第5話「データの魔法」
練習場に、見慣れぬ人物が現れた。
ノートパソコンを抱え、首には小型のGPS端末を提げた大学生。久留米大情報工学部の城戸真帆だった。
「えっと……今日からチームのお手伝いをさせてもらいます!」
緊張しながらも、きっぱりとした声。
黒田監督は怪訝な顔をした。
「おい悠真、なんだこの子は」
キャプテン佐伯が苦笑いする。
「地元でサッカーオタクとして有名なんです。クラブオーナーズ会議で推薦されまして」
真帆はおずおずと、手にしていたGPS端末を見せた。
「選手にこれをつけてもらえれば、走行距離やスプリント回数をデータ化できます。今のフレンズは走力もフィジカルも強くなってきました。なら……それを活かせる戦術を組めるはずです!」
黒田は腕を組み、ふんと鼻を鳴らす。
「データ? サッカーは気合と根性やろ」
だが真帆は怯まない。
「監督がいつも言ってる“もっと走れ!”“前から追え!”を、数字で裏付けられます。これで選手も納得して全力でやれるんです!」
――その言葉に、選手たちの表情が変わった。
◆
翌日、選手たちは胸にGPS端末を装着して練習に臨んだ。
「ピッ」と音が鳴り、パソコン画面にはリアルタイムで走行距離やスピードが表示される。
「おお……俺、もう6キロも走っとる!」
大城が驚きの声を上げる。
「アランさん、加速回数すごいですね!20本超えてます!」
真帆の声に、アランはニヤリと笑った。
練習後、真帆はチーム全員を集め、データを提示した。
「この一週間で、平均走行距離はリーグ1位のクラブを上回ってます。だから――ハイプレス、つまり前線から相手を追い込む戦術が可能なんです!」
黒田は驚き半分、照れ半分で頭をかいた。
「……俺が感覚で言いよったことを、数字で証明したわけか」
選手たちが一斉にうなずいた。
「これなら信じて走れる!」
「データで裏付けされると説得力あるな」
◆
そして週末のリーグ戦。
相手はパス回しに長けた格上チーム。序盤は押し込まれる場面もあった。
だが真帆の提案どおり、ハイプレスを仕掛ける。
アランと翼が最前線で相手CBに襲いかかり、佐伯と中盤が連動してパスコースを遮断。
相手は慌てて横パスを出すが――。
「カットした! 久留米、ボール奪取!」
実況の声が響いた。
そこからカウンター。翼のスルーパスを受けたアランが豪快にゴールを叩き込む。
スタンドは総立ちとなった。
「フレンズがこんなに組織的に動くなんて!」
「走力と当たりの強さを活かした戦術だ!」
◆
試合後。
真帆はノートパソコンを閉じながら、小さくガッツポーズした。
「やった……データで証明できた」
黒田がその肩をぽんと叩く。
「お前のおかげで、チームの走りが意味を持った。よくやったな」
真帆は照れ笑いを浮かべた。
「監督の直感と、データ。両方あれば、もっと強くなれます!」
こうして久留米フレンズは、“走力”と“フィジカル”に加え、“戦術的説得力”を身につけた。
街の人々は誇らしげに語った。
「監督は元ヤンでも、データがついとるけん安心やね!」
久留米の挑戦は、さらに加速していくのだった。