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2──タヂカラ

 夜勤明け、約束通り風太は着替えを持ってきてくれた。

 洗ったブラウスは乾きはしたけど……うーん…人の血は消毒したいよね。

 

 ありがたく受け取った袋の中には……高校の時のジャージが入っていて――――いや、確かに部屋着だけどさ。

 部屋着なんだよ!って、言ったら、

「これ以外を着てる君が想像つかなかった」って、どんなさ!

 

 振るぞ!……と、ジャージを取り出すと、新品の春物のカーディガンとブラウスが現れた。

 私の好きな色。

 好きな手触り。


「貢献の戦士(看護師)殿に、心ばかりの報奨品です」

 って。風太ったら照れ臭そうに舌を出して、微笑んで。

 

 ……っもう、どんな殿様だよ。

 

「ありがたく頂戴致します」

 恭しく言ってやると

「うむ、苦しゅうない」

 この馬鹿話はいつまで続くんだろうね。


 新品の春色のカーディガンに袖を通し、しばしカフェで朝ごはんをした後、風太は仕事に、私は家路へと向かった。


 アパートの玄関に着いて、鍵を差してからはたと思う。

 スーパーに寄るの忘れた…!

 ……ま、いっか。

 一眠りしてからにしよう。


 で。

 シャワー浴びて、ジャージに着替えて、小ざっぱりして――眠りの前にセイレン様。

 なんだけど。

 流石にゲームの中とはいえ、何度も子供を殺すのは気が引けるんですよ?

 そろそろ攻略できないかしら?

 同じ所でぐるぐるして、お目当てのセイレン様とは、どうにもさっぱり進展が無い。

 ――のに、別の子と山賊になったりしちゃう。

 っうか、山賊エンド何種類あるのよ…このゲーム。 


 それ以上にやっぱりわかんないのは、町の子を殺す、やさぐれたセイレン様。

 

 理由なんてわかんない。

 そういうシナリオ。

 そこに偶然、通りかかるヒロイン。

 

 不敵な笑みで立ち去るセイレン様……

 ワケわかんないけど、けど顔がいいっ!

 でも、ヒトゴロシはダメだよ…


 ――――あれ?

 目の奥に、ずくんと痛み。

 あー、目蓋が重い。

 開けてらんない。

 うー、せめてセーブ……しなきゃ……。……


 …………

 ――――


 …………っはっ!何時っ!

 時計を見ると、まだお昼前。

 うわ…全然寝てない。

 それ故か、脳みそがだる重い。

 目を開けた、僅かな時間が気だるい。

 風太、ごめん。晩ご飯、作れないかも……


───


 はう!重たい目蓋を開くだけ開けると、部屋が朱い。

 二度寝ですね。

 うわーやっちまいましたねー。

 

 ……お腹……刺されてない。

 当然。あれは、夢だ。

 ふーっ…疲れる夢だった。

 夢の中で、三日?過ごしてたわよ。

 そろそろ風太が上がるかな?

 ご飯買ってきて、とメッセージを送っとこう。


───


 鍵が開く気配がして、カレーの匂いが鼻を突く。

 開かない目蓋に光を感じ、

「まぁた、リビングで転寝して。寝るなら、ちゃんとベッドで寝なさいって、言ってるでしょ」

 と、風太の声がする。

「……カレー…」

 カレーの匂いが近付いて、口はすっかりカレーなんだけど、目蓋は降りたまま。


「……もしかして、ずっとゲームしてたの?」

 呆れる風太の声に、目が覚める。

「いえ!違います!寝てたほうが多いです!」

「なら、いいけど。唐揚げカレーと、焼き肉どっちにする?」

「カレーを頂きたいです」


 テーブルにお弁当の袋を置いて、風太は台所でお茶を用意して持ってきてくれる。

「先に食べてて。顔洗ってくるから」

 って、私のご飯が先なのね。しかもお茶つき。

「風太はいいお婿さんになるよ」

「正義の戦士(看護師)の為でしたら」

 そのネタ、まだ引きずるんですね。


 先に食べててもいいと言われたけど、ほんのちょっとなんだから、風太を待つ。

 ん。目蓋はやっと活動位置についた。

 やー重かった。

 …ん?

 おや?お腹…これって…

 

「先に食べててよかったのに」

「いえいえ、そう言うわけにはいきません」

「なんか、話したいの?」

「あ、うん。あのね、変な話なんだけど、夢見てたんだ」

「夢?」


「あのね、私、異世界転生してたかも」

「……それって死んでからするんじゃないの?風花は生きてるよね?」

「うん。こちら時間で約八時間。あちら時間で三日の…あ、転生じゃないかも。転移?」

「夢じゃなくて?そんな勤務時間な、転移とか転生なの?」

「うん。あのね。これ見て」

 ジャージを捲ってお腹を見せる。


 お臍のすぐ上に、七センチほどの縦長の楕円――赤黒く盛り上がった肥厚性瘢痕。

 皮膚は完全に塞がっている。

 

「――っ!なにこれ……湯たんぽでも抱いてたの?」

「春先のこの時期に?むしろ冷房入れたいわ。第一、うちに湯たんぽは無い」

「知ってるし、冷房はまだ早い。――一昨日は無かったよね?」

「ん。無い。言ってしまえば帰ってきてシャワーした時も無かった」

「明らかに数週間は経ってる痕だよね?触ってもいい?」

「……ん。痛くも痒くもないんだけどね」

 

「そんなに触らないの!処置はしたの?!」

「まだ…カレー食べてから……はい!今します…けど、この状態のこれ、ワセリン塗るしかなくない?」

「ったくもう、自分の事に無頓着過ぎ!……それもそうか…気休めでも塗っとこう」


「で、それが転生とか転移とかと関係あると?」

「…ん。夢の中でね、ここ、刺されたの。セイレン様に。にゅるっとセイレン様から出たナイフが私のお腹に吸い込まれるみたいに、……こう、ぐさっ、て。ナイフがめり込む?吸い込む?そんな感じ」

 

 風太は、なに言ってんだ?の顔だけと、ゆっくりと(くう)を見たあと、私を見て、

「怖かったな」

 って、肩を抱いてくれた。

 

 ん。

 怖かった。

 私は風太の胸に頭をこてん。


 けどね、美しくもあったのよ。

 嫉妬に燃えた、セイレン様の――蒼碧の瞳が。


「……怖かったの?」

「……怖かったよ?」


 その日も風太は私を抱き枕にして、離してくれませんでした。


――

 

 カーテンから、うっすら朝日を感じると同時に目覚めてしまった。

 それにしても寝すぎだわね。


 漸く解けた、風太の腕を抜け出して、台所に向かう。

 お弁当の容器はちゃんと洗って、水切りしてあって――風太、偉い。

 取りあえず、お米と食パンと卵、牛乳を確認。

 朝ごはんと、お昼のお弁当でも作るか!

 

 ケトルにお湯の用意して、卵を割ったところで、

「おはよう、眠れた?」

 と、風太の声。

「おはよう。それはもう…寝すぎな程に」

 フライパンに卵を流す。

 

 風太は紅茶の準備。

 食パンを焼いて、お皿にオムレツ乗せて。

 テーブルに置いて朝ごはん。


「痕、どうなった?」

 ジャージを捲ってお腹を出すと、

「ん。――あれ?無い」

「……はぁ?……ほんと、無いね。でも、なんかコリコリしてない?」

「だねえ?……あれ?消えた」

 二人して触っている最中に、ふっと消えたしこり。

 潰れた感じでもない。

 痛くもない。

 風太と私は、顔を見合わせて首を傾げた。


 風太に「後は好きにしな」とおにぎりだけ持たせて送り出す。

 私は今日は中番なので、もう少し時間がある。

 お洗濯日和よねっ!


 ――


 午後出勤して、引き継ぎ。

 勢雄さんは午前中に意識覚醒。

 一先ず安心。


 佐東さんは――相変わらずの昏睡状態。

 家族は来てない。


 申し送りを確認して、バイタルチェックに

佐東さんの病室に向かう。

 薄日の差す、何もない部屋。


 バイタルチェックをしていたら、ベッドの横の辺りがキラキラとし始めた。

 陽の光というよりは、ライブでメタルテープが飛んでるみたいな人工的なキラキラ。


 はい?

 はっとして、酸素・吸引・アラーム――よし、異常なし。

 『光』だけが、“経常”の外にある。 


 その光から時を止めるように、ゆっくりとCGの様な、ホログラムで揺らめく青年が現れる。

 

 ここ、病室だよね?

 ……ってあれ?

「セイレン様?」


 この顔はセイレン様だ。

 私がよく知るセイレン様とは髪の色が違うけど。


 暗く俯いていた青年の瞳だけが此方を向く。

 蛍光灯のハム音の隙間を縫うように、清音が耳に飛び込む。

『――――誰だ?』

 言葉は、頭の中で鳴った。

 

「銀髪のセイレン様が成長してる?なんで?」

 自分の疑問ばかりが口をつく。

 セイレン様は苛立たし気に眉間に皺を寄せる。


 おおっ。その不機嫌な目はまるで紅い髪のセイレン様のようですぜ。


『おまえ、何故僕の名を知っている』

 うーん…昨日のあれは、夢ではなかったと云うことなんだろうか?

 てか、今が夢なのか?

 分からん。


「私、ラウノです」

 で、通じるのかな?


 くーっと目が細められる。

 えーっとお、……怖いよお。

『……ラウノ…?』


「十歳の時に貴方に殺されたラウノです!」

『馬鹿な、僕が殺したぞ!』

 

 ……ええーっとお、なんでそんな可哀想な子を見る目で見られているのかな?


 


 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 


 

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