表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/9

第4話: 大勝利と、シオンへの深まる謎

1. ナノの決意とシステム解析


ナノは現実の仕事で培った「異常な状況での冷静な分析力」をフル回転させた。


(異常な状況での冷静な分析力)


脳裏に浮かぶのは、深夜のオフィスで、膨大なエラーログと格闘していた自分だ。バグだらけのシステム。マニュアル通りにいかない顧客。非効率で無駄な会議「私は、無駄を許さない。システムは、効率的でなければ意味がない」


ナノは、このゲームの「可愛さ」という無意味な強制システムに、現実世界の非効率さを重ねていた。そして今、ルルの「キュートポーズ」は、その非効率さの極致を生み出している。


しかし、ナノは気づいた。


「違う! これはバグじゃない! 仕様だよ!」


ナノは、ぷにぷにスライムの行動パターンと、ルルの「キュートポーズ」のログデータを瞬時に照合した。


「ルルの『キュートポーズ』は『強制挑発』スキルよ! 発生した『ハートエフェクト』は、敵の『可愛さ耐性』を一気にゼロにし、すべてのヘイトをルルに集中させる!」


ナノの説明を聞いて、ユイナが叫ぶ。


「そんなスキル、誰が使うの!」


「誰も使わない! だから、これは『武器』になるのよ!」


そう叫んだナノの瞳が、現実世界の直人が仕事中に見せる「解けない問題を解き明かす」ときの冷徹な光を帯びた。


「非効率なシステム? なら、それを逆に利用して、最大の効率を生み出せばいい!」


ナノは冷静沈着な声でそう言い、周囲に指示を飛ばした。


「シオン! ルルのHPは私が指示するまで、一気に全回復させないで! ギリギリを保って!」


「わかった」と、シオンが返事を返す。


シオンは状況を理解できないまま、白い外套を翻し、最小限の回復魔法をルルに放つ。その正確な回復量は、ナノの指示と寸分違わなかった。


「ユイナ、マリー! ルルの周囲にいるスライムだけを攻撃して! ルルが『キュートポーズ』で強制的に集めた『ターゲット集中状態』を利用して、一気に範囲攻撃をかけるの!」


「集団ターゲットを、強制集敵に利用するのね……!」


ユイナは目を見開いた。


「私は魔力温存!」


マリーは中二病の詠唱を封印し、地味だが確実な低級魔法を、ルル周囲のスライムに打ち込む。


ルルのアバターは、可愛いポーズを取り続け「私を見て!」というエフェクトを出し続けている。しかし、その周囲に集まったスライムの群れは、ユイナとマリーの集中攻撃によって、花びらを撒き散らしながら次々に消滅していく。


そしてナノの指示通り、シオンの完璧なヒールが、ルルのHPを死なせないギリギリで維持し続けた。


非効率の極みである「可愛すぎるポーズ」が、最高の「集敵スキル」へと変貌した瞬間だった。


2. 勝利とシオンの深まる謎


スライムの群れは、急速に数を減らし、やがて全滅した。


ポーズの硬直が解けたルルは、へたり込みそうになるアバターを剣で支えながら、荒い息をつく。


「ナノ……あんた、凄すぎ!」


「ふぅ……」


ナノは、疲れたように息を吐いた。

アバターは汗をかかないが、中の人の田中直人は、現実で大量の汗をかいているだろう。


「システムはバグじゃない。可愛さという強制ルールの中で、最も効率的な解決策を導き出すこと。それが、このゲームの真の攻略法よ」


ナノの目には、システムを支配し、無駄を排除した者だけが得られる、冷静な満足感が宿っていた。現実の仕事で得られなかった「システムの完全制御」を、この「美少女の皮」を着た世界で初めて掴んだのだ。


「ナノは天才だよぉー!」


ユイナは、心からナノを讃えた。


その時、ナノの隣で、シオンが静かにロッドを仕舞った。


「ナノの指示は的確だった。私も『可愛さ』を戦闘に組み込むのは、初めてだったから。いい経験になった」


シオンはそう言いながら、ナノに向かって、完璧に無駄のない「お辞儀エモート」をした。

ユイナは、シオンのその「無駄のなさ」に、改めて違和感を覚えた。


システムに抗うルル。

システムをハックするナノ。

そして、シオンは――システムに完全に順応し、常に最適解を導き出す。


彼女が、誰なのか。何の目的で、この「美少女モード」を極めようとしているのか。


「シオン……」


「どうしたの、ユイナ?」


シオンは、白いコートの襟元を直し、ユイナの顔を見た。


その時、ユイナの胸に、ふと疑問が浮かんだ。

シオンは、他のメンバーのようにアバターの『可愛さ』を喜びもしなければ、その『非効率さ』に苛立ちもしない。

ただ、任務を遂行する機械のように、完璧に動く。


ユイナは、このギルドが、単なる「可愛いアバターで遊ぶ会」ではなく、それぞれの現実の欲望と、裏の顔が交錯する場所になりつつあることを、予感した。


「ううん、なんでもない。さあ、奥に進もう」


ユイナは笑顔でそう答え、仲間たちと共に、森のさらに奥へと進んでいった。



次回:花の祭典「エッチ衣装と倫理観」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ