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第6話:オフ会への誘いとメンバーの動揺

1. シオンの安定感とユイナの動機


ユイナは、イベントクエストをこなす中で、シオンの動きから一時も目が離せなくなっていた。


シオンは、戦闘中に一切の私情を挟まない。アバターの無駄なエモートも、彼女の操作からは発動しない。まるで、ゲームの世界に入り込みながら、現実の肉体の限界を知り尽くした動きをしているようだ。


(──シオンの安定感、マジかっけーな……。いや、それだけじゃない。他のメンバーは、ゲーム内で「理想の自分」を演じているけど、シオンは違う)


ユイナは考える。自分は浪人生の自分を忘れ、明るいリーダーを演じている。ナノは疲弊したSEの自分を忘れ、完璧な知性を演じている。マリーは真面目な公務員の自分を忘れ、闇の魔女を演じている。ルルは──……ルルは、まっ…いっか。


だが、シオンは「演じている」というより、「そのままの彼女」として、そこに立っているように見えた。白い外套、妙に姿勢の良い立ち方、冷静で的確な声。アバターと中の人の間に、最もギャップがないのはシオンなのではないか。


「ねえ、シオン」


クエストの合間、ユイナはシオンに問いかけた。


「シオンってさ……もしかして、現実でも、かなり運動神経良い?」


シオンは白い髪を揺らし、首をかしげた。


「そうね。少しだけ、武術の嗜みがあるわ」


「やっぱり!」


ユイナの大きな胸がぴょんと跳ねた。あの動きは…単なるゲームの経験値ではない。現実のフィジカルがそのまま反映されているのだ。


ユイナは、知らず知らずのうちに、パーティーメンバーたちと『仲間意識』を強めていた。性別も年齢も知らない、声だけ、アバターだけの関係。それでも、ナノの的確な指示、マリーの爆発的な魔法、ルルの陽気なムード、そしてシオンの絶対的な信頼感は、現実の雄一には得られなかった「最高のチーム」だった。


この最高のチームが、アバターを脱いだ時、どんな人間で、どんな生活をしているのか。


「この友情が、アバターの虚飾で終わってほしくない」


ユイナは、ある決意を固めた。


2. オフ会への誘いとメンバーの動揺


イベントクエストを完走し、全員が特典の派手な花の冠をかぶる。


「はい、強制集合写真撮るよー!」


ユイナがエモートで無理やり全員をカメラに収めようとする。


「笑って! 三、二、一……キュートポーズ!」


――カシャッ。


フィールドの花びらが風に舞い、無駄に可愛いポーズで五人の少女が並んで微笑んでいた。


《リリカルハーツ》 初の公式イベント参加記念写真。ユイナは、この写真を思い出として大切に保存した。


そして、ログアウト直前、ユイナは意を決して切り出した。


「ねぇ、みんな」


全員の視線がユイナに集まる。


「今度、リアルで会ってみない? オフ会!」


その瞬間、広場のファンシーなBGMが、一瞬、不協和音を奏でた気がした。


一番に反応したのは、ルルだった。


「オフ会!? いいじゃん、楽しそう! ユイナに会いたい!」


「え、ルルは即答!?」


ユイナは安堵半分、驚き半分だ。


マリーは、ステッキを持つ手が、僅かに震えていた。


「わ、私ですか? リアルで、ですか……? わたし、ゲーム内の『闇の魔力』どころか、現実だと筋力も魔力も少なめなんですけど……」


ナノは、顔を覆うメガネの奥で、瞳を大きく見開いていた。


「え、オフラインですか……? ちょ、ちょっと待ってください。『声のフィルター』無しで会うということですか? データ的に、それはハイリスクではないでしょうか」


ナノとマリーは動揺を、隠しきれなかった。オフ会の緊張感を先取りしたかのように、無意識に敬語になっていた。彼らは、アバターの裏に隠した「俺」の現実を、誰よりも守りたかったのだ。


そして、シオン。


白い外套を翻したシオンは、ユイナを静かに見つめ、微笑んだ。


「オフ会……いいわね。わたしも、みんなに会ってみたい」


その返答は、あまりにも自然で、迷いがなかった。


ユイナ(中の人:浪人生・神崎)の心臓が高鳴る。

「仲間」とのリアルな接触。

そして、シオンという謎の、核心に触れるチャンス──。


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