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女子2人に振り回されすぎて生きるの疲れた  作者: 藤原・凛


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5/8

既読のあとで

目が覚めた瞬間、天井の白さに少しだけ安心した。

ここはヘントじゃない。福岡だ。


枕元のスマホが、静かに光っている。


……LINE。


しばらく見つめてから、画面を起こした。


通知は昨夜のまま並んでいた。

一番上に、橘陽花(たちばな はるか)の名前がずらっと続く。


「おはよ!」

「昨日返事なかったけど大丈夫?」

「もしかして時差?w」

「既読だけでもつけて〜」

スタンプが一つ。

意味のわからない、踊っている猫。


その下に、ぽつんと一件。


藤原健人(ふじわら けんと)

「起きてるか」


短すぎて、逆に現実感があった。


深呼吸してから、親指を動かす。


健人には、

「起きてる。行く」


それだけ。


陽花には……少し迷ってから、

「おはよう。昨日寝てた」


すぐに既読がついた。


「え!?今!?」

「おはよー!!!」


通知が連続で鳴り始めたので、スマホを伏せた。


……うるさいけど。

嫌じゃない。


制服に着替え、玄関を出る。

朝の空気は澄んでいて、昨日より少し軽く感じた。


学校に着くと、まだ教室は静かだった。

席に座って鞄を置くと、後ろから声がする。


「とうも!」


振り向く前に、机を叩く音。


橘陽花(はるか)が、満面の笑みで立っていた。


「既読ついたー!!生きてたー!!」


「……生きてます」


「昨日ずっと返事なくてさ〜、ちょっとだけ心配したんだからね?」


“ちょっとだけ”という言い方に、少しだけ違和感を覚える。

でも、それ以上考える前に、彼女はもう次の話題に移っていた。


「今日さ、体育あるよ!とうもさん、走れる?」


「……たぶん」


「その“たぶん”怪しいんだけど〜!」


笑いながら、陽花は自分の席へ戻っていく。

その背中を見送りながら、僕はふっと息を吐いた。


隣の席に、藤原健人(けんと)が座る。


「来たな」


「うん」


「昨日、返事なかったから消えたかと思った」


「そこまでじゃない」


「じゃあセーフ」


それだけの会話。

でも、不思議と落ち着く。


チャイムが鳴り、藤本先生(ふじもと せんせい)が教室に入ってくる。


「はいはーい、おはようございます。今日は昨日の続き、グループ作業やりますよー」


軽くざわつく教室。


健人が僕の方を見て、ぼそっと言う。


「今日もよろしくな。外国人枠」


「それ枠なんだ」


「便利だからな」


作業は淡々と進んだ。

健人は要点をまとめるのがうまくて、僕は資料を探す役に回る。

気づけば、会話も自然になっていた。


「とうも、そこ違う。漢字」


「……あ、ほんとだ」


「まあ意味通じるからヨシ」


「ヨシなんだ」


「日本は雰囲気だから」


そんな適当なアドバイスに、思わず笑ってしまう。


ふと視線を上げると、教室の向こうで中村結衣(なかむら ゆい)がノートを閉じて立ち上がっていた。

静かで、無駄のない動き。


一瞬だけ、胸がきゅっとなる。


「……」


「おい」


健人の声で我に返る。


「今、完全にどっか行ってたぞ」


「え、あ……ごめん」


「まあいいけどさ」


視線の端で、橘陽花(はるか)がこちらを見ているのに気づく。

腕を組んで、口を少し尖らせている。


目が合うと、すぐにそっぽを向いた。


……よく分からない。


授業が終わり、チャイムが鳴る。


「じゃ、また明日な」


健人は軽く手を挙げて出ていく。


陽花がこちらに来る。


「とうもさん、さっき何見てたの?」


「え?」


「ずっと遠く見てたからさ」


「……何でもない」


「ふーん」


納得してない顔。

でも、追及はしない。


「帰ろー!」


また腕を引っ張られる。


教室を出ながら、僕は思う。


昨日より、少しだけ前に進んでる。

過去は消えてないけど、今はちゃんとここにある。


「……今日も、悪くないな」


小さく呟くと、陽花が振り返った。


「なに?」


「なんでもない」


そう答えた。

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