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第5話:花の祭典イベントとリアルへの招待

1. 花の祭典:ファンシーの暴力


季節は春。SMOの商業都市「フローラル・シティ」の広場は、春限定イベント《花の妖精祭》によって、ファンシーの暴力とも言うべき装飾で埋め尽くされていた。


「うっわー! ピンク! ピンク! 虹色! 眩しい!」


ユイナは、両手で顔を覆った。

広場を埋め尽くすのは、花のアーチ、フリルやレースが施された屋台、そしてフィールドBGMは、三拍子のやたらと可愛らしいマーチがループしている。


「今日の目的は、花びら収集と防御値が怪しい衣装ゲットね!」


ユイナがミッションリストを確認する。今回のイベント報酬は、見た目に振り切った装備ばかりだった。


「このゲーム、やっぱりおかしいわ。『可愛さ』がそのまま『防御値』に直結する設定なのよね」


ナノが、街中のNPCの衣装をスキャンしながら眉をひそめる。


「そうよ。私たちのアバターの『乙女度』が上がれば、相手の『殺意』を削ぐという、極めて非論理的なシステム。だけど、それがSMOのルールよ」


ユイナは、もはやこの「美少女の皮」を被った世界の理不尽さにも慣れてきていた。


2. マリーの解放区


「わー! このスカートが短すぎる衣装、可愛すぎ!」


ルルが、イベント限定ショップの試着ウィンドウをタップする。画面に表示されたのは、花の妖精をモチーフにした、驚くほど露出度の高いミニスカートとトップスだ。ミニと呼ぶには短すぎる丈。トップスもギリギリ胸が隠れているサイズだ。


「こんなもの誰が着るんだよォー!」


皆が吹き出して、爆笑してしまうレベルだ。


「ルル、それ、防御値はどうなってるの?」


ユイナが聞く。


「『花びらのベール』という設定で、物理防御はゼロだけど、精神防御と魅力値がカンストしてる!」


ルルが自慢げに説明する中、ナノは冷静に分析していた。


「一応、魔法布製で防御値は上がるらしいわよ。倫理観は下がるけど」


「倫理観はゲーム内ならどうでもいいの!」


ルルは満面の笑みだ。


その傍らでマリーが、イベント限定のステッキを構えていた。彼女の表情は、他のメンバーの喧騒から隔絶した、真剣なものだった。


現実では、市民課に努める真面目な職員だ。クレーム対応、マニュアル遵守、上司の顔色を伺う日々。彼の本性は、幼少期から抱える「非日常への憧れ」と「中二病的な自己表現欲求」だったが、現実の堅苦しい制服と公務員の肩書が、それを許さない。


SMOのマリーというアバターは、彼の「解放区」だった。ゲーム内で、どれだけ大袈裟に、どれだけ壮大に「闇の力」を演じても、誰も彼を冷めた目で見ない。むしろ、面白がってくれる仲間がいる。


「我が花の魔力よ、闇を越えて、光の奔流を解き放て! スプリング・ブレイク!」


マリーは、新しい詠唱を、周囲のキラキラとしたBGMに負けない声量で叫んだ。杖から、ピンクと黒の粒子が混ざったような、禍々しくも美しいエフェクトが立ち上る。


「マリー、イベントでまた変なスキル名考えてきたな…」


ユイナが苦笑する。


「いいじゃない! 闇と光の融合! これこそ、真の魔術師の到達点よ!」


マリーの瞳は、現実の職場で疲弊したそれではなく、自己肯定感に満ちた輝きを放っていた。


3. 怪しい衣装と倫理観


「詠唱はいいけど、敵が来たよ!」


ユイナが警告する。

マリーの背後から、花の冠をかぶり、背中に蝶の羽を生やした妖精型モンスターが、高速で襲いかかってきた。


「来たっ、戦闘入るよ! シオン、前衛お願い!」


ユイナが、マリーとルルを庇うように立ち位置を指示する。ヒーラーのシオンを前衛に立てるという、このギルド特有の戦術だ。


白い外套のシオンが前衛に出て、短剣を構えた。妖精モンスターの動きはトリッキーだが、シオンの反応速度は、その動きを完全に上回っている。


シオンの短剣が、光の粒を舞わせながら、妖精の羽の根元を正確に裂いた。冷静な一撃。妖精は悲鳴と共に、大量の花粉とアイテムをドロップした。


「うわぁぁぁぁン、シオンの安定感、マジかっけェー!」


ルルが歓声を上げる。


「うん、頼もしいね! スクショ撮っとこ!」


ユイナが戦闘中にもかかわらず、エモートでカメラを起動する。戦闘中の写真撮影も、SMOの流儀だ。


このイベントの間に、ルルは試着していた「短すぎる衣装」を、防御力の高さに惹かれて購入していた。


「見て、ユイナ! これで移動速度も上がった!」


ルルがぴょんぴょん跳ねる。

低身長のルルですら、マイクロミニから三角地帯が見え隠れするほどの短さ…。胸も下側の曲線が丸見えだ。


「ねぇナノ……」


完全に舞い上がっているルルは置いといて…、ユイナは、常に冷静なナノに問いかけた。


「これ、確かに防御値は上がってるけど……リアルで着てたら変t…いや…完全に事案だよね?」


本当は”変態”だと言いたかったようだ。

それを受けてナノは、データウィンドウを閉じ、ため息をついた。


「ええ。このゲームの『可愛い』という価値観は、現実の倫理観を完全に無視しているわ。この衣装は、アバターの可愛さを最大限に引き出し、一時的に敵の行動を鈍らせる効果がある。つまり、『可愛さ』という名の麻薬よ」


しかしマリーは、思いっきり中二病のポーズを取り、こう言い放つ。


「まぁ、それが楽しいんだけど!」


イベントクエストは、シオンの完璧な安定感と、マリーの解放された魔法、ルルの高火力、そしてナノの分析で、スムーズに進行した。


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