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アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
6章 アサシンズ・クアッドの騒乱

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87話 天才的な暗殺

 【ゼピュロス】と【ワイルド・ジョーカー】の互いの武器が激突し、その反動で両機が弾かれるように後方に飛ぶ。


 【ワイルド・ジョーカー】の【ハルパー】は容赦なくプラズマ溶断兵装として超高熱の刃を放ったが、【ゼピュロス】の装備したトンファーは構成する複数のパーツがまるで生物が身震いするような不気味な震動音を立てている。


 パワードスーツの近接武装にあんな音を立てる武器はないし、そもそもトンファーという武器はパワードスーツの運用に必要が無い。【ハルパー】のプラズマを易々と拡散させた強度と言い、ただの武器ではない。


『ユニット専用兵装か』

『ライオットバトンだ。シンプルでいい名前だろう』


 暴徒鎮圧装備ライオットとは確かに、如何にもらしい名前だ。

 【ゼピュロス】駆るイーグレッツが軽口を叩きながらライオットバトンを手の内で回転させる。驚いたことにモーターで駆動している訳ではなく本当にマニピュレータで回しているようだ。


『ふッ!! せいッ!!』


 たっぷり遠心力を乗せたバトンの先端がゴウ、と大気を押しのけて次々にテウメッサを襲う。ユニットの埒外のパワーで直接回転を加えられたライオットバトンの先端の速度はゆうに音速を超えており、それがイーグレッツの卓越した近接戦闘技術で繰り出される。


 生身の人間ならば風圧で吹き飛ばされる嵐の猛襲を避けるが、実際には主戦場は手ではなく足だ。


 イーグレッツの踏み込みは容赦なく間合いを詰め、フェイントを交えながらも的確にテウメッサが避けづらい態勢へと誘導していく。テウメッサはそれに乗せられまいと軽やかな足捌きで僅かな隙間を縫っておく。


 互いに達人級の腕前がなければ実現出来ない、ユニット同士の演舞。

 その結末は、いきなり加速したように間合いに入り込んだイーグレッツのライオットバトンを避けきれないと判断したテウメッサが腕でガードしたことにより終わりを告げる。


『捉えたッ!!』


 瞬間、【ワイルド・ジョーカー】の腕部にバトンの衝撃が炸裂し、装甲が軋んだ。


『ガッ……アアアアッ!!』


 テウメッサはその衝撃に怯まず即座に正拳突きを繰り出して【ゼピュロス】を強引に突き放す。これはテウメッサの動きというよりユニットにそう動けと命じて行なった動きで、不意を突かれた【ゼピュロス】にも衝撃が迸る。

 嘗てオウルが不意打ちのために足がいかれるほど機体を回転させたのと同じ原理なため、機動に身体がついてゆかず筋繊維が悲鳴を上げる。しかし、正拳突きと同時に腕部のギミックを利用して貫手を放ったことで突き放すことはできた。

 【ゼピュロス】は衝撃を逸らす為に身をよじったことで大きなダメージは免れたようだった。

 即座に構え直しながらも、テウメッサは内心毒づく。


(ライオットバトン……シャレにならない威力だ……ッ)


 ガードした腕が装甲越しに未だに痺れを訴えている。

 まるで巨大なパイルドライバーを叩き付けられたかのようだ。

 恐らく命中の瞬間にバトン自身の震動も含めて威力を増幅させているのだろう。

 もっと複雑な構造の武器なら破壊も可能だったが、イーグレッツは敢えてそれを避けたのだろう。


(しかし危なかった。これ以上押し込まれたらアクティブシールドのリング際に押し込まれていた)


 周囲をぐるりと囲んだアクティブシールドは当然イーグッレッツの味方をする。

 不意打ちの貫手も今ので間合いを覚えられてしまっただろう。

 一方的にダメージを負ったテウメッサに対し、イーグレッツのダメージは軽微で後出しの攻撃にもきっちり対応を見せている。


(あらゆるケースを予測した上で、その身ひとつで判断する。装備の性能に驕らず技量をフルに活かしてくる……!)


 テウメッサは【ハルパー】を槍のような形に変形させるとリーチを全面に押し出して反撃に出る。戦いはリーチの長い側が有利であることは歴史が証明している。


 プラズマを纏った刺突はパワードスーツの装甲も一瞬で融解させる温度に達した。迸る熱で倉庫内が一気に熱を帯びる。

 今度のプラズマは装備が耐えられるギリギリまで出力を上昇させてある。


(この熱量は以前の対ユニット戦闘から得られたデータからしても有用な威力に達する筈だ)


 オウルが持ち帰ったデータを元に算出された出力だ。

 イーグレッツの【ゼピュロス】もこれには当たりたくない筈。

 しかし、イーグレッツはそれらを冷静に見極めると両腕を前に出してガードを堅めながらフットワークで躱す。ボクシングのピーカプスタイルを彷彿とさせるが、あの動きはユニットの関節や腰部の稼働域を自らの手足のように知り尽くしていなければ実現出来ないだろう。


『みっともない抵抗だな!』


 刺突、横薙ぎ、フェイント、様々な動きを織り交ぜたテウメッサの反撃をイーグレッツは着実に掻い潜り、遂にはガードを解いたライオットバトンの先端が掠めた。


 掠めただけでも、遠心力に震動を加えたライオットバトンの一撃は【ハルパー】とそれを握る【ワイルド・ジョーカー】を強かに打ち振るわせる。その僅かな、本当に僅かな硬直の瞬間に、今度はライオットバトンを握った【ゼピュロス】のリバーブローが飛来した。


『貰った!!』

『――と思ったか?』


 瞬間、バレエのようにしなやかな身のこなしで拳を躱した【ワイルド・ジョーカー】の跳び膝蹴りが【ゼピュロス】の顔面に直撃する。


(流石に頭が揺れたろう。このまま逃げさせて貰う――)


 イーグレッツはむかつくが、これ以上彼に付き合う理由はない。

 幾らアクティブシールドが強力でも同じユニットの最大出力ならば破れない道理はないと判断したテウメッサはそのまま飛行に移ろうとし――がくん、と機体が突然の重みを帯びた。


『旗色が悪いとすぐ逃げようとする。賢しい小悪党は皆そうだ』


 【ゼピュロス】の手が、【ワイルド・ジョーカー】の足を掴んでいた。


『ちぃッ!!』


 即座に蹴撃を加えつつ【ハルパー】を突き立てようと動くが、一瞬のうちに腕と身体捌きで複数の動きを潰され、気がついたら【ワイルド・ジョーカー】は背中から床に叩き付けられていた。何が起きたのか認識が追いつかない鮮やかな早業だった。


『うぐ、はぁッ――』

『無力化開始ッ!!』


 無防備な腹に、ライオットバトンの情け容赦ない連撃が叩き込まれる。

 耳を劈く金属同士の衝突音が響く度、建物が崩れ、床に放射線上の罅が広がる。

 一切の抵抗も許さず、搭乗者の死も辞さない滅多打ちはしかし、抵抗の目を悉く潰してゆく。

 一撃一撃に内臓まで響く鈍痛を感じながら、テウメッサはこれまでの攻防を冷静に振り返っていた。


 ライオットバトンを用いた近接術はジルベス警察式鎮圧術。

 槍を躱したのはボクシング等幾つか格闘術の動きを取り込んでいた。

 最後に一瞬で投げ飛ばされたのは柔術をベースにした動きだ。


(まいったな……イーグレッツ・アテナイ。これほど格闘戦に精通した相手は見たことがない)


 アクティブシールドのバトルリングを用意したのは、この間合いでならば絶対に勝てる自信があったからだろう。

 それは自信過剰でもなんでもな。

 現に今、ジルベスを震撼させる最強の殺し屋集団の一員であるテウメッサの喉元に彼は両手をかけているのだ。


 天才――。

 他に言い表しようがない、イーグレッツは近接戦闘の天才だった。


(才能は、流石に覆せないなぁ……ああ、本当に、なんでかむかつく子供警察だ……)


 加減のない正義の名の下の暴力がテウメッサの身体を破壊する。

 骨が折れ、臓腑が傷つき、意識が薄れていく。

 それに比例するように【ワイルド・ジョーカー】の装甲もひしゃげていった。


 やがてぴくりとも動かなくなった【ワイルド・ジョーカー】の四肢から首にかけてをアクティブシールドを用いて封じたイーグレッツは、部下達からの通信に耳を傾ける。


『そちらはどうか?』

『特務課長の読みは大当たりです。たいそうな数こそ揃えていましたが所詮はチンピラ集団ですね。お粗末な電子防護(E C C M)に時代遅れのフレーム構造。これで我々が負ける方が難しい。マフィアってのは哀れな存在ですね。こんなポンコツ集団に趨勢を左右されなければいけないだなんて』


 嘲りの籠もった部下の言葉に、イーグレッツは眉ひとつ潜めない。


『人の不幸と恐怖による支配に縋ってこそこそすることしか出来ない卑怯者の行き着く末路など、こんなものだ。時代の遺物は遺物らしく崩れて消えてゆけばいい。それが出来ないのならば、我々が介錯してやるまでだ』


 正義が勝つのではない。

 勝った者が正義でもない。

 弱者の為に勝たなければいけない者が、イーグレッツの定義する正義である。


 あとはこのユニットの化けの皮を完全に剥がさなければ――イーグレッツが思案するなか、シールドの下敷きになった【ワイルド・ジョーカー】の指が、微かに動いた。


『――馬鹿らしいねぇ。正義こそ、嬲る敵がいなければ、存在を証明できない……似たもの同士の罵り合いほど、不毛なものはないよ?』

『……!! こいつ、まだ意識が!?』


 テウメッサは、【ワイルド・ジョーカー】だ。

 危機的状況を一発逆転する鬼札であることを、たった一人の少女に定義づけられた。

 だから、という訳でもないが――。


(こんな馬鹿騒ぎ、楽しまない方が損……そうだろ、オウル?)


 だったら、テウメッサは【ワイルド・ジョーカー】であった方が面白い。

 大逆転する方が、きっとこのまま死ぬより面白い。

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