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ことのはじまり:後編

プロローグ編、終了。

この作品について、漫画アニメラノベ小説など、多くの作品を参考にさせていただきましたが、実在する人物・団体・地名及びあらゆる創作物とは一切の関係はありません。あらかじめ悪しからずご了承ください。


::

俺たちの初仕事であるゲームの企画が生まれて三ヶ月、開発は早くも試運転段階に写ろうとしていた。いやー、天才が集まると何かと早いね。

ちなみにだけど、社長の説得は簡単に終わった。囘想するまでもなく一言だけ開発していいよって言ってた。あの大バカヤロー、俺たちが三分くらいで考えたプロット読まずに許可出しやがって……。

ちょっとだけあの大バカヤローの話をすれば、俺たちが社畜の如く働かされている、世界でも有数の財閥企業、神樂咲コーポレーションの取締役兼社長で、俺の昔馴染みの腐れ縁。一度は殺し合いにまで発展した仲で、ちなみに俺はアイツに幹部になるよう頼まれて、ホントだったら断ってやるとこなんだけど、ちょうどその頃、俺が無一文だったから__幹部席なんていらねー、平社員にしろ。つって、コネ入社したっていう複雑極まった経緯があるわけだ。

「紀埜、時間です」

おっと……。わりーわりー、自分語りが過ぎちまったかな……?

俺はスナック菓子とアイスコーヒーを置いて、眼前のゴーグルを装着する。今日は実践試験で、なんとビックリ俺が推薦されちまったんだよなー。こういうのって、開発者がテストしちゃいけねーんじゃねえの?大体、俺世界ぶっ壊しても知らねーからな覚えとけよ!

「そうならないことを確認するためのテストでしょうに……」

いや、そりゃそうなんだろうけど。けど先輩、もし俺に何か不都合を起こしちまったら、一緒に責任をとってもらおうぜ!

「嫌です☆」

俺は、キャラ崩壊を起こして語尾に星マークさえつけてしまいそうな憎たらしい満面の笑みを浮かべた先輩の明確な拒絶だけを残して、仮想世界へと落ちていった。


::

つーわけで、MORPGの仮想現実(ゲーム世界)到着!……って、呆気ねえな!

「紀埜、聞こえますか?」

おうおう。聞こえてるぜ、先輩。どっから話しかけてんのかは知んねーけど。

「私は現実世界にいるんですから、そんなにキョロキョロされても見えないですよ。この声はリアルタイムで観測中の私が、リアルタイムで聞こえるよう、肉声をデータ化して電脳世界に送り込んでるんです」

へえー、んなことできる時代になってたんだな。いやはや驚き驚き。

そんで、まさしく次元の違うところから話し掛けてくださる先輩様が、この電脳紀埜に何か誤用で?

「一つ言い忘れていたのですけれど……」

そう言って聞かされた事実は、特段衝撃的なものでもなく、案外意外すんなり俺の認識の中に入ってくるのだった。

つまりあれだろ?フルダイブシステム中のこっち側の痛みに対して、どういう風に作用するかわかんねーから、その実験台に俺は選ばれたってわけだろ?

「身も蓋もない言い方をすればそうです。ちなみにですけど、どれほど痛みを感じても、心傷になることも実際に傷ができることもないことだけはわかっています。そこは安心してください」

おっけー。そんだけ聞けりゃあ、十分だ。

まあまあ、任せときなって。俺だって死にてえわけじゃねえし、電脳世界で生き続けろって言われたら、電脳世界を人類の棲家とするくらいには小心者なんだよ。

なんて、ちょっとふざけてただけなのに、女子中学生の作ったAIは作り手にも増してせっかちなのか、さっさとキャラメイクしろってうるさく騒ぎやがって。

しょうがねえなー。

「あんまり奇抜なのにしないでくださいよ、紀埜」

いいや。身長とかはそのままにして、いっそ先輩の顔面使うか……?

「紀埜、今回は自身の顔面を使う方針でお願いします」

あ、了解了解。

流石に冗談だけど。……髪色はカーディナルで、髪型は前髪ぱっつんお団子ヘアー、っと。久しぶりの長い髪だけど、正直邪魔だなー。あとは種族らしいけど……ま、全部試すんだろうなー。

「はい、一応全部試すので最初は人間ってことで」

うわ、なんの面白味もねえ。え?職業決めろって?

うーん……。剣士とか拳士とか……。

「とりあえずあなたのために全武器使用できる仕様にしてますから決めなくて結構ですよ。あなたしか試さない上に、あなたには()()()()ワールドボスはクリアしてもらわないと困るんですから。

分かってる分かってる……。

まあ、そんな焦らんでも俺がタイマンで五回以上死んだらちょうどいいくらいなんだろ?

「違います。五回くらいでも苦戦しながらでも倒せたら、ですよ」

そうだっけ?いけるのかねー、ゲーム初心者の俺に。

「できますよ、あなたなら……。」

厚い信頼をどうも。

んじゃまあ、行ってくるわ。

「行ってらっしゃい、紀埜」

俺は適当に手を振りながら、マルチプレイを開始するのだった。


::

ここが俺らの作った、()()()()に命運の握られた世界か。

__なんつーか……リアル、だな。

俺の第一印象なんてアテになんねーけど、まあ大体のヤツはそんな風に感じんじゃねーかな。第一印象は……明るい、だな。

グラフィックとか、何だとかの問題じゃねえ。俺の視界に映るもの全てが、華美ではないが、明るさを持っている。

ちなみに、NPCはまだ存在してねえし、ストーリーもオールスキップ。

何も存在しない俺だけの世界に、ちょっぴりテンション上がってきた。よく考えてみれば、電脳世界とは言えど超久々の外出じゃん。__いやー、こんな風に外に出ることになるとは……結構予想してたけど。

「じゃあ、ちょっと管理者権限で強制戦闘してもらいますので」

テンション上がってるから、オールオッケー。なんでも来いや!

……先輩、パス。

「え?最初からボスが良かったですか?ちょっと勝手に慣れてもらおうかとも思ったんですけど……」

ああもう!ワールドボスでもなんでも来い!俺が全部まとめてぶっ飛ばす!

こうして、電脳世界に来て約五分。いきなり初期装備でのボス戦が始まった。

__先輩、覚えてろよ!!


::

カーディナルの髪色をした如何にもなビジネスウーマン然とした格好のその女性、最近では先輩というあだ名が不覚にも定着しつつある彼女__つまり私は、画面の先でゼーハー言いながらも()()()()()()()()、デコイとは言え一介のワールドボス相手に善戦している後輩を見て、ため息を隠せずにいた。

……あの理不尽、本当に何なんでしょうね?

「知りませんわ、あのアホについては……。

「というか、よろしかったのですの?髪色だけとはいえ、貴女の容姿をあのアホに使わせても」

同僚である政七海さんに訊ねられ、私は首を振り、答える。__だって、あの人類に生まれた災害を止める方法はないでしょう、と。同意を求めたのだが、政七海さんは納得したようなしてないような微妙な顔で、肩を竦めただけであった。

……このままじゃ、いけない。

根本的な話、私が悪いわけじゃないというか、大体あの生意気な後輩が私の心労の、残業の理由のほとんどを占めているんです。

ちょっと昔話をさせていただくと、私は元々こんな辺鄙な部署ではなく、もっと裏方の、警察で言うところの公安のようなところにいたんです。上位層とまではいかなくとも、こと神樂咲コーポレーションにいる時点で世間的には超エリートです。働いていた経験と実績があると言うだけで、再就職には二度と困らない程度にはエリートです。

そんな私でしたが、実績のあった私でしたが、ある日直属の上司であった(名前は伏せさせていただきますが)、ある重鎮の一人が汚職を揉み消そうとして、社会的に抹殺されました。そのせいで直属の部下であった私にも火の粉が降りかかってしまい、抵抗も虚しく左遷されてしまいました。いやー、あの頃は正直なところ、一寸先は闇でしたね。

そんな矢先出会ったのが、かの後輩、人類に生まれ落ちた天災こと、紀埜燈でした。彼女はなんと驚いたことに、人類で唯一の社長からの推薦によって神樂咲コーポレーションにコネ入社し、挙句幹部席さえ用意されていたのに蹴ったと言うのですから、当時の私には信じられずにいたものです。__まあ、今となってはそりゃあそうだろうな、と思いますけど。基本、あの化け物は何者にも縛られることを拒みますから。それこそ、苗字を名乗っていることが不思議なほどに。

そもそも、仲間意識っていうか、所属意識っていうか、集合体の一部であるっていう認識ってものが限りなく薄いんだと思います。

「その認識については、わたくしも概ね同意ですわ。

「あのアホは、限りなく他人という認識が薄いのでしょうね。わたくしはあのアホのことをアホアホと連呼してますけれど、それなりに苦労を分かち合った仲間だとは認識していますの。

「だからこその偏見なのかもしれませんけれど、あのアホには、仲間意識はなくとも、自身が集合体の一部という認識はなくとも。

「それでも……わたくしたちの言うところの『仲間』というものが、『彼女』にとっては自身の一部であるという認識が少なからずあるのでは、と思っていますの」

それは……。私の言っていることと同じようで、全然違う。遠いようで、しかし本質は同じ。そんな回答だったように思う。

彼女には、紀埜燈には自身の世界という個しか持ち合わせていない。しかし、彼女の大きすぎる個の中には少なからず集合体の一部としての性質があるのではないだろうか。故に、彼女という個の中に集団があるがために、彼女は集団というものを認識できていないのではないだろうか。

「ま、それもこれも、あのアホにも分からない話なのでしょうけれどね」

そうですね。

それから沈黙が続き、沈黙に耐えかねて視線を移せば、ちょうどワールドボスに勝利した私たちの後輩が全身ボロボロになりながら、笑顔でVサインを送ってきている。

「はあ、呑気なものね……あのアホは」

……そうですね。

実は、私たちチームの中で、チームリーダーである紀埜だけが知らない事実が、二つあります。それは『彼女はシステムの試運転をしているわけではないということ』と『現在の彼女のスペックは現実準拠のものであること』であること。チームリーダーに試運転をさせるなんて現実的には考慮の余地のないほどアウトゾーンなのだ。根本的に、ゲームというものが何かを理解していない彼女に『まともな』プレイができるわけないのだ。__それが如何なるゲームであったとしても、だ。

もちろん、すでにあるゲーマーと学習型AIを使ってシステムのレベリングは行った状態である。だから、いま行っているのは……身も蓋もない言い方をすれば、それこそ実験である。人類の到達点に対する、スペックの調査である。まあ、基本的に人類の約三倍のスペックを持ったゲームキャラたちの約五十倍のスペックは誇っていると思っていいでしょう。__こうして、私と政七海さんの心労はまた一つ、増えていくのだった。


::

ゲームの試運転を終えて久しぶりにフルスペックで戦えたことにちょっとテンション上げながら、俺は目を覚ました。

「お疲れ様です、紀埜」

おうおう、お疲れな後輩のためにアイスコーヒー用意してくれるとは、さすがみんなの頼れる先輩だぜ!ちなみに武器も魔法も基本的に発動に支障はなかったぜ。あれなら初心者でも安心だな!

「テンション高いですね……戦闘後なのに」

余計なお世話だぜ、先輩。あとは……。

「やあリーダー、お疲れ様」

なんだ、オメーもいたのか。クソメガネ。

「酷いですねリーダー……。こうして心配しているというのに」

オメーに心配されるとムカつくんだよなー。おかしい。人類大好きっ子ちゃんな、人類のためには命くらい放り出すつもりの純情な少女であるはずの俺が、オメーにだけはムカついてしまう。何だ!恋か……!

「ええ、絶対違いますね」

ああ、知ってた。大体俺、人類皆兄弟みたいな感じで、恋愛感情向けられないんだよなー。兄妹系の恋愛小説は大好きだけどな!禁断の恋を描いた恋愛小説の欠点は兄貴がもっとしっかりしろよ!ってツッコミくれーしかねえからな。

しかしまあ、何つーか。

あんなもんでいいのかね、ワールドボス。俺が一時間弱で倒せたんだし、五回も死んでねーし、もうちょい強くてもいいんじゃねーかな、とは思うんだが。

「いやー。あなたが例外中の例外なだけですし……」

「そうですわよ、アホ。貴女は限りなく例外なので問題ナッシングですわ!」

「そうですよ。リーダーのフルスペックで一時間かかったんですからね。普通じゃあ倒せないってことですよ」

何だよ、寄ってたかってみんなして、俺を化け物みてーに言いやがってよ。そんなにイジメるんだったら、暴れるゾ☆

……ん?

「え……?」

「リーダー、ダメです」

「……?」

可愛く決めポーズなんか久しぶりに使ってみれば、何と天啓が舞い降りたんじゃねーかってくらいの名案が、この先の明暗を分けるほどの代案が、あるいは大案が頭に直球ストレートで浮かんだ。

__そうじゃん。俺が裏ボスになりゃいいじゃん!

「「「ストーップ!!!」」」

何だよ、オメーら。名案だろ……?

「何考えてんすか、何も考えてないんですか!第一、このゲームの特質上ワールドボスさえどーなるのかわかんないっていうのに!」「そうですわ!アホが何アホなこと考えてるんですの!」「そうだよリーダー。世界に慈悲を与えようよ!ね!」「そうだぞ!オメーいい加減にしねーとぶっ飛ばすぞ!」「世界の、破壊者かな……?それはアリ寄りのナシナシ」

何なんだよ!オメーら、いつの間に全員集合なんてしてんだよ!一致団結しねーのがオメーらの売り文句だろ!俺を除け者っつーか批判するときだけ妙に団結してんじゃねえよ!

なんて、ヤジを飛ばしつつも、ちょっと冷静に状況の打開策を練ってみる。俺は五人に向き直って、一つ咳払いをしてから言葉を紡いだ。

__なら、謎のお助けNPCの代わりってのはどうだ?ほら、学習しすぎて問題起こしたのが一機いただろ。なんかアイツまた暴走しそうで怖えーんだよ。

俺の言葉がどれほど響いたかは知らねーが、少しは検討の余地が残されていたのか、五人はそれぞれに思案を開始した。

俺もちょっとは考えるかな。えっと……。まず俺がお助けNPCになることのメリットについては、基本負けはねえし、ゲームシステムを最も知ってる。そして何よりいい感じに相手に美味しいところを持っていかせるのが上手い。デメリットについては超簡単だな。個人単位に肩入れしちまう可能性が無きにしも非ずってこと、あとはいつでもどこでも二十四時間365日俺が対応できるわけはあり得ねーって話だ。まあ、正直たまに中ボスの攻略された時にでも情報だけ渡せばいいし、お助けNPCは一人じゃねえから、ほとんど問題はない。

これ、俺がお助けNPCにならない理由なくねーか?

「どう考えたらそうなるのかは甚だ疑問ですが、まあ、メリットがないわけではありませんし。本当に偶に、六人全員の総意として必要と判断されたときにのみ、プレイヤーたちにほんの少しだけ導いてあげることにしましょう」

いいじゃんいいじゃん。盛り上がってきたぜ!

まあ、その辺も含めて、俺たちはもう少しの間徹夜を続けるのだった。


::

そして翌年、俺たちの開発したゲーム……『アジェスティックオンライン』は平成四十七年の8月1日を以て、日本中でプレイされ始めることとなるのだった。

……全国の大バカヤローども(ゲーマー諸君)、世界をお前の色に染めやがれ!

ちなみに著者は主人公よりゲーム経験のない人間で、ゲーム機に触れた経験が欺瞞にも誇張にもなくゼロですので、この作品に出てくるゲーム知識は素人より乏しいです。あらかじめ悪しからずご了承ください。

また、上記の理由から誤った知識を書いてしまうことがあるかもしれませんので、誤字脱字誤植修正意見感想、その他正しいゲーム知識も感想欄などからお気軽に、できれば優しく教えていただければ幸いです。

※モラルに反する感想はお辞めください。

ばい、著者。

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