『独り言ち──月読/ツクヨミ』side:勢雄
本心を幾重にも入れ子する。
そんなこと、ずっと当たり前にやって来た。
それが、罷り通る職業──役者。
「あんた、いつまで弥依ちゃんほっとくの! そんなんじゃ、かっさらわれちゃうわよ!」
お袋よ……世間様に顔向けできる年齢差だと思ってるのか? アイツの両親は、俺より年下なのに。
──けど、
ひどく雑に、そのくせ頑丈に梱包された本心の行き場は、
お袋たちの言う通りにすれば、丸く収まるのだろうか。
複雑に寄せ集まって、きれいな紋様を作る寄木細工の絡繰魂箱。
俺の中で確かに存在して、
手に取ることもできず、
ただ、戸棚にしまって眺めている。
例えば……
アイツと二十年前に出会ったとする。
……ダメだ、俺、結婚してた。
──二十年前の俺が、今のアイツに会う……想像つかねぇ。
多分、一ミリも興味は湧かない。
そんな気がする。
────
「惣羽田 五月さんです! 四月吉日に披露宴です! つきましては、その司会をぜひ勢雄さんにお願いします!」
正月を控えた日、珍しく俺を呼び出したアイツが言った。
「俺は高いぞ」
「そこはほら、おともだち価格で、ね?」
「友達だったのか?」
「もー、勢雄さんのいけず!」
ちら、と彼女の横に座るソイツを見ると、熊のぬいぐるみを連想させる。
「嘘だよ。ご祝儀だ」
「惣羽田さんは、造園のお仕事してるの」
……ああ、そうか。
なるべき縁ってことか。
それだけ言うと、彼女は彼の隣で運ばれてきたジュースに口をつけた。
「……あの、すいません。ぼく、アニメとか疎くって……でも、間違ってたらすいません。『夏椿のはなのいろ』に出てませんでしたか? 武将の役で」
「チョイ役だったのに、よく知ってるな」
で、隣の女、なんで自慢げに頷いてる。
「チョイ役だなんて! 有名武将じゃないですか。あの武将の最期って、歌舞伎でも見せ場になってて、こう、派手な感じで。でも……あなたの最期は静かで、本当に全てを見切ったみたいで、印象的だったんです」
ウンウン、と彼女は大きく頷いて、
「流石、勢雄さんの演技よね」
「おまえ、ドラマもチェックしてたのか」
「当たり前じゃないですか。勢雄さんですよ?」
「……ったく、おまえは俺のなんなんだよ」
「ファンですけど、なにか?」
「あー、ソウデスカ」
「ぶっ! あはは! 勢雄さんって渋い顔して、ノリいいんですね」
と、隣の彼が吹き出した。
「勢雄さん、笑われてますよ?」
「おまえさんだろ?」
と、笑いすぎて咳き込み出した。
彼女はすっと水とハンカチを差し出し、背中を叩く。
「ほら、落ち着いて」
俺は、届かなくて行き場のなくなった自分の手を見ていることしかできなかった。
「君、早まったんじゃないか?」
ちょっとだけ、嫌味。
女々しいな、俺も。
「何かに打ち込めるのは、いいことです」
真っ直ぐな瞳。
一拍おいて、見つめ合い、笑い合う二人。
…………良かったな。
◆
「いいお式だったねー! まさか私たちまで呼んでいただけると思わなかったよ! 弥依ちゃん、きれいだったね!」
「俺様の司会の賜物だな」
「はいはい」
「そうだねぇ。ホントに弥依ちゃん、きれいになったねぇ。──でも、君もきれいだよ」
「……まあ……」
「……なにやってんだ、バカップル」
「バカップル上等。羨ましいでしょ~お兄ちゃん」
「そうですよ。地元商店街でも『勢雄の長男が弥依ちゃん棄てた』って、盛り上がってますよ」
「棄てたって……」
「だから、さっさと捕まえとけって言ったのに。ぐずぐずしてるから。自業自得だよ」
「お袋! だから、そんなんじゃないって!」
「まあ、そんな時は!」
「楽しく呑もー!」
「おー!」
「……呑みたいだけじゃねーか」
見上げれば──蒼い月。
グラスに浮かべて、幻を飲み干す。
「弥依ちゃん、いい子だったね」
「……お袋。──ああ、そうだな」
「あんなにきれいになって。惜しい?」
「──ああ、そうだな」
「一緒にお酒呑みたかったなぁ」
「えっ……。あ、ああ、そうか」
「……おや? 財布でも落としたかい?
……まったく、仕舞い込み過ぎだよ。
──大切だった?」
「……ん、大切だ」




