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アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
6章 アサシンズ・クアッドの騒乱

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84話 浮いた暗殺

 イーグレッツ・アテナイは異音の先にあった穴の向こう、ビルを支える支柱SBPスーパーベクターピラーの前で、それと対峙した。


 漆黒の鎧に全身を包まれた、スマートなフォルム。

 唯のコスプレではなく、そこからは確かな出力が検知される。

 パワードスーツではこの細さは実現出来ない以上、答えは一つ


「正体不明の黒いユニット!!」


 この町に初めて来た際にその存在を知り、結局尻尾を掴めなかったそれが、目の前にいた。

 いつ爆発するかも分からない爆弾をSBP支柱に収めた状態で。


 この町に舞い戻る事になってから、その存在は片時も忘れたことはない。学生達には命を救ったヒーローなどと呼ばれていたが、公式に存在する筈のない野放しの暴力など、仮に国家が極秘裏に承認していようがイーグレッツは認めない。


 イーグレッツは即座に自らに与えられたユニット【ゼピュロス】を展開して鎮圧の姿勢に入る。

 だが、目の前のユニットはそれを手で制す。


『柱の爆弾が爆発するとビルが倒壊する。だがそれは当方の望む所ではない』


 明らかにボイスチェンジャーを使った不自然の声が機械的に整った口調で語る。


『白々しい嘘を!! 貴様が仕掛けたようにしか見えないな!!』

『だが当方は仕掛けていない。そもそも仮に破壊工作を行なうとして、爆弾などという迂遠な方法を取る必要性がないのは『同じ』貴殿が誰よりも知っている筈だ』

『……』

『そこで黙るのが貴殿の正直な所だな』


 猛るイーグレッツの心の中の警察としての冷静な部分は、そのことには気付いていた。

 目の前の存在が雑な侵入の末に爆弾を仕掛けたと考えるのは余りにも早計であると。

 しかし、同時に目の前の素性も得体も知れないユニットに背中を向けられるほど暢気でもない。


『……もし下手な真似の一つでもすれば、貴様がどんな権力に縋って逃げようが特務課の名に賭けて必ず検挙する』

『後ろの二人が犠牲になっても?』

『犠牲にはしない。犯人も捕まえる。騒動も治める。全てやるのが仕事だ』

『難儀な仕事だな。ともあれ、このビルの無許可爆破解体を止めるという点では協力し合えると考えてよいかな』

『……ふん』


 芝居がかったやつだ、と内心で毒づくが、いま事を構える愚は犯せない。

 このビルにはマフィア関係者以外の関係の無い会社も入っており、数百人に及ぶ民間人が事態を知らず職務に励んでいる。今ここでユニット同士が戦闘すれば、その全てが失われることになるだろう。

 それを正義の為の犠牲と言い捨てるほどイーグレッツは人を辞めていない。


『不審者。爆弾はこれだけか?』

『酷い呼び方だな……いいや、これだけではない。他のピラーにも計四つの爆弾が同様に仕掛けられている。もしも中央の支柱と同時に爆破すれば、キレイにビルは崩れ落ちて全員が死ぬだろう。解体はほぼ不可能だし、する時間があるとも思えない』

『そうか。では爆弾の位置を全て教えたのち、このピラーを支えろ』

『どうする気だ?』

『ビルを消し飛ばす以外の人の助け方を教えてやる』


 そう宣言したイーグレッツの【ゼピュロス】の背に、無数のアクティブシールドが光を纏って顕現した。




 ◇ ◆




 ビルの一階から外にでた作業員の男は、ちょろい仕事だったと内心で呟く。


 どさくさに紛れて漁夫の利を狙うキロトンマーケットは彼らモルタリスカンパニーに取り入りたい面々にとって邪魔以外のなにものでもない。医療分野で名を馳せるモルタリスと健康維持に欠かせない食品はそもそも組み合わせがよく、彼らが生き残ってしまうと自分たちの待遇が悪くなる危険性があった。


(他の連中はまぁ、別に死んでも良いだろ。10年前の戦争で命賭けずに情報統制のゆりかごの中で眠りこけてたツケってことで、就活の為の生け贄になってくれ)


 これは一部の戦地帰りが発症した心の病だ。

 戦争に参加していない人間を人間と思えない、そういう病。

 自分たちを助けもせず、心配もせず、生け贄にされた者達の憎悪の慟哭を糧に安寧を貪る一般市民は、戦地にいた兵士に降り注いだものと同じ理不尽に苛まれるといい。


 あとは、ビルの倒壊後の混乱と噴煙に混ざって救急車が次々に駆けつけ、怪我人を救助する。彼らが裏で手に入れた偽物にしてはよく出来ている救急車に乗り、救急隊員のコスプレをした同胞たちが、怪我をしていない綺麗な献体を中心に保護するだろう。


 マフィア同士の抗争に巻き込まれて何人もの人が消えれば、世間はその犯人はマフィアだと思うだろう。そして受取手のモルタリスなら、後はどうとでも事実を歪曲して彼らをモルモットに降格させることが出来る。


(世界のヒーロー、ユニットにでも祈ってみたらどうだ? 尤も、ユニットは忙しくてお前達庶民の手伝いをするのは税金の無駄だと思っていることだろうが)


 自分たちの行先は天国のように甘い地獄だ。

 同じ地獄に堕ちるなら、楽しみ尽くしてから堕ちたい。

 彼は懐に隠した起爆スイッチを意識しながら上機嫌に通りを歩き――ふと、急に頭上から降りてきた影に気付く。


 陽光を遮り自らの影すら呑み込みながら、影はみるみるうちに広がっていく。最初は急に雲が太陽を遮りでもしたかと思ったが、影の質からして違うと気付いた彼は咄嗟に頭上を見上げた。


 果たして、そこにはビルがあった。

 見慣れた大きな高層ビルで、それ自体はおかしくない。

 おかしいのは、高層ビルが中ほどから本来有るべき場所を外れて宙を浮いていることだ。


「ありえない……」


 それは、まさに自分が爆薬を設置したビルだった。

 都心の馬鹿みたいな金がかかった高層ビルに比べれば低いが、それでも八〇階を超える高層ビルの莫大な質量が、落下するでも崩壊するでもなくふわふわと浮いている。


 彼の横に、ジェル状の何かで覆われた物体が落下してひしゃげた。

 見れば、彼が嫌がらせ用に設置したセントリーガンの変わり果てた姿があった。


 つまり、あのビルは爆破しようとした階層から上が浮いているとでも言うのだろうか。

 そんな馬鹿な、巨人が積み木遊びしているんじゃないだぞ――何が理由がある筈だ。でなければ、おれはいつの間にかドラッグのキメすぎでトリップしているに違いない。


 下で私服警察らしい数名が従えた警察ドローンを通して拡声する。


「ビルでテロ予告があったため、安全の為に今からこの周辺にビルを下ろします。下がって! そこ、もっと距離を空けて! 極めて危険ですので、さぁ!!」

「うわっ、なんだあれ!?」

「お、落ちてくるんじゃないの!?」

「いや、動いてないみたいだ……って、ええ!?」


 民衆の一人が驚愕の声と共にビルの下を指さす。


「ユニット!? あれユニットだろ!!」

「本当だ! 警察カラーって事は警察のユニット!?」

「よく見たらビルの裏にすげー沢山ユニットの色と同じ盾みたいなのが張り付いてる! すごーい、あれで浮かせてるの!?」


 実際には最も不安定な支柱を更に別のユニットが支えているが、偶然かわざとかアクティブシールドが隠していて下から姿は見えない。


 それは、逆光を背に格好良く佇んでいた。

 まるで片腕でビルを支えるように、コミックのヒーローみたいに格好良く。


 あの地獄の戦場から一度たりとも救い出してくれなかった誰よりも卑怯で不平等で役に立たないヒーローが、おれたちが奪おうとする命だけは守るのか。


「ふざけるなよ……」

「ふざけてるのはどっちだ?」


 直後、彼は背後から一瞬で警察組み伏せられた。 

 普段の彼なら、平和ぼけした警察に背後を取られなかっただろう。

 だが、認めたくない現実が彼から一瞬理性を奪った。


「あの短期間で上手く監視カメラを躱していたが、うちのハッカーをナメすぎたな。テロ容疑で貴様を逮捕する」


 叫ぼうとしても、猿轡を噛まされて呻き声しか出ない。

 自決用に口内に仕込んだカプセルさえ封じられた。

 ふざけるな、何もしなかったくせになんで俺たちにだけ力を振るう――その言葉を発することさえ許されず、ビルの爆破は馬鹿げた方法で死者を一人も出す事なく終了した。


『どうだ、不審者? ビルは破壊せずとも人を守ることが出来る』

『羨ましい装備だ。当方にもそれがあれば紳士的に済んだかもしれない』

『なら我々で押収し改良すれば装備がつけられるぞ』

『当方の手元からなくなっては困る』


 ――彼は知るよしもないことだが、それはイーグレッツの【ゼピュロス】のみがもつユニット専用装備、自律能動的(アクティブ)対象防護(シールド)システムによるものだった。

 アクティブシールドは複数同時に空中に浮遊させ自在に操ることが可能で、シールドだけで軍用クラスのパワードスーツをぺしゃんこに出来るほど自在に移動させることが出来る。

 イーグレッツはこれを大量に展開してユニットの処理能力で並行移動させることで、爆破されそうなビルそのものを取り外し、浮かせたのだ。


 黒いユニット――テウメッサはイーグレッツを勘違いさせるために町を防衛した謎のダークヒーローユニットを演じながら呟く。


『これでハッキリしたな。この騒動の黒幕は【ネスト】の中に潜伏している』

『白々しいな。最初から知っているんじゃないのか?』

『だとしても犠牲は抑えなければならない。当方もユニットを預かる身故な』

『では、まだ付き合って貰うぞ』


 犯人グループは作戦は成功するものと過信し、偽の救急車を動かしてしまった。

 人や物が大きく動けば必ずどこかに痕跡が残る。


『この馬鹿騒ぎの元凶を追い詰める』


 イーグレッツは力強く断言し、あてにしているとでも言うようにテウメッサの【ワイルド・ジョーカー】の肩を叩いた。テウメッサにはそれが、マフィアが片付けば次はお前だと宣言しているかのように思え、彼から逃げ出す算段をなるべく多く考えることにした。


(これがオウルが味わった気分かぁ。確かにこりゃ、開き直って楽しまなきゃやってられないな)


 仕事の殆どをテウメッサに押しつけて今頃悠々自適に過ごしているであろうオウルが、テウメッサは彼にしては珍しく本当に妬ましかった。

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