第2話「八百屋魂!走れん奴は応援せん」
夏の午後、蒸し暑い風が吹き抜ける練習場。
FC久留米フレンズの選手たちは、再スタートに向けて動き始めていた。だが、どこか本気になりきれない。スポンサーも施設もなく、グラウンドも荒れ放題。気合を入れろと言われても、気持ちがついていかなかった。
その時だった。
「こらぁーーっ!!」
甲高い声が響き渡る。振り返ると、八百屋の古賀はるえが腰に手を当てて立っていた。頭に手ぬぐい、腰にはエプロン。市場帰りの格好のままだ。
「走らん奴は応援せんけんね!!」
突然の喝に選手たちは固まった。監督の黒田でさえ「は、はるえさん……?」と目を丸くしている。
「サッカーはな、最後まで走るチームが勝つとよ! うちの店に来る客も言いよった。『久留米の選手はすぐ足が止まる』ってな! 悔しかなかと?」
図星を突かれ、キャプテン佐伯は歯を食いしばった。
「……確かに、俺たちは走り負けてた」
古賀は胸を張り、大きな声で続ける。
「今日からランニングばい! 一番走った奴には、八百屋古賀特製・野菜の詰め合わせをプレゼントする!」
「野菜!?」と選手たちがざわめく。
だが古賀は真剣そのものだった。
「食って走れ! 走って食え! それが一番の強化やろが!」
こうして“古賀式ランニング特訓”が始まった。
翌日から、練習場には異様な光景が広がった。
真夏の炎天下を、選手たちがただひたすらグラウンドを駆け回る。
黒田監督は戦術練習をさせたいのに、古賀がサイドラインから竹ぼうきを振り回して「走れーっ!」と叫ぶため、誰も止まれない。
「うおおお……もう足が……」
「詰め合わせのために……走れ……!」
ブラジル出身のFWアランも最初は「バカげてる」と笑っていたが、いつしか真剣な顔で走っていた。
「走らんと応援せん!」という古賀の声が、選手の心を突き動かしていた。
数日後、チーム全員の顔色は土気色になっていた。
「死ぬ……」「もう無理……」
そうこぼしながらも、誰も手を抜かない。
キャプテン佐伯は膝に手をつき、荒い息を吐きながらも前を見た。
――俺たちはもう、久留米のみんなのものだ。走らんわけにはいかん。
やがてチーム全員が走り終えた時、古賀はニヤリと笑った。
「よーし、一番走ったのは……アラン! ほら、約束の詰め合わせたい!」
アランは両手いっぱいのキャベツやトマトを抱えて苦笑した。
「……ボールより重いぞ」
しかし目は輝いていた。
その週末のリーグ戦。
相手は格上チームで、試合前は「また大敗だろう」と言われていた。
ところが――。
「FC久留米、まだ走っている! 試合終了間際になっても止まらない!」
実況が驚きの声をあげた。
90分を走り抜いた久留米の選手たちは、最後まで足を止めなかった。結果は1―1の引き分け。しかし観客はスタンディングオベーションを送った。
試合後、スタジアム外の屋台で市民が誇らしげに語る。
「うちの選手は最後まで走る! あれが久留米たい!」
選手たちは汗だくで、でも笑顔だった。
古賀は腕を組み、誇らしげに言った。
「ほら見んしゃい。走ったら応援されるやろ? 次も走らないかんばい!」
こうして久留米フレンズは、リーグ1位の走行距離を叩き出す“走るチーム”へと変貌していった。
久留米フレンズメンバー
監督:黒田 竜司
•元ヤンキー上がりで地元に戻ってきた叩き上げ。指導者ライセンスもギリギリで取得。
•口は悪いが選手想い。
•市民オーナー制になってから「みんなの声」を本気で取り入れはじめ、チームをまとめる。
•口癖:「走れ!血反吐吐いても走れ!」
キャプテン/DF:佐伯 悠真
•地元出身、28歳。チーム唯一のベテランで“残ってくれた男”。
•地元愛が強く、市民オーナーズ化の中心人物。
•最初はバラバラだったチームをまとめる。
•商店街のおばちゃんに走りを叩き込まれて、リーグ随一のスタミナマンに。
FW:アラン・ロドリゲス
•ブラジル人助っ人。最初は「田舎の弱小チーム」に不満を漏らすが、市民の熱にほだされチームの大黒柱に。
•農家の収穫を手伝ってフィジカルが覚醒。「当たり負けしない助っ人」として覚醒。
MF:西園寺 翼
•元ユース上がりだが挫折して流れ着いた選手。テクニックはあるがメンタルが弱い。
•小学生とのリフティング対決で自信を取り戻し、ドリブラーとして開花。
•「子どもたちのヒーロー」になる。
GK:大城 健太
•琉球出身の陽気なゴールキーパー。よくしゃべり、ムードメーカー。
•医療スタッフと練習し、怪我に強い体を作る。
•PK戦で神がかり的なセーブを連発する。
◆地域の人々(市民オーナーズ)
商店街のおばちゃん:古賀 はるえ
•八百屋のおかみさん。口うるさいが愛情深い。
•「走らん奴は応援せん!」が口癖で、走り込みをチームに叩き込む。
•実質“走力コーチ”。