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女子2人に振り回されすぎて生きるの疲れた  作者: 藤原・凛


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7/8

碁盤の向こう側

放課後のチャイムが鳴った瞬間、教室の空気が一気に緩んだ。椅子が引かれる音、鞄のファスナーが閉まる音、その中で、とうもはぼんやりと窓の外を見ていた。


「なあ、とうも」


声をかけてきたのは、藤原健人(ふじわら けんと)だった。いつもの気だるそうな笑顔を浮かべている。


「今日、予定ある?」


「……特にない、かな」


そう答えると、健人はニヤッと笑った。


「じゃあ決まり。囲碁部、来いよ」


「囲碁部?」


「そ。碁盤に石置くだけの、平和な世界だ」


その言い方があまりにも雑で、とうもは少し笑ってしまった。


囲碁部の部室は、校舎の端にあった。扉を開けた瞬間、線香のような匂いと、独特の静けさが広がる。


……いや、静けさは一瞬だった。


「おっ、誰だよそいつ」


低くて、少し荒っぽい声。


部室の奥、椅子に片足を乗せて座っていたのは、松田陸(まつだ りく)だった。金に近い茶髪、ピアス、制服は着崩されている。どう見ても、ヤンキーだった。


「新入り?」

「違う違う、見学。な、とうも」


健人が軽く肩を叩く。


「ふーん」


陸はとうもを上から下まで見て、鼻で笑った。


「弱そう」


「いきなり失礼じゃないですか、部長」


その声に振り向くと、藤本先生(ふじもと せんせい)が立っていた。にこにこしているが、目だけは鋭い。


「碁盤、割らないでくださいね?」


「はーい」


陸は棒読みで返事をする。


碁盤を挟んで、とうもは健人と向かい合った。


「ルール、分かる?」


「……石、取る?」


「大体合ってる。まあ、やりながら覚えろ」


健人の説明は雑だったが、不思議と分かりやすかった。石を置くたび、盤上の世界が少しずつ変わっていく。


「お、意外と悪くないじゃん」


陸が後ろから覗き込む。


「初めてにしては、な」


褒めているのか、馬鹿にしているのか分からない口調。でも、とうもは嫌な気はしなかった。


途中、ふと集中が切れた瞬間、脳裏に別の顔が浮かぶ。中村結衣(なかむら ゆい)の横顔。


「……」


その瞬間、石を一つ取られた。


「今の、完全に心ここにあらずだろ」


健人が笑う。


部室の入り口では、春香(はるか)が腕を組んで立っていた。何も言わず、ただじっとこちらを見ている。視線が合うと、ぷいっと顔を背けた。


とうもは、その小さな変化に気づかなかった。


対局が終わる頃には、外はすっかり夕焼けに染まっていた。


「まあ、悪くなかった」


陸が立ち上がりながら言う。


「また来いよ。逃げたら許さねえから」


それは脅しのようで、どこか仲間扱いの言葉にも聞こえた。


健人はとうもの背中を軽く叩いた。


「な? 言っただろ。平和な世界」


「……嘘つき」


そう言いながら、とうもは少しだけ笑っていた。


碁盤の上で生まれたこの時間が、これから先、何かに繋がっていく。そんな予感だけが、静かに残っていた。

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