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アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
4章 アサシンズ・クアッドの捜索

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51話 感心する暗殺

 ジルベスの中等教育において社会見学は基本的には選択制で、学校側で行き先を決めるのではなく生徒の自主性を尊重して複数の候補の中から好きなものを選択する仕組みになっている。つまり、その中でユアとオウルが選択した先を外されて勝手に決められた場所に行くというのは珍しいことだ。


 だが、二人が選ばれたのはカップルだからという浮ついた理由ではない。

 このクラスで親から苦情が来る可能性が一番低いからだ。


「俺の家族は国境を越えた外で、ユアの保護者も別居してるだろ? もー120%打算だろ」

「またそんなこと言って……ひねくれ者なんだから」


 スクールバスで見学先に移動するオウルとユアは下らない話をしていた。

 オウルは大げさに手を挙げて抗議の意を示す。


「引率の教師すらついてきてないんだぞ?」

「遠隔ロボ来てるじゃん」


 ユアの指さした先には学校の所有する引率ロボがあった。

 同級生からはその形状から専ら『歩くゴミ箱』と馬鹿にされているそれは、多目的半自律ロボットだ。ゴミ箱の蓋が開くと中に液晶モニターが入っており、学校でロボットを操作する教師の顔が表示され、会話も可能だ。他、引率に必要な色々な機能が備わっているが、オウルが問題視しているのはそこではない。


「来てるったって教師は顔も見せなきゃ見学先の説明もしねーじゃねーか。ぜってー学校では別の仕事してるよ。ながらで挨拶と命令だけして他は全部ロボットの判断に任せる気だろ!」

「私たちなら余計なことしないっていう信用だって思えないのかなぁオウルは」

「そんな信用を勝ち取った記憶がないもんでな~」


 ユアは「そういえばオウル、結構不真面目だもんね」と納得する。

 オウル・ミネルヴァは教師に怒られるほどではないにせよ、やや不真面目気味な生徒で通っているのだ。とはいえオウルは自分の推論が間違っているとも思わない。本当に保護者に責任を果たすならば教師本人が引率に来て然るべきだ。


 生徒としては見ているが、優先順位をつけるなら下の方。

 それが学校の本音だろう。

 尤も、その方が都合が良いのはオウルの方だ。


(あの無人機は事前にサーペントに手を入れさせたからな。これを機に探らせて貰う)


 ミロク工房がいきなりの社会見学を受け入れた理由を探ってみたが、特にオウルを疑っている風ではなかった。それに学校から預かった生徒に危害を加えるような真似をすれば流石に問題になる。本当に偶然か、或いは関係者として疑われないためのクリーンアピールといった所だろうか。


「義肢制作なんて興味持ったこともなかったなぁ。ね、ね、どんなとこだと思う?」

「そりゃ当然右腕がビームキャノンにでも改造されるんだろ」

「もー真面目な話だってば!」

「じゃあ仕込み刀だな。こう、パカッと開いてシャキーンと」

「そんな機能日常生活じゃ役に立たないじゃないの。てか、手足を失った人達が真面目に義肢を求めに来る場所なんだからちょっと不謹慎じゃないの?」


 めっ! と子供を怒るような注意のしかたをするユアだが、まさかビームは嘘でも刀は大真面目だとは夢にも思っていないだろう。




 ◇ ◆




 ユアの世代では実感はないが、ここ十年で義肢は劇的な変化を遂げたとミロク工房の従業員は説明する。


「昔は形状や素材を工夫してなんとか日常に支障が無い形へ、と進化していった義肢ですが、十年前の戦争以降、手足を失った人のその後の人生をもっと豊かにするためにと研究が急速に進みました。その結果があれです」


 大きなガラス窓を挟んで反対側の部屋で、義手を手にした男がコイントスをしていた。

 生身と遜色ない速度で弾かれたコインを空中でキャッチする義手の動きに、ユアは目を見張る。こんなになめらかに動かせるとは思っていなかったからだ。


「医療分野の最大手であるモルタリス・カンパニーが開発した軽量人工筋肉と神経接続技術のおかげで、義手の動きはかなり生身のそれに近づいています。流石に再現しきれないものはセンサで補うしかありませんが、我々ミロク工房はこの義手から極限まで無駄を削り取ることで内部の容量に余裕を持たせ、付加価値を与えられないか日夜研究中です」

「付加価値ですか?」


 意味がよく分からず首を傾げるユアに、案内役の従業員はにっこり笑ってスマホを取り出すと誰かに通話する。すると、窓の先にいる人物の義手の手の甲が蒼く光り出した。男性は光の中に浮かび上がるボタンを押す。


『もしもし、こちら感度良好。どうぞ?』

「こちらも感度良好ですよ。如何ですか、義手内蔵型通信機の具合は?」

『面白いもんだな。なんていうか、腕時計型通信機に話しかけるヒーローの気分。あとはモニターがあれば完璧だ』

「近い未来には実現すると思いますよ」


 ユアもオウルも感心した顔をする。


「凄い! 義手が電話にもなってるんですか!?」

「こりゃいい! スマホを持ち歩く必要が無くなる! これは健常者には真似出来ないなぁ。それで付加価値ってわけですか!」


 さも感心しました、というリアクションに従業員は満足げだが、オウルが言っているのはお世辞なのだろうなぁとユアは内心呆れる。というか、オウルは口を動かさずとも仲間と会話できるらしいので技術的には絶対にクアッドの方が上だ。ユアは逆に知らないふりって大変だなと思ってしまった。


 しかし、自分の知らなかった義肢の世界は思った以上に最新技術の塊だ。

 機械関連に詳しくないユアだが、この社会見学に意義を感じて少しずつ従業員の説明にも前のめりになっていた。


「手足を失うというのは辛い経験ですが、失ったハンデが一生の不幸に繋がるのでは余りにも悲しいことです。今はこのような義肢は高額ですが、将来的には医療保障や保険制度との併用でもっと安価に世間に流通させられるよう義肢業界は日夜研究を続けているのです」

「凄い所なんですね、ミロク工房って!」

「まぁ、厳密に言えばうちの工房はこれら多機能性を維持しながら外見を生身に近づける、義肢の形状や造型が主な仕事なのですけれどね。例えば窓の先で義手の訓練をされている方のものはまだ外装が不完全な試作品なのですが……」


 従業員が近くの棚から取り出したものに、ユアは息を呑む。


「我々がしっかり外装を作ると、こうなります」

「これ、中身は同じなんですか?」

「ええ、構造は同じなのにまるで別ものでしょう?」


 完成したものだという義手は、腕の緩やかな曲線や肌の色、僅かに浮き出る血管や筋の凹凸まで細部に亘って拘り抜かれていた。関節をよく見れば義手だと分かるが、それでも上手く皺に近い形状になっていて遠目ではそれほど違和感がないだろう。


「うちは十年前の戦争で義肢の需要が高まるより遙かに前から義肢の制作を続けてきた老舗工房です。無骨で機械的な見た目の義手に忌避感を覚えたり、本物の腕ではないと実感させられて負い目を感じてしまう方もいらっしゃいますので、そうした人に気兼ねなく使っていただけるよう努力した結果がここにあります」

「……匠の技だ」


 オウルが感嘆の声を漏らすが、ユアはこの声は多少演技はしているが本音なのではないかと思った。義手を観察する目が真剣な気がしたからだ。

 何でも知っている風のオウルがこうして物に興味を示しているのを見ると、改めて、殺し屋と言えど普通の人と同じ所はあるんだなと思える。オウルは一般人と裏社会の人間を区別するが、きっと、環境や事情のせいでそうなっただけで二つの間にそれほどの距離はないのだろう。


 これが普通の工場見学だったらオウルのこのような側面は見られなかったかもしれない。

 ユアはこの社会見学に少しだけ感謝し、暫く好奇心から義手を観察するオウルの様子を楽しげに眺めていた。


(うふふ、夢中になっちゃって。なんか可愛いなぁオウル)

(この義手の色の付け方の違和感のなさ、やはりメイヴのものと同じ……ユニットで出来るだけデータを取っておこう。パターン化できれば今後の仕事に使えるかもしれない)


 ……オウルはいつものオウルだった。

 しかも、同時進行で引率ロボの内部にある格納空間からこっそり放出されたユニット専用無人機『レイヴン』によるミロク工房の調査が同時進行で行なわれており、全く普通の社会見学ではない。

 幸か不幸か、ユアがそれに気付くことはなかった。

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