過去の記憶を思い出そうとしても思い出せないのに何気ない時にふと思い出してしまうのはつまりはそういう事だと聞いたことがありますお盆の話
お盆の時の風呂上りに、やたらと元姑のことを思い出してしまったので、このお話を書いてみました。
さぁ、待ちに待ったお盆、亡くなった人たちをお迎えする精霊馬のお見送りも終わったぁ。
人間たちのお盆休み、亡くなった人たちが家族たちの待つ家へ帰省するお盆、それは同時に、日ごろ極楽浄土の人たちを管理する私たち、極楽協会の社員たちにとってもお盆休みである。
やれやれ、これでゆっくりできるぞ、家に帰って酒とつまみとネットフリックス三昧としゃれこもう!
なんて思っていたら、待合の柱の奥に隠れるように立つ一つの影を見てしまった。
見なきゃよかった。と後の祭り。
「どうなされました、精霊馬はもうありませんが、もしかして乗り遅れてしまったとか?」
その影は、私の声掛けにびくっと肩を震わせたものの、それでも振り返って、言った。
「そうなんですよ、夫が作った馬がいたはずなんですが、どうやら別の人を乗せて行ってしまったみたいなんですよ、困ったわねぇ」
おばあさんの霊だ。でも、精霊馬が違う人を乗せたなんて聞いたこともないし、今日も特にトラブルもなく見送ったはずなんだが、でもこのおばあさんが困っていることは確かだ、上の人に報告だ。
「ちょっと待ってくださいね、上司に確認を取りますね」
そう言ってスマホを取り出し、精霊馬の取り違えと、一人取り残されている旨を報告しようとすると、このおばあさん
「い、いや、別に、もう行ってしまったのなら、別にいいのですよ」
少し焦り気味に報告を遮ろうとする、しかし私はもう送信してしまった。取り違えはさすがにあってはならないことだし。
返事が来た。やっぱりそのような取り違えはなかったらしい、でも実際そこに取り違えられた人がいるのは極楽協会としても見過ごせないことだから、と、相手の名前と所属地を聞かれたので、おばあさんに確認する。
「い、いやだから、名乗るほどでもないのよ、ホント、大丈夫だから……」
抵抗して名乗ろうとしない。
でも大丈夫、亡くなった故人の戒名とその他の情報はすべてマイクロチップで管理されているのだから、ピ、ってすればすべてわかる。
このおばあさんのことを確認した上司から指令が下った。
――この人については少々疑問あり、よってお前がこの人について現世の遺族の元へ行ってこい、そして確認しろ――
はぁ?
私のお盆休みはぁ?
――この人は、本来ならもうとっくに人間として転生してもよいはずなのだが、なぜか転生できずにここに留まっていたのだ、もしかすると転生できずにいる原因が現世にあるのかもしれぬ、すまぬが一緒に行って確かめてはもらえまいか――
えぇ、でも私のお盆休みぃ~
――もちろん手当は大いにはずむぞ――
行きます。
「ではおばあさん、今から私と現世に行きましょう、そこで、あなたのいう事が本当に正しいか見せてもらいます、正しければあなたはまた人間に生まれ変われますけど、もしあなたのいう事が嘘だったら……」
「何を言うの、私が嘘つきなわけないでしょう!」
もし嘘だったら、この人の来世は――
「私は、皆から慕われていましたのよ、家族からは愛する妻とか頼れるお母さんとか言われていたりして、職場でも頼れるお局さんとしてみんなから信頼されていましたのよ」
マイカーの助手席におばあさんを乗せ、現世に降りる間もこの人、ずっとしゃべりっぱなし。
「でも隣の佐々木さんって人がね、それはもう性格の悪い人で、陰で私の悪口ばかり言っているんですのよ、ハゲのくせに」
今お前が言ってるのは何だっていうのだい、送られてきた報告によれば、この人の言っていた精霊馬は結局確認できなかった。
「私は夫からはそれはもう慕われていましたのよ、俺はお前がいないと何もできない、とか言われて」
この人のデーターがスマホに送られてくる、夫とは、この人が鬼籍に入る数年前には離婚している。
「ほらここが、私たちが住んでいた家よ、今でも私のことを待っているはずだわ」
「誰もいませんね、この家、売り家になってますけど」
「あ、あら、おかしいわね、いえ、あの人のことだわ、きっとこの家にいると私との思い出が蘇ってつらくなるから、どこかに引っ越したのかも、あの人らしいわ」
元夫という人の所在地のデーターが送られてきた、ではそこへ行ってみましょうか。
閑静な住宅街、その中でも飛び切り豪華な家に、その元夫という人は住んでいた。
窓からやさしい明かりが漏れている、中に入ってみると、元夫を中心に、横には年配の女の人、その二人を取り囲むように複数の人間。
元夫の現在の妻とそして犬、妻の娘息子たちが、それぞれの伴侶と、かわいい孫たちを連れて、食卓を囲んで皆でワイワイやっていた、かわいい犬も数匹いる。
そんな家族を見守る家族もいる。
お盆で帰省していた現在の妻の元夫、妻の両親、元夫の両親、その両親たちとさらにその両親、かわいがっていた犬が八匹猫が二匹インコが一匹、この家の遺族たちだ、皆それぞれに優しい表情で元夫一家を見つめている。
「あらやだ、犬がいるの⁉あの人ったら口のついたものは鍋の蓋もいらんわ、って言っていたはずなのに!」
スマホに新たなデーターが。
鍋の蓋の話は、このおばあさんが、まるで名言でも言ったかのように繰り返し使っていた言葉であって、元夫は実は動物が大好きだったこと。
こうなったらと、おばあさんも負けじと元夫に念を送る、私はここにいますよ、さぁ私のことも弔いなさい、私を敬い奉りなさい。と。
しかし、その念は、家族たちの声、一番は元夫の幸せそうな笑い声に阻まれて届きもしなかった。
「あ、そうそう、私を弔ってくれるのは、この人じゃないわ、今思い出したわ、私のことを誰よりも信頼する私の息子よ、きっとそうよ!」
今まで忘れてたってことかい?と、スマホに送られてきたおばあさんの息子の情報。
まずは彼の家に行ってみる。
錆びた階段を上って一番端の部屋、今時珍しい共同トイレしかも和式、そして狭い彼の部屋四畳半。
「誰もいませんね」
狭い部屋なのに、空になったカップラーメンの器とか、コンビニ弁当の容器とか、くしゃくしゃに丸められたティッシュとかが、汚く散乱している。
「あらまぁ、こんなに散らかして、ノブコさんはいったい何をしているのかしら!」
送られてきたデーターによると、ノブコさんとは、このばあさんの息子の二人目の奥さん、なぜかあっという間に離婚しているそうな。
だとしたら、今この息子は、一人暮らしだ。
仕事先にいるらしい。
「まぁ、こんなお盆にお仕事だなんて、我ながら、仕事熱心な息子が誇らしいわ」
仕事先につきました。
建物には、老人介護施設と書かれている。
「まぁ、介護の仕事だなんて、なんて素晴らしい仕事なの、私に似てすばらしいわ」
息子さんを探して進むと、薄暗い施設の狭い部屋の息子さんと、彼が世話をするご老人がいました。
ベッドのシーツを取り換えているようです、世話をしている足腰の弱いご老人を車いすに強引に乗せ、今まで使っていたシーツをひっぺかして、新しいシーツを適当に引いていきます、しわくちゃのままです。
「あなた、私の財布取ったでしょ!」
「あぁ⁉」
「確かにこの枕の下にあったのよ、あなた取ったわよね、この泥棒!」
「いや、取ってねーし」
どう見ても、介護を受けているこのご老人の、痴呆のせいに思えます。
「だれかぁ、この人泥棒よぉ、誰かぁ、助けてぇ、こいつに殺されるぅ!」
暴れるご老人、しかし周りのスタッフたちも、この人のいつもの行為だということで、見向きもしません。
息子の声が聞こえてきました。
「何なんだよこのばばぁ、おかんか!」
おばあさんの喉の奥から、変な声がしました。
「最悪最低の嘘つきかおかんを思い出したわ、もともと財布なんかねーし、暴力だって加えてねーのに、話を大きくするとこなんか、まるでおかんだ、いや、この患者のほうが痴呆だってことでまだ可愛いか、あのおかんのせいで俺は人生を二回も狂わせたんだからなぁ」
新たなデータが送られてきます、その通りだそうです。
「確かに俺もマザコンだったと認めるところもあったわ、おかんの言うとおりにしていれば大丈夫と信じて、
最初の妻と、嫌だったけど離婚して心残りもいっぱいあったけど、
それでも、おかんの推薦する愛人だったノブコと再婚して、後悔しかないわ、
あんなに気の強い女だと思わなかったし、嘘、知ってたけど、
おかんがこの人とっていうから信じて結婚したってのに、
俺より先におかんがノブコの悪口言い出すってなんだよ、
おまけに愛人と再婚ってのが会社にばれて、高給だった会社も辞める羽目になって、
そのうえノブコが姑と縁を切るか私を選ぶかってときに、
おかんがノブコを他人扱いしたから、俺もキレておかんとの縁を切ったってのに、
ノブコとはそれから一年続かなかったしよぉ、それもこれも全部おかんのせいだ!」
ブチブチと愚痴る息子の心の声が聞こえてきます。
それは限りなくいつまでも続きそうなくらい。
「な、なによ、それもこれも、あんたのためにやったことなのに、私のせいにするなんてひどい!」
おばさんが声を荒げた瞬間、息子が後ろを振り返りました。
もしかすると、おばさんの声が届いたのかもしれません、しかし息子は、しばらく何もない壁を睨みつけた後
「気のせいか」
と、一言呟いて、暴れる老人を乱暴に持ち上げ
「だまれおかん!」 と、まるで八つ当たりのように、わき腹に蹴りを入れベッドに寝かしてやるなどして、適当に介護を続けていました。
「なんなの全く、何で息子が介護だなんて、社会の底辺みたいな仕事をする羽目になったのよ、それになに、ノブコさんと離婚したですって!」
親子の縁を切ったって言ってましたよね。
「きっと、私と縁を切ったことで、二人の仲が悪くなったんじゃなくて⁉ ノブコさんは、今でも私のことを慕ってくれているはず」
息子さんの話聞いてました?
それでもおばあさんを連れて、息子の元嫁、ノブコさんって方の家に行ってみましょう。
小さなマンションですが、部屋は小ぎれいに片付いて清潔感があります。
でもお留守です、探してみました、意外なところにいました。
この家は、さっきも来ました。
そう、おばあさんの元夫の家です、元夫とその現在の妻の元に集まっていた家族の中にいたのです、おばあさんは気付かなかったのでしょうか。
「な、何よ、今更あの人に取り付いて何を企んでいるのよ、もしかして財産目当て、あの女ならやりかねないわ‼」
でもなぜ、あの席に彼女がいるのでしょう、気になります。
スマホにまた、新たなデーターが。
読んでみます、おっとこれは、おばあさんの今の発言聞き捨てならない。
スマホの説明によると、おばあさんがこの元夫という人と離婚したきっかけというのが、元夫氏が膝を悪くしてしまい、車いす生活になる、となった時、おばあさんは捨てたのだ、この元夫氏を。
それも言葉巧みに まるで元夫氏のほうから離婚を言い渡したように仕向けるように。
酷っ。
「でしょう、本当にひどい話だわ、許さない、呪ってやる!」
私の心の声が漏れ聞こえたのか、だまれくそばばぁ、私は今てめぇに賛同したわけではない。
その後、一人になった元夫氏が、病院に通うようになって、そこでリハビリ科で働いていたノブコさんと再会するのである、ノブコさんが献身的にこの元義理の父を支え、治療したおかげで、今では車いすを使わなくても歩けるまでに回復したのだった。
そ の後、元夫氏は今の奥様と出会う訳だが、ノブコさんと今でもこうして交流があるわけで、そこにはくそばばぁの思うような腹黒い世界など微塵もない訳で。
でもくそばばぁは、元夫氏とノブコさんに対して、黒いオーラを放ち続けている、そんなことをしても無駄なのに。
元夫氏とその妻さんのご先祖様たちが、この黒いオーラを投げ返しているので、かえって自分の魂が汚れていくだけなのに。
いや、もともと最初から汚れていたのですけどね。
でもなんでこんな奴が極楽に来れたのだろう、謎だ。
するとまたスマホが震えた。
――いやぁ、最初は善人のふりをして、紛れ込んできたんだよね、見抜けなかった我々の責任だ、あっはっは――
あっはっはじゃないよ。
でもこれで、このくそばばぁのくそクズぶりが解ったんだから、もう帰っていいよね。
「くそば……おばあさん、あなたの嘘つきぶりがこれで判りましたので、帰りましょうか、あなたの来世は、くらや――」
「何を言っているの、私が嘘つきなわけないじゃない、今までのは恩知らずの家族を見てきただけなのよ、今度はちゃんと私を思ってくれて精霊馬を作ってくれた人のところに行くに決まってるでしょ!」
私の言葉を遮って、ばばぁはヒステリックに叫ぶ。
――最後の悪あがきにしか聞こえないが、とりあえず行ってやってくれ、これが最後だ――
着いたのは、少し古いが一軒家。窓から明るい光が漏れています、どうやらこの家の住人が、次のターゲットのようです。
最後の手段としてやってきたのは、くそばばぁの息子の、最初の嫁、ノブコさんの前に結婚していた女性の家です。
「まぁ、こんな古い家に住んで、よっぽど貧乏なのね」
最後の手段で、この人次第で、人間に生まれ変われるかどうかの瀬戸際だってのに。
その人は、台所にいた、シンクの前に立ってお皿を洗っていた。
「ほら見なさい、あんなところで一人さみしく皿洗いなんかして、息子を捨ててさみしい人生ざまぁ、だわ」
お皿洗いなんて誰でもするだろ、それに洗っているのは、ビールのジョッキが二つ、それまで美味しい料理が乗せられていたお皿が複数枚、お箸だって細いのと太いので二膳あるし。
それに今彼女、楽しそうに鼻歌なんか歌ってるよ。
「さぁ、ざまぁな元嫁よ、私を敬わなかった罰が当たった罰よ、今からでも遅くはないから、私を敬いなさい」
黒いオーラを放つ。
っていうか、くそばばぁよ、本来の目的は、無理やりひざまつかせる事じゃないだろう、てめぇの嘘つきぶりを見るためだったのに、てめぇの今の行為は、私は嘘つきでした、この女も、私のことなど見向きもしてませんと、自分から言ってるようなものだ。
それまでご機嫌だった彼女、急に鼻歌が止まり、眉間にしわが。
お皿を洗う手が止まった。
「うわ、最低、何でこのタイミングで、元姑のことなんか思い出すん」
くそばばぁの念が、彼女に届いたみたいだ。しかも、その思い出した内容のあまりにもクズっぷりは、証拠として協会幹部にも届いているはずだ。もう来世の選択肢は一つしかない。
「しかも、思い出したくもなかったクソなシーンばっかり、くっそぉ」
「さぁ、いい感じだわぁ、さぁ、さぁ、もっと苦しめ、私を敬うがいい、存分に私を崇め奉るがいいわ!」
まるで暗黒魔王のように、彼女に黒い念を送り続ける、だめだ、それ以上送り続けたら、彼女が!
「お盆か‼ お盆やからか‼ だからこんなクソボケばばぁを思い出してしまうんか‼‼‼」
やっぱり、ブチ切れた!
彼女の強い念が、くそばばぁの黒いオーラを打ち消してゆく。
「何でここに来るんや、てめぇのことなんかもう知らんし、うざいし、二度とその薄汚いツラ見せんな、人の皮被っただけのヘドロがっ!」
酷い言われようだ。
「どうせあちこちに行って、全てに拒否られてここに来てしもうたんか、それで帰れねぇってんなら、せめてもの弔いや、なすびで作った精霊牛にロケットエンジンとナパーム弾付けて送り返してやらぁ‼」
大きな武装されたなすびが目の前に現れた、しかもくそばばぁの体が、そのなすびの中にめり込んで逃げれそうにない、顔だけ飛び出してる情けない格好になった。
はい、ドーーーーーン‼
キラーン☆
え、ちょ、ちょっと待ってぇ、そんなに急に急いで私より先に帰ってどうするのよぉ、そんなに来世は、永遠に暗闇のヘドロにうごめくゲジゲジで過ごしたいのぉ~?
読んでいただきありがとうございました。
このお話はだいたいフィクションです
義両親の離婚の話は、参考にさせてもらいました。元姑はそういう人だったですね。
そして今、元姑のことを思い出そうとしても思い出せません、不思議ですわ笑




