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アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
4章 アサシンズ・クアッドの捜索

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45話 持ち込めない暗殺

 上手く言えないが、最近オウルの雰囲気がほんの少しだけ違う気がする。

 根拠はなく女の直感としか言えないが、ユアはそう感じていた。

 記憶を遡れば恐らくはオウル・ミネルヴァの設定上の友人であるエリッツが学校を休んだ辺りだったと思う。エリッツはそれから数日学校を休み続け、今日ついに病院で緊急性の高い病が発見された為に急遽都心の大きな病院に向かったと知らされた。


 今のオウルは学友と一緒に「道理で会えないと思った」などと話をしているが、ユアはオウルならそうした事態は事前に掴んでいたのではないかと少し疑った。もちろん、それを知っていたからと言ってべらべらとユアに喋ったら、ユアの側が別の場所でボロを出すかも知れないと警戒したのかもしれない。


 だが、もしかしたらエリッツの身に何か起きたのではないだろうか。

 ユアには言えないような、何かが。


(オウルは何も言ってくれない、か)


 ユアは暫くしてかぶりを振り、思考を中断した。

 疑ってかかったからユアに何か出来るものでもないし、単に興味が無くて知らなかったという可能性も否めない。確信の持てないことをあれこれ考えても、それは妄想にしかならない。そんなことは分かっている。

 それでも、もしオウルがユアに何か隠しているのなら、教えてくれないことがもどかしい。

 オウルは所詮仕事でユアを護衛しているだけの殺し屋だ。

 分かっている筈なのに、気持ちは素直に納得してくれない。


(わたしのワガママなんだろうけどさ。もっと話してくれればいいのに)


 そんなユアのわだかまりは、友人からかけられた声に中断される。


「ねぇユアったら聞いてよぉ。エレミィが怪奇ヘビ男を見たとか言い出してさぁ」


 声の主は友達のウィンターだった。


「ああ、エレミィ都市伝説好きだもんね……あれ? 見た? 直接?」

「本人はそう言ってるんだけどさー。いや、趣味とか信じること自体をどうこう言うつもりはないけど、エレミィもここまでキちゃったかと」

「その言い方めっちゃ腹立つぅ!! 見たもんは見たんですぅ~~~!!」

「それはちょっと流石に……」

「でしょ?」


 二人の反応が微妙になるのは理由がある。

 というのもエレミィは所謂UFOやUMA系の未確認タイプの陰謀論や噂が大好きなのだ。


 これまでも夏休みに政府が立ち入り禁止にしているエリア151への侵入計画を真面目に持ち出したり、UFOの目撃証言が多い過酷な山でキャンプしようと言い出したり、たまに目を離した隙にバイトで貯めたお金で本当に行ってしまうこともある。

 そんな彼女なので、変なものを呑み込んで形が変に見えるヘビを幻のヘビだと言い出したり、空を通り過ぎた飛行機を確認出来ていないから未確認だとUFO認定しようとしたりちょっとアレな人物なのである。


「もういい! そんなに信じないなら言ってあげないもんね~だ!」

「そんなにスネなくたっていいじゃん。もーエレミィは変なところで意地っ張りなんだから」

「あはは……」


 ユアとしてはエレミィの話にはついて行けないことが多々あるので追求しづらく、暫くウィンターとエレミィはじゃれあっていた。


 もしかしたら、オウルがエリッツのことを何も言わないのは本人なりに寂しさを覚えているのを悟らせない為なのかも知れない。そんな意地だったら可愛いので、勝手にそう思う事にしようとユアは悩みを心の片隅に蹴飛ばした。




 ◇ ◆




 オウルはエリッツに何の感情も抱いてはいない。

 強いて言えば、自分が中学生を演じるには丁度いい奴だったというだけだ。

 学校についても、今の所ユアの管理装置として利用しやすいとしか見ていない。


 それよりも問題は無差別殺人犯メイヴだ。

 学校が終わって友人付き合いを終えたオウルは、即座にアジトで仮想対面会議を始める。拡張現実を応用してクアッドにしか見えない映像、音声を用いて対話するもので、現実では何も起きていないため極めて秘匿性が高い。


 オウルはサーペントの申し訳なさそうな顔を見て、開口一番に問いただした。


「ダメか?」

「うん、全然ダメ」


 サーペントの姿は前に対面したときから更に変わってとうとう女性になっているが、オウルは気にしない。

 何がダメなのか。

 それは、殺人犯メイヴの情報収集が全く以て芳しくない件だ。


「低レベルの統制AIじゃなくてもっと上位のAIによって情報の制限と抹消がかけられてる。驚くことなかれ、中央警察庁の秘匿ファイルにすら納められてないんだ。ミケとテウメッサに方々回って貰って情報をかき集めてるけど、この正体の知れなさは我々クアッド並かもね。存在と手口だけが裏社会で回ってるって感じだ」


 警察が予想通りの動きをしたがためにオウルはエリッツを殺したのをメイヴだと判断したが、まさかこんなに謎だらけの犯人だとは思いもしなかった。元々都市伝説的に語られてきた話だが、政府さえデータを持っていないとなるとユアの護衛にも支障を来しかねない。


「言いたくはないが、都市伝説を再現した模倣犯って線はないのか?」


 オウルの問いに、テウメッサが神妙な顔をして答える。


「僕が調べた感触では、ないね。そもそも立件可能な事件だったら警察だって流石に捕まえてる。これだけ同じ内容の犯行を繰り返しておいて一切足が掴めないのが同一犯の証拠じゃないかな。或いは、計画を建てる犯罪コンサルタントが同一ってことかもしれないけど」

「……まぁ、ジルベスの狗もそこまで無能じゃないか」

「狗なんかよりネコの方が有能ですにゃー」

「黙ってろイカレネコ」


 ミケをスルーしてオウルはかき集めた情報に目を通す。

 そこにはメイヴが引き起こした事件のうち、判明しているものがあった。


 まず、メイヴの起こした事件の発見時刻、場所、件数、それに犠牲者の身元はは警察が公的に持っていた。

 そもそもこれを把握しないことにはメイヴの犯行かどうかさえ判断がつかないので当然だ。


 警察はここから一般的な殺人事件としての捜査をするのだが、ある程度捜査してメイヴで確定だとAIが判断したらそこで捜査を打ち切って書類を全て抹消、これを繰り返していたようだ。抹消された事件は他の所轄に共有されることもないし、箝口令が敷かれるので情報が閉じてしまう。


 テウメッサとミケが手分けしてこれらの事件の所轄警察を探ったが、データはハードごと消去されてクラウドにも上がっていない。当時の捜査に納得がいかなかった何人かの警察の個人的な記録が幾つか出てきた程度だ。

 監視カメラの映像もサーペントは漁ったようだが、犯人が巧妙なのかそれともとうの昔に改竄した後なのか、めぼしいものは何も出てこない。そもそも監視カメラで犯人が特定出来るとしたら警察が自力で見つけた筈なのであまり成果は期待できない。


 その上で、裏社会に流れる噂の中から信憑性の裏付けが取れたものをテウメッサが纏めて列挙していた。


「メイヴの特徴その一、必ず被害者の人体を凍結、解体して現場にオブジェを作る。その二、必ず室内で犯行に及び、オブジェの部屋は大量にドライアイスを敷き詰めた上で密閉している。その三、解体に使用した道具は極めて鋭利な刃物によるもの。その四、事件前後に犯人らしき被疑者を絞り込むことが出来るが、何故か犯人に結びつかない……ね。最後の一つの曖昧さが気になる」


 ミケが身を乗り出して「だよねー」と笑う。


「気になったので、調査した当事者に突撃してきちゃいました~!」

「で、当事者は?」

「死んじゃったけど?」

「だと思った」


 殺したのは間違いなくミケである。

 メイヴの事件を覚えていたばっかりにこのイカレサイコ女に惚れられ理不尽に殺されたい警官達が哀れだが、ユアにばれなければいいかとオウルは話をしれっと流した。


「詳細を」

「んとねー。犯人の可能性のある被疑者を見つけるんだけどね。まず状況的に犯行可能なのはその人しかいないなってなるんだけど、そこですぐに問題が起きるの。ズバリ、ドライアイスどっから用意したの? って問題」

「ん……現場を見た俺からすれば、被害者の家で作ったんだろうなと思ったが、なるほどな」


 エリッツの死亡現場には大小様々、それほど広くないとはいえ部屋の床を全て埋め尽くすほどのドライアイスが散らばっていた。あれほどのドライアイスを加工済の状態で家に持ち込もうとしたら最低でもワゴン車で乗り付ける必要があるくらいには。


「ドライアイスは二酸化炭素の塊だ。液化した二酸化炭素のボンベでもあれば作ること自体は難しくない。が、そんなもの持ってるようには見えなかった訳だな」

「そーなのよ。ほぼ手ぶらで歩いてるの。当然、現場に都合良く二酸化炭素のでっかいボンベが都合良くある訳ないし。凶器も謎だし。でも犯人捕まえれば手口が分かるかも知れないって警察はその人を追うんだけど……死んじゃってるの」


 まさに都市伝説のような話だ。

 警察はその人物の行動を洗ったりカルトに染まっていないか調べるが手がかりはなく、やがてメイヴの事件だからと蓋を閉じられる。未解決事件のできあがりだ。

 学校でユアの友人が怪奇ヘビ男の話で盛り上がっていたことを思い出したオウルは、「犯人はヘビ男だな」と肩をすくめた。つまり、正体不明だ。


「……とにかく、どのような方法であれユアが無事なら俺らの勝ちだ。それにメイヴはある程度殺したら町からいなくなるんだろ? こういう儀式的な猟奇殺人を行なう人間は自分の定めたルールに何よりも厳格な場合が多い。ならやりたいようにやらせ、姿を現したらば殺せば良い」


 クアッドが問題を解決する必要は全くない。

 守るべきはユアただ一人。


「クアッドが猟奇殺人者如きに負けてたまるかっての」


 しかし、オウルは同時に嫌な予感がしていた。

 ユアに降りかかる不幸は、なにもユアのみが被るとは限らないのだから。

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