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女子2人に振り回されすぎて生きるの疲れた  作者: 藤原・凛


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4/4

既読のつかない夜

放課後。

LINEを交換して、少しだけ世界が広がったはずなのに、とうもの心はなぜか静かだった。

新しい人間関係、新しい街、そして忘れたはずの過去――夜は、思い出を選ばず連れてくる。

教室を出る前、橘陽花(たちばな はるか)が勢いよくスマホを差し出してきた。


「はいはい!LINE交換ね!逃げないでよ、とうもさん!」


ほとんど反射でQRを読み取る。隣では藤原健人(ふじわら けんと)が面倒くさそうに同じ動作をしていた。


「よろしく。困ったら俺に聞け。大体、悪化するけど」


「ちょっと!それフォローになってないでしょ!」


二人のやり取りを聞きながら、僕は小さく笑った。

ほんの数秒の出来事なのに、胸の奥が少しだけ温かくなる。


放課後のチャイムが鳴り、教室は一気に帰宅モードに切り替わる。

僕も流れに乗って学校を出た。


夕方の空気はまだ暖かくて、福岡の街は穏やかだった。

電車の揺れ、知らない駅名、聞き慣れないアナウンス。

全部が新しくて、なのにもう少しだけ日常になり始めている。


アパートに着き、靴を脱ぎ、鞄を床に置く。

そのままベッドに倒れ込んだ。


……静かだ。


天井を見つめながら、ポケットの中でスマホが微かに震えるのを感じた。

でも、手は伸びなかった。


視界の隅で、記憶が滲み始める。


──ヘントの冬は、いつも灰色だった。


冷たい風。

濡れた石畳。

駅前のカフェで、向かいに座る彼女の目は、もう僕を見ていなかった。


「ごめん。もう無理」


それだけだった。


理由を聞いた気がする。

聞かなかった気もする。

どちらにしても、答えは同じだった。


帰り道、スマホを握りしめたまま、何度も画面を見た。

でも、メッセージは増えなかった。


それ以来、何かを期待するのが怖くなった。


ベッドの上で、ゆっくりと息を吐く。

ここは日本だ。

ヘントじゃない。

あの冬も、あのカフェも、ここにはない。


それなのに、胸の奥の違和感だけは、ちゃんとついてきていた。


スマホがまた震える。


今度は少し長め。


……それでも、見ない。


画面を伏せたまま、目を閉じる。


頭の中に浮かぶのは、静かに歩く中村結衣(なかむら ゆい)の後ろ姿。

それと同時に、やたら近くて、うるさくて、まっすぐな橘陽花(はるか)の声。


混ざると、整理がつかない。


再び振動。


さすがに一度だけ、画面を覗いた。


通知が並んでいる。


橘陽花(はるか)

「無事帰った?」

「ねえとうもさん!」

「既読つかないんだけど〜!」

「寝てる?まだ早いよ!」


その下に、一件だけ。


藤原健人(ふじわら けんと)

「明日、資料忘れるな」


短すぎて、逆に笑いそうになる。


スマホを胸の上に置き、しばらくそのままでいた。


返事は、しない。


今はまだ、整理できない。

始まったばかりの毎日と、終わったはずの過去が、同じ場所にある。


「……ほんと、面倒だな」


誰に向けた言葉かも分からないまま、小さく呟く。


目を閉じると、福岡の夜が静かに部屋を包んでいた。

第1話を書いたときのワクワクがそのまま残ってて、気づいたらこの章も書いてました。

読んでくれてるみんなと同じくらい、自分も楽しんでます。

次もよろしくお願いします!

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