 三色三様の魔剣から放たれるその圧倒的な神威とプレッシャーは、つい先ほど仲間を魔剣で瞬殺された光景を目の当たりにした怪物たちにとって、到底無視できる事態ではなかった。


「グル、ル⋯⋯ッ!?」


 突進してきていた手負いの三頭の怪物が、その巨体をきしませて一斉に足を止める。その爬虫類の瞳は、ハルの単騎奮闘の時とは比べ物にならないほどの『恐怖』の色が滲んでいた。


 形勢は逆転しつつある。ナツ、アキ、フユが、昏睡するハルの前に立ち塞がるように一歩前へ出た。怪物の群れへ向けてそれぞれの魔剣を鋭く構え、強烈な威圧を与えながら列を成す。


「ねえ、まずハルを安全なとこに移さないと。三人いればなんとかなるかもだけど、安心して休んでほしいもん」


「なら木の上とかどうだ? ほら、あそことか丁度よさそうじゃね?」


 そう言うとアキは、魔剣の先端を自身の右斜あたりに向ける。高くそびえるように生えた大樹の高所部分に、丸太と言っていいほど太く伸びた枝があった。幅に十分余裕があるお陰で、上背のあるハルでも寝かせられそうだ。


「あの高さならバケモンも届かねえだろ」

「え? ちょっと待って。クマって木登りが得意なんじゃなかったっけ? 大丈夫かなあ」

「ううん⋯⋯。たぶんだけど⋯⋯大丈夫⋯⋯っ!」


 ナツの懸念を、自信を持って振り払うフユ。左手の魔剣の切っ先を、親玉の頭部に指導棒のように向けて続ける。


「ほら、あのワニ頭のせいで⋯⋯身体構造上、木登りは得意じゃないハズ⋯⋯! 顎が前に向かって出っ張ってるから⋯⋯顎が木に突っかかって、むしろ木登りに適してない⋯⋯っ!」


「! そうかなるほどな。うし! ならオレに任しとけ。お前らはそのまま脅しを続けてろ」


 アキは魔剣を構えたまま背後を振り向きながらしゃがむと、自分より十センチも身長が高く、筋肉の引き締まったハルの身体をひょいと軽がると肩に担ぎ上げた。

 それだけでもすでに常人の筋力を遥かに超越しているが、驚くべきはそこからだった。アキはハルを担いだ状態のまま、地面を軽く踏み抜いた。ドンッ! と爆音が響いたかと思うと、アキの身体は重力を忘れたように、十メートル以上も上空へと高く跳躍したのだ。


 そのまま、巨木の一際太い大枝へと軽やかに着地する。

 アキは、ハルの身体をそっと木陰の安全な場所へと寝かせた。


「ここでちょっと待っとけよ。前半戦のMVPは間違いなくお前だぜ。ったく、お前マジでスゲーよ、たった一人でよ。⋯⋯ありがとなハル。へへ、こんなこと、起きてるときは言えねえよな。後半戦はオレたちに任せて、今はゆっくり休め⋯⋯な?」


 意識のないハルに、少し照れくさそうに、けれどどこか優しい笑みを向けた。そして、今度は大樹の枝から迷いなく飛び降りる。

 ドスンと鋭い着地音と共に二人の元へと舞い戻り、再び《繁栄と衰微の剣》を構えた。


「ハルがぶっ倒れた様子からして、たぶんこの力は長時間使えねえはずだ! 速攻で終わらすしかねえぞ!」


「うん⋯⋯。これって、ゲームでいう、制限時間付きの覚醒状態⋯⋯だと思う。スターを取った時の、無敵BGMが流れてる感じ」


 フユが蒼い魔剣の刀身に自身の顔を映しながら、オタク特有の冷静な分析を口にする。ナツもそれに強く頷き、琥珀の刃をきらめかせた。


「じゃあ、さっきのハルみたいに、じっくり我慢比べはダメだよね。一気に行っちゃおう!」


 息を合わせ、三人は同時に力強く地を蹴った。爆発的な推進力が彼らの身体を押し上げ、瞬時にトップスピードへと達する。迫り来る四頭の凶獣の群れに向かって、三つの光が矢のように高速で突っ込んでいく。


 森の生態系を、理不尽を、一瞬で書き換える暴力の嵐。

 襲う者と襲われる者の立場は、今この瞬間、完全に逆転した。




※読み飛ばしOKのおまけ


タイトル名《劇的な逆転》は、自分の場の土地以外のパーマネントを全てアンタップする、青の2マナインスタントカード。


無力かつ行動不能(タップ状態)だった三人が、行動可能(アンタップ状態)となり、さらに文字通り立場も劇的に逆転したという、カード名、カード効果とシナリオ展開の噛み合わせ。


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