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第3話「大人がスキル『卑怯』を持っているのってデフォなのかな」

「強盗ですか?」


 帰宅していきなり見知らぬおっさんが居間で正座しているのを見たのだ、悲鳴をあげなかっただけ僕は自分を褒めたい。


「君は強盗が正座して家主の帰宅を待っていると思う?」

「思いませんねえ」


「だろう? 私は陰陽庁の人間だ。名を栃木(とちぎ)という。土御門清明(はるあき)くんで間違いないね?」


「いかにも僕が土御門清明です。陰陽庁っていうと、心愛ちゃんの同僚の人ですか?」

「そういうこと。今日は大事な話があってきたんだ」


 わざわざ不法侵入してまでしたい話だ。さぞ大事な話なのだろう。


 とりあえず栃木と名乗った男の向かいの席に座る。すると彼は2つの紙束をテーブルの上に置いた。


「一つが異界で見た全ての情報を忘れて、日常に戻る道。もう一つが陰陽庁に入る道。どっちを選んでもデメリットはついて回る。好きな方を選んでほしい」


「デメリットっていうのは?」


「日常に戻る場合、当然異界行きの定期は没収、生活に監視がつく。他にも一ヶ月に1回程度、日常に異変がないか報告してもらったり、陰陽庁主催のボランティア活動への参加が強制される。後は――」


「もう十分です」


 まだまだデメリットが続きそうだったので栃木さんの言葉を止める。


 彼の言う通りの生活なんてまるで執行猶予期間中の犯罪者だ。ポイ捨ての一つもできない窮屈な生活はごめんだ。


「陰陽庁に入る方は?」

「こっちは単純。職業選択の自由が奪われるのと、所属する部署によっては命の危険がある」


 監視付きの生活も命の危険がある職業もどっちもごめんだ。僕は好き勝手生きたい。


「有り体に言うと、土御門くんにはぜひ陰陽庁に入ってほしいと思っている」

「なんでまた」


「君が土御門の末裔だからだよ」

「もっとわかりやすいように言ってくれると助かりますね」


「人は全員、呪力というものを持っているんだけど、君は呪力の所有量が並外れているんだ」


 呪術廻戦かな? 


「君、今マンガみたいって思ったでしょ?」

「そうですね」

「昔の陰陽師がなんで不思議な術を使えたと思う? 呪力のおかげさ」


 ただでさえ今さっき異界なんていう非日常を体験してきて疲れ切っているのに、これ以上のファンタジーは毒だ。一刻も早くご帰宅願おう。


「少し考えさせてください」

「今すぐに決めてほしい。君が決めるまで私はここに居座るよ」


 そんなすぐに人生を左右する選択が決められるわけないでしょ。しかも僕は今とても疲れていてしっかりと考えている余裕がないというのに。


 なんだか面倒くさいからオススメの方でもいいかなと思い始めた。どうせ職業選択の自由が奪われるっていっても辞めようと思えば辞めれるでしょ。


 と、そこまで考えてそれこそが栃木さんの狙いなのではと思った。


「あなたよく卑怯って言われません?」

「大人はみんな卑怯な生き物さ」


 くそう。回らない頭ではまともに反論ができない。


 なんとか栃木さんにご帰宅願えないかと考えていると、心愛ちゃんが異界で今の生活が終わってしまうと言っていたのを思い出した。


「僕が日常に戻る場合、心愛ちゃんはどうなるんです?」

「君の前から消える」


 その一言が決め手となった。僕は陰陽庁への入庁を確定させる契約書に判を押した。


 どうやら僕は自分の人生を天秤にかけてでも心愛ちゃんを大切に思っていたらしい。


   ◯


 そして迎えた翌日。夏場の太陽は午前中だというのに信じられないほどの熱気を生み出していた。

それなのに何故外に立っているか、簡単な話だ、昨日栃木さんに家の前で待っているようにと言われたから。


 燦々と照りつける太陽を恨みがましく思いながら木陰で待つこと10分。家の前に黒塗りのワゴン車が停車した。


「やっはろぉー」


 車のドアを開けた心愛ちゃんが、中からおいでおいでと僕に合図をした。


「やあミイラになるかと思ったよ」


 車内はエアコンがガンガンにたかれていて冷え冷えだった。火照った身体が喜びの声を上げているが、同時に自律神経が寒暖差で悲鳴を上げていた。


「お水飲むぅ?」

「ありがたくいただくよ」


 ゴクゴク飲んで喉を潤すと、


「ちなみにそれあたしが飲んでたやつだからぁ」


 ここでブッとかいって水を吹き出すのは三流のやることだ。僕は一流のラブコメストなので呑み口をベロベロと舐め回した。


「ふう、生き返った。どうもありがとう」

「どおいたしまして」


 ここで心愛選手、僕がベロベロと舐め回したにもかかわらず、受け取ったペットボトルの呑み口を僕と同じく舐め回し始めた。これもうベロチューだろ。


「やるね」

「土御門くんには負けないよぉ」


 僕達は一体なんの勝負をしているのだろうか。


「それにしても、土御門くんが陰陽庁に入るって聞いた時はびっくりしたよぉ」


 僕も驚きが表に出にくいタイプだが、心愛ちゃんもダウナー口調なので驚きが一切伝わってこなかった。


「栃木さんていう卑怯な大人に騙されたんだ」

「普通の生活に戻る? 今からでも遅くないよぉ」

「心愛ちゃんと別れるのが嫌だからいい」


 そう言うと、心愛ちゃんは僅かに頬を染めて「そ」とだけ言った。


 照れるところ変じゃない? 間接ベロチューにはまったく動じなかったのに、ここで照れるのか……。


「ところで陰陽庁に行くとしか聞いていないんだけど、何をしに行くんだい?」

「適正検査ぁ。それの結果次第でぇ、どの部署に配属されるかが決まるんだぁ」


「ぜひとも心愛ちゃんと同じ部署がいいな」

「やめといた方がいいよぉ?」

「それまたどうして?」

「一番危ない部署だからぁ」


 男の子は危ないと言われるとより一層興味を抱いてしまう生き物なのだ。


 そんな感じで雑談に興じていると車が動きを止めた。どうやら目的地に着いたらしい。


「あ、ここかあ!」


 陰陽庁は街のど真ん中にある高層ビルだった。


 まさか街で遊ぶ時によく目にしていたおっきなビルがそれだとは露にも思わない。


「4階までが商業施設になっててぇ、そこから上がオフィスなんだぁ」

「僕もたまに利用しているよ。ここ本の品揃えがいいんだよね」


「まあほとんどの人は入ったことがあるだろうねぇ。実はここ、陰陽五行思想だと五芒星の中心にあるんだぁ」

「京都みたいだね」


「そだねぇ。風水的にとてもいい場所だから人がたくさん来るしぃ、人がたくさん集まると陰陽のバランスも取れるっていう好循環らしいよぉ」


 そう言われたらなんか気の流れがいい場所のように感じてきた。神社に行った時に感じるあの空気が澄んでいる感覚だ。


「とりま中入ろっかぁ」


 従業員用の裏口から中に入った僕達は、大きな専用エレベーターで上に上がっていく。


「IDカード使わないとエレベーター動かないんだね」

「これでも政府機関なのでぇ」


 ぐんぐんと上昇していくエレベーターはやがて8階で停止した。扉が開くと長い廊下が僕達を出迎えた。


 迷いなく奥へ進んでいく心愛ちゃんについていくと、彼女は「霊界局」と書かれたプレートが下がっている扉を開けた。


「えーと、六道課は、とぉ」


 局内はとても広かった。所属している心愛ちゃんですら探す素振りを見せているのだから、彼女と逸れてしまえば僕は見知らぬ人に道案内を頼むハメになるだろう。


「あーここだここだぁ」


 六道課なる謎の課に案内された僕は、課の担当者に案内されるまま「適性検査」なるものを受けた。


 血液検査みたいな普通の検査に始まり、水晶に手をかざすとか拳銃を的に向けて撃つとか珍しいことも色々やった。結果、


「土御門くん、君バリバリの武闘派だね。運動神経良すぎでしょ」


 実は局長だったらしい栃木さんの部屋に案内され、言われたのがこの言葉だ。


「それほどでもあります」

「そこは謙遜しないんだ」

「昔からオリンピック選手目指せると思ってたので」


 実際、冗談でもなんでもなく運動全般何をしてもその道で頑張っている人より結果を出してきた。


 体育をやる度に部活の勧誘をされたのも懐かしい記憶だ。全部断ってきたけど。僕は根が面倒くさがり屋なので、部活みたいな強制的に時間を奪われる活動が嫌いなのだ。


「ということはぁ、所属課はあたしと一緒ってことぉ?」

「そうなるね。彼を事務にしているような余裕はウチにはないからね」


「心愛ちゃんと一緒ってことは、なんだっけ? 危機管理対策官になるってことですか?」

「いや、ヒラからだよ。ウチだと主事っていう役職だね」


 残念。危機管理対策官ってすごいカッコいい響きだったのに。


「ふふん、あたしは偉いんだぞぉ」

「ズルい」


「実際、西園寺くんは異界課のトップ2だ。余程実績を上げないと彼女には追いつけないよ」


「そんなあたしからのお願いだけどぉ、土御門くん、あたしの直属の部下にしてほしいなぁ」


 心愛ちゃんの言葉を聞いた栃木さんは、「言うと思った……」とため息をついた。


「一応聞くけど理由は?」

「初恋の人だからぁ、あたしが守ってあげたい」


「仕事に私情を挟まないでほしいな。けど断ったらどうせゴネるんだろう?」

「職務放棄するかなぁ」


 栃木さんは遂に頭を抱えてしまった。

 局長とかいってたけど、実はパワーバランス的には心愛ちゃんの方が上なのでは?


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