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第7話「市民サポーター大集合!」

秋風が吹きはじめた久留米の街。リーグ後半戦を迎えたFC久留米フレンズの勢いは増していた。だが、観客席にはまだ空席が目立つ。

 「強くなっとるのに、もったいなかね」

 八百屋の古賀はるえは腕を組んで商店街を見渡した。


 その隣で農家の田中五郎が笑う。

 「なら、街ごと応援団にすりゃよかろうもん」

 この一言から、商店街の大作戦が始まった。



 ある日、練習を終えた選手たちが商店街を歩くと――。

 「お兄ちゃんたち、こっち手伝って!」

 はるえに呼び止められ、連れて行かれたのは呉服店の前。そこには真っ白な布地が広げられ、子どもからお年寄りまでが筆を手にしていた。


 「横断幕作りたい! 『走れフレンズ!』って書こ!」

 「わしは『当たり負けするな!』ば書く」

 にぎやかに声が飛び交い、布はあっという間に赤と青の応援メッセージで埋め尽くされていった。


 さらに広場では田中五郎が軽トラを横付けし、収穫したての野菜を山積みにして直売フェスを開催。

 「アラン! このトマト運んでくれ!」

 屈強なFWが段ボールを抱えて運ぶと、婦人たちが大歓声を上げた。

 「アランが運ぶと野菜も格好よか~!」

 気さくにサインを求められ、アランも満面の笑み。



 夕暮れ時、商店街の一角で子どもたちが歌い出した。

 「フレンズ!フレンズ!走れフレンズ!」

 合唱団の先生が編曲したオリジナル応援歌だ。翼は思わず足を止め、目を潤ませる。

 「俺たちのために……こんな歌を」


 そこへ漂う香り。

 「ラーメン屋台出したばい!久留米ラーメン発祥の味たい!」

 暖簾を掲げた老舗の店主が、熱々の豚骨ラーメンを振る舞っていた。選手も商店街の人も、湯気の向こうで笑い合う。



 そしてイベントのフィナーレ。

 「そろばん配るけん、全員持って!」

 はるえの合図で配られたのは、久留米伝統の“そろばん踊り”用のそろばん。商店街の人々も、子どもも、学生も、選手までもが列を作り、一斉に鳴らしながら踊り始めた。


 カラン、カラン、カラン――。

 拍子が重なり、商店街全体が揺れる。翼も佐伯も、ぎこちないステップで踊りながら笑った。

 「すげえ……街がひとつになっとる」



 翌週のホームゲーム。スタジアムはこれまでにない熱気に包まれていた。

 「走れフレンズ!」と書かれた横断幕が観客席を覆い、応援歌が響き渡る。ラーメンの屋台まで出て、会場はお祭りのようだ。


 試合開始。相手は格上のチームだったが、選手たちは声援を背に走り続けた。

 「久留米、まだプレスを続けている!」

 実況が驚く。観客の大声援に押され、疲れを感じる暇もなかった。


 後半40分。佐伯が奪ったボールを翼へ。翼がドリブルで切り込み、最後はアランがネットを揺らす。ゴール!

 スタジアムが揺れるほどの歓声が響いた。



 試合後。

 黒田監督は笑顔で叫んだ。

 「走れ!街がついとるぞ!」

 佐伯は胸を叩き、仲間に向かって言う。

 「こんなに応援されたら、負けられん」


 選手もサポーターも、もう誰一人として別々ではなかった。

 ――久留米の街全体が、クラブそのものになったのだ。


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