表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

4・豆栗

「なんか、違ったか?ゲームの仕事はそれしかしてないから、確かだと思うが?」

 と、勢雄さんは言う。

 

 ええ、専ら舞台ばかりに出演されて、中学生のあたしには敷居が高うございましたから、よく承知しておりますとも。

 クリス様が勢雄さんなんじゃ?と思いはしたものの、確かめる術はなくて……あれ?


「デイムメイカーって、勢雄さんクレジットされてないじゃないですか。クリス様も巧妙に隠されてるし。なのに、なんでイベントには出てるんです?」

 

 あたしの言葉を聞いた、勢雄さんはそっぽを向いてるし、志山さんは笑って、

「そのイベントで、情報を公開する筈だったのよねー」

 なんですと!

 

「あの、中止になったイベントですか?あ!だから、公式にも“誰が”倒れたのか書かれて無かったんですか!」

「そんなとこまで見てるのかよ。そうだよ、俺と共に発表したいんだと。……ったく迷惑な話だ」


「では!またイベントがあるんですね!」

「いや、今度はネット限定だと。リアルイベントはやらないって、聞いてるぞ?」

「…くすっ。また、血でも吐かれたら大変ですものね」

 と、言う志山さんの突っ込みに、

「あぁ、たまたま会場にフットワークの軽やかな看護師がいて、吐血と同時にステージに駆け寄って、息をするように応急処置を繰り広げる、なんてないだろしな。まあ、その節は世話になった」

 勢雄さん、それじゃあ、言い訳したいのか、お礼したいのか分かんないよ。


「私も、救急車で出勤させていただいて、一石二鳥でした」

「志山さん!勢雄さんの命の恩人!」

「命って…目の当たりにしたら、医療関係者なら当然だと思うよ」

「それでもです!ありがとうございます!」

「…ったく、お前は俺のなんなんだよ」

「ファンですけど?何か?」

「あー、ソウデスカ」


「ぷっ!あはは、おっかしい…!勢雄さんって渋さ売りにしてますって、見せかけておいて、若い子と漫才するんだ。いやー意外な一面を見せていただきましたわ。息ぴったり!」

 って、吹き出した志山さんは、目尻を拭いながら大笑いしている。


 あたしはなんとなく勢雄さんの顔に目が行って。

 そしたら勢雄さん、なんだか間の抜けた顔してて。

「ほら、勢雄さん。笑われてますよ?」

 って、突っ込んであげたら、

「お前さんだろ?」

 って、返された。

 

 志山さん、笑いすぎて咳き込み出したよ…。


 と、勢雄さんはすっとウォーターサーバーから水を持ってきてた。

 い、いつの間に。

 志山さんに渡して、背中とんとんして。

 …………う、羨ましくなんかないもんねっ!


───で。

 

 擦り合わせな訳ですよ。

 まず、

「スーラって、分かります?」

「クリスのとこの、メイドだろ?そうそう、そいつが二番目、生んだんだ。たしか旦那は……なんてったかな?」

「ラドス」

「そう!ラドス。でも変なんだよな?ラドスって、クリスの親代わりをしてた記憶もあるんだよな?なんでだ?」

 質問返しされちゃった。

 

 この人、ちゃんと設定を理解してるんだろうか?それとも設定の理解と演技は別物ってことなんだろうか?わかんないけど。


「それ、公式の設定じゃないです。まず、クリスの…メリクリオス家の使用人に名前はついてません」

 ウィキもなく、攻略したあたしをなめんなよ?

「クリス様の家庭環境は、クリス様が話すだけでビジュアルはないんです」

「…?じゃあ、わらわらといた…いや、四人か。茶髪のねーちゃんたちはなんなんだ?」

 

「少なくても、ゲームではないですね。……もしかして、設定資料的なものなんじゃないですか?ほら、キャラとか世界とか、プロなら踏まえるもんなんじゃないんですか?」

 知らんけど。


 すると、勢雄さんは言いにくそうに頭を掻いて、

「俺、そういう資料で深掘りするタイプじゃねーんだよな。だから、見てない。台本と現場のノリ。あとはディレクションで補完、でなんとかなんだよ」

 

 そういうものなのか?

 あたしはまだまだ雛っ子、なんだなって感じちゃった。

 

「考えるな、感じろって訳ですな」

と、志山さんがコロコロと笑いながら、あたしにウィンク。

 

「さすがに雑じゃねーか」

勢雄さんの探るような視線で、頭ポンポンされて。「セクハラじゃねーぞ」って、手を引っ込めたけど――寧ろ御褒美。

 

 あ、…気遣われてるんだ……?……もう…自己嫌悪。

 うー! えっと…

「さすが、プロ!て、ことですか?」

 なんて素頓狂なこと、言っちゃった。


「……で?結局それがなんなんだ?」

 あ、核心。


 志山さんとあたしは顔を見合わせて、頷きあった。

「スーラやらなんやらは、あたしも夢で見たんですよー。で。」

 

 バラエティー番組よろしく、手の平を志山さんに向ける。次どうぞ。

「図らずも、私も夢で見たんですよ。物語(ゲーム)で殺される子視点で、クリス様の二番目の子、ミリアの。」


 ん。わかるよ、勢雄さん。

 中二病を目の当たりにして、二の句が継げないね。

 呆れてるのか、可哀相なのか。

 そんな顔。

  

「……流行りのどっか行っちまう系か?お前ら、大丈夫か?」

「……まあ…私も実際、仕事中この病院でセイレン様見るまで、ただの夢なんだと思ってました」


「――はあぁ?病院で?この?」

「はい。この病院で、です――」


 すると、勢雄さんは拳で、とんとんって唇を叩いて黙ってしまった。

 長考。

 談話室のテレビの音。

 他の人の話し声。

 エアコンの音、がノイズのように流れ出す。

 ぼこっと、ウォーターサーバーが音を立てたとき、ようやっと勢雄さんが口を開いた。


「……殺される子って、ラウノか?」


 志山さんの目、後ろからぽんって叩いたら、ぽろって落ちそうなくらい見開いて頷いた。

 

 スーラ(あたし)が、いなくなった後のお話(展開)

 ――――あたしは、勢雄さんに何を教えたいのだろう?

 何を、分かってもらいたいんだろう。


「…はあぁ……」

 って、勢雄さんの深く長い溜め息。

 ご自分の頭をぐしゃぐしゃって掻きむしって。

 勢雄さんはあたしの顔をじいって見て、

 ふわって頭に手を置くと、ワシワシしてきた。

 お風呂の回数制限があるから、きれいじゃないですよ?とでも言いたかったけど、言えなくて。


「ま、そんな不思議なことも、あっていいじゃねーか?」

 って、ひどく優しい顔で微笑んでくれた。

「……それに」

 って、神妙な面持ちに変化して続けたのは、

「合わせるようでなんだが、俺のも夢だ。ここに運ばれて治療するのに痛み止め打たれて、朦朧としてて。たぶんあれだな、イベントの流れで、ワケわかんなくなってたのかな?」

 

 話を合わせてくれてるのかな?とも思ったけど、勢雄さんの手はずっとあたしの頭に置かれていて、むず痒い。

「で、たぶん脳内電波かなんかで共通の夢を見ましたな、お話なのか?」

 あ、勢雄さん、頭ワシワシ止めないで。

 離された手を名残惜しく眺めていたら、

「ここだけの話なんですけど」

 と、志山さんは、勢雄さんとあたしを引き寄せて、内緒話の体勢をとった。

 

 うんと、声を落として

「私が見たセイレン様が消えた時、ひとりの患者さんが亡くなったんです。きらきらと光って、天使みたいに消えたんです」


 昨日話してくれたことと、内容こそ同じだったけど、志山さんの言葉は熱を帯びていた。


「んー…その、なんか違うゲームの世界があるとしてよ?じゃあ、クリスが流行りのループしてるってのは、一体何なんだか見当つくか?」

 

「ループ?」

 あたしは、志山さんと顔を見合わせる。

「デイムメイカーに魔法はないですよ?」

「魔法かは知らん。黒髪の子と結婚して、その後――巻き戻った?そういや、いつもと違うって思ったっけ?」

 馬鹿話と一笑しないどころか、顎に手を当てて集中する勢雄さん。

 

「なかなかに、壮大でしんどそうな夢見てますね」

「だから、設定って思ったんだろ。俺が声を録ってない部分の――必要最低資料って勘違いしたんだろうよ。あまりにもエンディングの一枚絵だったからな」


 ――スチル、か。

 あ、もしかして、そう思ってあたしはスマホを探った。

 

「奥の手、になるかは謎ですが、これ見てみません?」

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ