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アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
4章 アサシンズ・クアッドの捜索

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53話 もみ消す暗殺

 欲に溺れた権力者とはどうしてこうも愚かなのか。

 流石にここで護衛は必要ないだろうと思いつつも監視は欠かさなかったため対応は出来たが、人の性欲とはどんなに文明が発達してもコントロールしがたいものであることを思い知らされる。


 どんなにご立派な肩書きをぶら下げようと、理性の服を一枚めくれば中身はどうしようもない欲望の獣でしかない。

 驚くべきはそこではなく、そんな人間の目を一発で留まらせるユアの引き寄せ体質である。


「お、オウル……この人どうするの?」

『始末してもいいが、まぁ二度とユアに手を出せないよう折檻するくらいで勘弁してやる』


 表向きは護衛として呆れつつ、内心では棚ぼたラッキーの展開だ。

 この男の言い分が正しければ、ミロク工房は警察にも庇って貰える立場らしい。

 勿論施設はくまなく調べるが、シュンペが喋ってくれればくれるほど話は早くなる。

 【レイヴン】を通して部屋の機材を操作し、自動義手で失神したシュンペを引っ張り台の上にのせる。オウルが設定された適当な拘束ボタンを押すと、シュンペは尻が強調された姿勢で無理矢理四肢を固定させられた。


『この姿勢の使用回数が特に多い。尻好きだったようだな』

「きもっ……ほんっとサイテー! 一瞬でも立派な人だと思った自分に腹立つ!」

『ユア、こっちはこっちでやっておくからお前はとっとと見学中の俺と再合流しろ。ドアはこっちで開けておいた』

「うん。でもちょっとだけ」


 そう言うとユアは部屋の隅にあったお盆を持ってきて、意識のないシュンペの尻に振りかぶった。


「この変態おじっ!!」


 べし! と、お盆がシュンペの尻をはたく。

 本人なりに一発仕返しがしたかったらしい。

 大した威力もなさそうな一撃だったが、それで溜飲が下がったのかユアは息を吐くと素直に部屋を出て行った。


『……マイペースな女だな。まぁ、うじうじ抱え続けるよりは分かりやすくていいか』


 最高権限のカードキー。

 勝手に外から入ることの出来ない部屋と、そこに女を連れ込んだ代表。

 そしてここの端末は彼自身のデスクPCとも繋がって遠隔で仕事が出来るようにもなっている。

 内部を調べるには理想的な環境がここに完成した。


『さて、たっぷり情報を抜かせて貰うかね。サーペント、ユーハブコントロール』

『アイハブコントロール。こっちは引き継ぐから見学楽しんできなよ』


 こうして、結果的に突然の社会見学はオウルたちにとって有利に働くこととなった。


 見学は何事もなく終わったが、ユアの機嫌が悪いことに職員はやたら気まずそうだった。シュンペ代表は頻繁にセクハラ行為や女の連れ込みをしていたようで、ユアの身に何があったのか想像がついてしまったようだ。代表が暫く連絡を寄越さず部屋に籠もるのもよくあることなのか、現場に混乱は見られなかった。


 その帰りのバスで、ユアは不満を垂れる。


「あのおじさん、ちゃんと痛い目に遭わせた?」

「少なくとも俺には二度と逆らえないんじゃないか?」

「むー、あと何発かぶっておくべきだったかな……」

「やめとけ。新しいのに目覚めたらどうする」

「ちょっとやめてよ! それはそれできもい!」


 何に目覚めるのかは敢えて言わないが、一応利用価値があったので生かしてはおいた。

 ユアはまだ怒りが少し燻っているのか、珍しく追求を止めない。


「ねえオウル、結局あの人って本当に偉かったの? 警察に働きかけてもみ消しが出来るとか」

「流石に特務課が出てくれば話は違っただろうが、あながち嘘でもなかったみたいだ」

「義肢工房がそんなに力持つのかな? 幾らモルタリス・カンパニーと繋がってるからってさ」


 不貞腐れるユアだが、彼女もモルタリスがどんな会社かは知っている。

 世界に名だたる【ラージストⅤ】が一角、モルタリス・カンパニーは医療分野の最大手であり、医療関係のあらゆる分野で絶大な影響力と技術力を持っている巨大企業だ。

 ジルベス国内の医療全般でモルタリス・カンパニー製の機具や用品、薬剤が関わっていない部分は存在しないとまで言われており、海外の富豪たちもジルベスは嫌いだがモルタリスには世話になるという文言は有名である。


 どんな時代でも病魔と人の戦いは決して終わることがない。

 そういう意味では、ラージストⅤの中では最も海外受けがいい会社だ。

 ちなみにクアッドが世話になっている強力な再生ナノマシンもモルタリス・カンパニー製のものがベースになっている。


 ただ、彼らが警察に顔が利くのはモルタリス傘下だからというだけではなかったようだ。

 裏帳簿的な取引記録の中に、その内容がしっかり記されていた。


「あの工房は軍ともつるんでたんだ。義手の中に武器を仕込んだ強化兵士を作るプロジェクトにな。多分モルタリスの紹介だったんじゃないか?」

「そんな漫画みたいなことぉ……言われて見ればできそうだね。現に通信機仕込んでたし」

「あれだって戦場では結構便利な筈だ。通信するのに通信機を持つ必要が無いもんな」


 見学の際に目撃した光景こそがまんま漫画の世界だと思い出したユアは、妙に納得した。

 納得はしたが、やはり腹が立つことがある。


「でもさぁ! そのこととあのおじさんが変態でえっちな事ばっかりして起きる犯罪は関係ないじゃん! てか、そもそも犯罪しなきゃいいじゃん! なぁんでそんなことまでもみ消し出来ちゃうの!?」

「その方が手間がなく効率的だから」

「効率とかなんとか、私に関係ないよね!」

「その理屈で言えばユアの主張もあいつらには関係ない。つまりはそういうことだ」

「ああ言えばこう言う~……!」


 ユアが恨めしげにオウルを睨むが、別にオウルの意思に関係なく世の中がそういう力場が働くようになっているだけなので人のせいにされても困る。何か彼女の気を紛らわすことが言えないか悩んだ末に、仕方ないと内心ため息をつく。


「あのすけべじじいが権力を握っているのがそんなに許せないなら、権力の源である軍の組織を潰してきてもいいが?」

「……」

「……」

「……普通に生きていきたいだけだよ。私は」

「なら、普通の範囲を俺たちクアッドは守る。今はそれで納得してくれ」

「はーい。はぁ……」


 オウルの肩にだらりともたれかかったユアは、バスの天井を見上げて呟く。


「ジルベスで普通に生きるって、権力者に弄ばれるのが標準に含まれるんだね」

「お前ほど巻き込まれる女はそうそういないけどな」

「ひどーい。次のデート割り勘にしてあげない」


 ……ちなみに、オウルはユアが勢いで消してくれと頼んだら容赦なく消すつもりだったことを彼女は知らない。そして頼まれなくとも消すかも知れない辺り、まさにオウルである。


 データを解析して浮かび上がった軍の特殊部隊。

 内部では【再教育部隊】と呼ばれている、余りにも資金の流れが不明瞭なそこ。

 メイヴを名乗ったカノッソスがミロク工房から転属した先にある組織は、既にクアッドが叩き潰すのに十分な理由を抱えていた。


(再教育部隊に傷痍軍人連れてきて、義手工房とモルタリスがつるんでるんだ。これで臭いものが出てこないって方が無理があるよなぁ?)


 氷妖精メイヴの実態目がけ、着実にクアッドは近づいていた。

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