表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/9

第1話:ログイン「少女たちの開戦」

ユイナ(中の人:神崎雄一、19歳・浪人生)

ナノ(中の人:田中直人、24歳・システムエンジニア)

ルル(中の人:鈴木亮、17歳・高校生)

マリー(中の人:佐藤正、35歳・市役所職員)

シオン(中の人:秘密)

春。窓の外は穏やかな夕暮れのオレンジ色に染まっていた。ユイナ──本名、神崎雄一かんざき・ゆういちは、汗で張り付いたTシャツの首元を引っ張る。目の前には赤本と、大量の学習参考書が積み上がっていた。


「くそ……また今日も全然集中できなかった」


ため息と共に、雄一は椅子に深く沈み込んだ。


予備校の授業を終えて帰宅し、夕食もそこそこに勉強机に向かう毎日。志望校の判定は相変わらずE判定。現実の自分は、理想とは程遠い、ただの「冴えない浪人生」だった。


そんな現実から逃れる唯一の場所が、今夜、正式サービス開始を迎えるVRMMO《少女モードオンライン》、通称SMOだ。


SMOが異例中の異例と言われた理由は一つ。「全プレイヤー、強制的に美少女アバター」というシステムだ。性別、年齢、体型に関係なく、ログインした瞬間、プレイヤーは均整の取れた「美少女」としてゲーム世界に放り込まれる。


開発元は「女性ユーザーの獲得と、男性プレイヤーへの新しい体験の提供」だと嘯いていたが、雄一を含め多くの男性プレイヤーの目当ては「誰にも邪魔されない、理想の美少女像」を演じること、そして「可愛い女の子たち」と一緒に冒険することだった。


「これで……俺も美少女か。誰にもバレずに」


雄一は、VRヘッドセットを装着し、ゆっくりと横になった。ヘッドセットの電源を入れると、一瞬で視界がデジタルな青に染まる。


「ようこそ、SMOへ。キャラクターデータを確認します。性別:男性。年齢:19歳。──アバター生成を開始します」


機械的な女性の声が耳元で響く。脳内に直接流れ込むような、リアリティを追求した振動。アバターの生成は、プレイヤーの潜在的な「可愛い」イメージをAIが解析し、自動で最適化するという触れ込みだった。


雄一が選んだのは、、腰まで流れる金髪のストレートヘアに、透き通った緑の瞳を持つ、整った顔の清楚系美少女。


──つまり、理想をそのままデータ化したような姿だった。


「……ユイナ。これが、俺の名前だ」


現実の雄一には、リーダーシップも、華やかさも、自信もなかった。しかし、ゲームの中でなら、このアバターを通して「理想の自分」を演じられる気がした。


最終確認のウィンドウが消えた瞬間、彼の意識は肉体から切り離された。


2. 少女アバターの誕生


風が、やたらとドラマチックに指先をすり抜けた。


現実のそれより湿度も温度も低い、VR特有の、情報として肌に伝わる涼風。それは、金色の髪の毛を、信じられないほどの精緻な物理演算と共にふわりと揺らした。


──ログイン完了。


世界が開けた瞬間、強烈な草原の光が、雄一ユイナを包む。視界いっぱいに広がる鮮やかな緑と、キラキラと輝く巨大な湖。


ユイナは、この瞬間を心待ちにしていた。


《リリカルハーツ》のコアメンバーは、元々、別のVRMMOで知り合った仲間たちだ。互いに、中の人の情報をあえて伏せて、友情を深めてきた。全員強制美少女アバターという異色の新作VRMMO《SMO》の登場を知り「これなら、今の関係性を崩さずに遊べる」と、正式サービス開始に合わせて、この広大な草原での集合を約束していたのだ。


「うわ……ガチで全員、美少女じゃん!」


ユイナは辺りを見渡し、そのあと湖面に映る自分を見て歓喜の声を上げた。

透けるような白い肌。胸に大きく、ツンと上を向いた完璧な膨らみが、美しい曲線を描いていた。


「これが、俺? ……いや“私”か」


思わず赤面する。


──完全に別人である。


「やっばァ……」


その声もまた、あらかじめ設定しておいた「高品質ボイスフィルター(溌剌はつらつとした少女)」を通して発声されている。現実の声とは全く違う、高くて可愛い声だ。


声を聞きつけ、ユイナのすぐ横にいた少女が、腕を組んだまま冷静に口を開いた。


「この髪の揺れ方、物理演算が神がかってるわね」


彼女の名はナノ。ギルド《リリカルハーツ》の分析官だ。

淡い水色のショートボブに、知的な雰囲気を漂わせるメガネのアバター。


ナノ(中の人:田中直人、24歳・システムエンジニア)は、すぐに視界の隅へ分析ウィンドウを展開する。


「風速、光の屈折率、テクスチャの解像度。全てがハイエンド。特にアバターの髪と服の布地のシミュレーションは驚異的ね。これなら、戦闘中に『女の子の可愛らしさ』を最大限にアピールできるわ」


そこへ横入りする声。


「てか見て! まつ毛の影、ちゃんと動く! これは神ゲー!」


興奮気味に声を上げたのは、ルルだった。


ピンク色のツインテールが特徴の、元気いっぱいな少女アバターだ。

彼女が近づくと、甘い花の香りのエフェクトがふわりと漂う。

低身長でロリ体型。けれどそのお尻は…、思わず目を奪われるほどのラインを描いている。


ルル(中の人:鈴木亮、17歳・高校生)は、両手で頬を押さえて身悶えした。


「わたしのピンク髪! 可愛すぎて吐きそう! 誰だよ『アバターは派手な方が目立つ』ってアドバイスくれたの! 神かよ!」


「はいはい、私です」


落ち着いた声で答えたのは、マリー。

黒髪ロングにゴシック調の衣装をまとい、手には禍々しい装飾の施された木製の杖。

彼女はギルドの自称“魔導姫”。


高身長で、すらりとした脚と細いウエスト。まるでモデルのような立ち姿。なのに、これだ──…。


マリー(中の人:佐藤正、35歳・市役所職員)は、杖をくるりと回しながら中二病全開のポーズを決める。その優雅な仕草と、杖の高速回転のギャップが妙に笑える。


「我が魔力、ここに具現せり……! フィールド・オープン! チュートリアルスライムを我が餌食となす!」


「チュートリアルスライム相手に詠唱するなー! もう出てきてるよ!」


ユイナが間髪入れず、ツッコミを入れる。


そして最後に、白い外套を翻して一人立つ少女。

彼女こそが、このギルドの実質的な要、シオンだ。


雪のように白い髪と、端正な顔立ち。他のメンバーのように派手な装飾はなく、質素だが上質な白いコートを身に纏っている。その立ち姿は無駄がなく、湖面に映る姿が妙に姿勢が良すぎた。凛としている。


シオン(中の人:秘密)は、他のメンバーの喧騒を静かに見守っていたが、やがて前に出た。


「みんな、準備はいい? 最初のクエスト、受けるよ」


その声は、他のメンバーのボイスフィルターを通した声とは違い、少しだけ低く、落ち着いたトーンだった。ユイナたちは、シオンは「元々の声が低い系」なんだろうと勝手に納得していた。



次回:ギルド《リリカルハーツ》の初クエストへ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ