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アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
3章 アサシンズ・クアッドの防衛

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41話 分割する暗殺

 やはり、ロイド・ベクター・ジュニアは失敗しない存在なのだ。

 彼は自分の英知と慧眼に酔いしれ、自画自賛した。


 父に極秘で建造した『K.O.G』の存在は当初信頼出来る幹部の間でも疑問視されていたが、今こうしてしっかりと完成して役に立っている。

 町を消滅させるという行動も、こうしてベクターズホールディングスに唯一不足する『ユニット』という巨大な抑止力の入手に繋がった。


 実際には町を潰すこととユニットに彼は関連性など見出していなかったし、そもそもまだ入手できていない。にも関わらず、ジュニアはそれら全てが自分が齎した采配だと信じて疑わない。


「私は絶対に正しく、失敗しない!! これまでの全てに無駄など何一つなかったのだッ!!」


 政府への働きかけで町を探ったこともSBP構造問題も、全てはこの結果をあぶり出す為の過程に過ぎなかった、と彼は思い込む。このような革新的な物事の進め方は父には一生をかけても実行不可能だっただろうと嘲る。彼の思考は飛躍に飛躍を続け、遂には別惑星にベクターの国が出来るところまで飛んでいた。


 『K.O.G.』の動力であるプラズマリアクターは二酸化炭素を酸素に変換する機能を同時に稼働させることで星の大気組成すら操れる。生命体などいない漠たる大地を『K.O.G.』が耕し、資源を採掘し、内部工場で必要な物資を作り出し、やがて世界初の未来モデル都市を建造する。


 規模は地平を埋め尽くすほどで、そこでは持続可能な循環型の社会が形成され、移り住んだ民達は誰もがベクターズホールディングスとそれを率いるベクター・ロイド・ジュニアを毎日賛美する。やがてその神の如き力はジルベスどころか世界を二分(にぶん)する巨大な勢力になる。

 勿論、その力はすぐに自分の掌の上で一つとなる。


「私は名実共に宇宙一の社長ッ!! さあ未来へ、新たなる地平へッ!!」


 高く掲げた両手を、眼前のモニターの中で爆撃と砲撃に晒され続けるユニットにむけて包み込むように、愛おしそうに伸ばす。恍惚の様子は既にモニターと現実の境すら曖昧になっているかのようで、付き従って『K.O.G.』の制御を行なう部下達も不安に思うほどだった。


 数百のパワードスーツに狙撃され、数千のレーザーを一身に浴び、数万のドローン特攻の波状攻撃を受け、ユニットは全く身動きが取れていない。


 如何に無敵のユニットであれ、中に入って操縦するのは人間だ。

 この衝撃を全て受け流して長時間耐えられる筈もない。

 あとは熟成した食材が調理を終え、テーブルに差し出されるのをナイフとフォークを手に優雅に待つだけ。食前酒を楽しむ余裕さえある。


 ベクター・ロイド・ジュニアは全てにおいて正しい。

 そう思うが故に、彼は根本的な問題にとうとう気付かなかった。

 ユニットがその場から寸毫たりとも動かず、完全に静止していることを。

 その、意味に。


 鋭い警告音が走り、社員が顔面蒼白でジュニアの方を振り返る。


「社長、緊急事態が!!」

「……?」

「『K.O.G.』の両端ブロックから切り離しのシークエンスが勝手に発動しています!!」

「……そのようなことは命令していないが?」


 ジュニアはきょとんとしていた。

 普通ならば、技術的トラブルや敵に細工されたと考えるが、深く妄想に入り浸りすぎたジュニアにその発想はない。首を傾げた社長は自分なりに解釈した。今、全てが上手く行っている中で上手く行かない事態が起きたとしたら部下のヒューマンエラーだろうと。


 ジュニアは報告した社員をその場でセキュリティレーザーによって斬殺した。

 他の社員たちが悲鳴を上げるが、彼らにセキュリティレーザーの照準を向けると慌てて職務に戻り、沈黙が場を支配した。


 ミスする部下など必要ない。

 従業員は家族だ。

 家長によってその生存と存続を許され、家長に絶対服従の家族だ。

 ルールを破ったのならば、もう家族ではいられない。


「私の命令した内容から逸脱せず、イージーミスせず、言われた通りにしないからミスが起こるんですよ?」


 ジュニアは気付かない。

 トラプルを解決するための人員を自分で減らして自らを窮地に追い込んだことに、気付かない。

 何故ならジュニアの見る世界では、何も、失敗していないのだから。


 瞬間、『K.O.G.』の巨体が大きく揺れ、モニターが『K.O.G.』の両端の接続が解除されたことを告げた。



 

 ◆ ◇




 もういいか、と、オウルはバリアの出力を上げてあらゆる攻撃と衝撃を完全に遮断したまま緩やかに後退を始めた。


 あの社長にとっては馬の鼻先に吊されたにんじんだ。

 追う以外の選択肢はなく、『K.O.G.』が前進を始める。

 すると、『K.O.G.』両端それぞれ五〇〇mずつが、本体の移動についていかずにその場に留まる。輪切りにされたトウモロコシのようだとオウルは鼻で笑った。さっきから巨大ホログラムの社長が間抜け面をずっと晒している。

 内部の通信を拾うと、あの中でどんなやりとりが起きているのかよく聞こえる。


『切り離しシークエンスが勝手に進行しています! 第二切り離し開始! 防げませんッ!!』


 また両端五〇〇mが輪切りのように切り離される。

 長大だった『K.O.G.』の全長はこれで六kmから四kmまで短くなった。


「図体が巨大過ぎたんだよ。だから、易々と侵入を許す」


 薄ら笑いを浮かべてオウルが前方に右肘を突き出すと、その上がバチバチと音を立てて光り、そこに『ナイト・ガーディアン』が使役する小型無人機『レイブン』が姿を現した。


 前回はダクトの中を六本脚で歩いたレイブンだが、本来これは空中移動が主な機能であり、オウルは戦闘開始より以前からこれを複数放ち、迂回させながら『K.O.G.』に侵入させていた。ユニットが運用することを前提に設計された高度なデバイスであるレイブンはそれ自体にステルス・欺瞞機能や電子戦機能がついており、オウルとジュニアの会話が始まった頃にはとっくに侵入済みだった。


 『K.O.G.』を開発する施設のセキュリティは大したものだったが、急造品故か内部のセキュリティは大したことはなく、レイブンたちは無事侵入。そしてオウルがバリアで時間を稼いでいる間に全ての仕込みを済ませていた。


「ロマンチストにも一廉の理性はあったようだな。当然と言えば当然……本来ならまるごと動かす方がおかしな話だ」


 オウルは作戦立案時にサーペントが齎した情報を思い出した。


『この巨大な薬品樽には付け入る隙がある。普通に考えてここまで巨大なのりもの、運搬出来るものじゃない。自力移動は見ての通り地形を破壊するし、宇宙に打ち上げるなんて論外だ。それならもう宇宙で組み立てた方が良いし。彼らも当然それを考えた。そして、現地で組み立てるのに効率的なブロック構造に辿り着いたんだ。これならプラネットフォーミング先にも効率的に運搬できる』


 『K.O.G.』は三つのブロックに分かれているとジュニアは言ったが、それは役割の話で、実際にはかなり細かくブロックで別れていた。それらはSBP構造を応用することで普段はしっかり結びつきつつも、自壊装置を作動させることで即座に切り離すことができる。嘗て大問題になった構造的な脆さを設計に利用したのだ。


 そして、『K.O.G.』は中央の頭脳を守る為に問題のあるブロックを即座に切り離すシークエンスが実装されていた。さしものベクター社も万一の事故の被害を最小限に抑えて中枢を守るという発想はあったらしい。


 後は簡単だ。内部の端末に入り込んだレイブンたちはコンピュータウィルスをシステムに流し込み、非常事態の発生を誤認させる。すると勝手にパージが始まり、巨大な薬品樽はどんどん分割されてコンパクトサイズになっていく。


 ホログラムのジュニアは顔を真っ赤にしてオウルと『ナイト・ガーディアン』を追うが、動けば動くだけ『K.O.G.』の巨体が段階的に切り離されていく。切り離すことで身軽にはなるが、ユニットの飛行速度に追いつけるかといえば否だった。

 ホログラムの右手がユニットを求めて何度も正面に突き出される。


『すぐそこに宝があるじゃないかぁあぁぁ!! なんで届かないんだよぉぉぉぉぉぉッッ!!』

「最初から届いてないんだよ、新社長くん」

『目上の人間にはッッ!! 言葉遣いに気をつけろぉぉぉぉぉーーーーーーッッ!!!』

「ほうれ、こっちこっち。あんよが上手」


 へらへら笑うオウルの安い挑発に乗って進む『K.O.G.』はとうとう中枢が収められた中央一kmだけが残った。その間も破砕機構内部に潜むパワードスーツは射撃を繰り返していたが、彼らは恐らく視界の悪さで自分たちの置かれた状況に気付いていないようだ。


 悪戯心のままに、オウルは緩やかな後退から一転して前進を始める。


「男らしく正面勝負でもするか? 新社長くん」

『そんなに死にたいのならッッ!! この庭師の王が圧倒的な力で挽き潰してくぅぅれぇぇるぅぅぅぅーーーーーッッ!!!削岩採掘装置ィィ、稼働率100%ォォォォォォッッッ!!!』

『し、社長!? おやめください、そんなことをしたら――!!』


 社員の制止を聞く間もなく、採掘装置が耳を劈く唸りを上げて稼働を始める。

 すると、何が起きるのか。


『ウギャアアアアアアアアアアア!!』

『やめて、やめ……アガガガガガァァァァ!?』

『うブビッ――』


 採掘装置の隙間から攻撃していた無数のパワードスーツたちが逃げ遅れ、採掘装置に砕き散らされた。オウルの挑発に乗ったジュニアのたった一回の浅慮なミスで、防衛に回した部隊が全員原形も留めず砕け散り、『K.O.G.』の中に吸い込まれていく。


 余りにも凄惨な光景に、オウルは面白がって光を遮るよう掌を目の上に翳す仕草で眺めているポーズを取る。ユニットには全く不要なポーズだ。


「あーあー。今まで内部の防衛部隊を傷つけないために採掘装置の一部を敢えて稼働させていなかったのに、安全確認せずに全部稼働させるから」

『なっ……あ……』


 如何に『オベリスク』と『アトランティード』が強靭なパワードスーツとは言えど、山をも削り取る採掘装置に巻き込まれてはひとたまりも無い。完全稼働中はもっと内部の安全なスペースで待機しており、戦闘を想定して一部の採掘装置を可動させないなどの事前対策はしていたのだろう。

 そうした現場の声を無視してノリで装置をフル稼働させたジュニアのミスである。

 

「こりゃ労災だ。現場労働者の命ってのは安いねぇ。命の軽い労働環境は持続可能とは言えないぞ?」

『き、さま……貴様貴様貴様貴様貴様貴様消えろ消えろ消えろ消えろ私は間違っていない私は間違っていない私は間違っていない全てにおいて全方位においてあらゆる理論において結果において明朗に潔白に正しい正しい正しい正しい正しい、正しいのだぁぁぁぁあぁぁぁーーーーーーッッ!!!』


 小さくなってもなお、全高一kmを誇る超巨大構造物による突進が迫る。

 人間でもパワードスーツでも決して回避の出来ない決死の吶喊だ。

 しかし、ユニットにとってその動きは余りにも遅すぎた。


 オウルが軽く念じるだけで、『ナイト・ガーディアン』はその場から上空に飛翔すると『K.O.G.』の頭を通り過ぎて背部に回り込む。頭上を抜ける際に上にいたが故に生き延びたパワードスーツの対空砲火を受けたが、時間稼ぎをする必要が無い今のオウルには止まって見える。


「邪魔だ、失せろ」


 両手に愛用のユニット用拳銃『ブリッツ』を握り、軽やかに、しなやかに、最小限の動きで全ての機体射撃。次々に命中した弾丸はコクピット内で炸裂し、損傷箇所からオイル混じりの鮮血が次々に噴き出して周囲を赤く染める。

 一切速度を緩めない『ナイト・ガーディアン』は鳥のように翼をはためかせて背部に回り込むと、空に向けて手を上げる。


 瞬間、どこからともなく飛来した数十機にも及ぶ無人機『レイブン』が主の命令に馳せ参じた。


「少々派手さに欠けるが、クライマックスといこうか」


 振り上げた手が光り、収束したプラズマが手の振り降ろしと同時に解き放たれる。

 ホログラムの社長が顔だけ振り返って喚き散らかす。


『愚劣愚劣愚劣ぅ!! 背部なら防御が薄いとでも思ったか!? 逆だ、全くの真逆ッ!! この『K.O.G.』は全面が耐熱仕様ッッ!! 摂氏一万度の熱だろうが物の数ではないわぁぁぁぁぁッッ!!!』

「あっそ」


 『ナイト・ガーディアン』の放ったプラズマ射撃は、自慢の耐熱装甲を一瞬で融解させ、内部の機構や工場のありとあらゆる危険物を回避する直線ルートで動力炉付近のシールドへ到達し、外より遙かに耐熱性能の高い筈のシールドをも融解、貫通した。


『はっ――?』


 突破に可能な出力の計算さえ事前に行う事が出来れば、リミッター以上の出力を出す事は可能。あとは場所の問題であり、その気になればオウルはいつでも社長の頭を吹き飛ばすことが出来た。

 この戦いは、最初からジュニア社長の一人相撲でしかない。


「じゃ、あとよろしく」


 その一言とともに、たったいま開いた風穴に『レイブン』達が高速で次々に入り込んでいった。

 オウルの仕事はこの薬品樽の安全な解体。

 そのためにはあらゆる可能性を考慮し、確実に制圧しなければならない。

 悪党のお約束の自爆装置などあろうものならここまでの努力が台無しだ。


 やがて、中枢を完全に制圧したレイブンから送信されてきたデータを余すことなく確認したオウルは右手の拳を握りしめて正面に突き出すと、親指を立てる。

 オウルはその親指を、まるで何かのボタンでも押すように曲げる


「BOM、ってな」


 瞬間、中枢に侵入した無数の『レイブン』が自爆し、内部にいた人間全員を衝撃と焦熱が襲った。

 シールドに覆われていることによって衝撃は侵入した穴を除いて逃げ場はなく、内部で椅子の下に隠れた者も、頭を庇った者も、命乞いをした者も、そしてこれだけの事態をしでかしたロイド・ベクター・ジュニアのレイブンを殴り壊そうとする憤怒の表情を忠実に再現した巨大ホログラムも、全てに対して平等に、破壊が覆い尽くしていく。


『私は――正し――』


 立体映像の顔面は、爆破されて人体が砕け散る瞬間にジュニアの頭蓋の中から飛び散ったものまで鮮明に再現していた。実の父を殺害して世界最大の企業であるラージストⅤの一角の頂点に上り詰めた男の、世辞の句すら許さぬ呆気のない最後だった。


 自分の手を数秒見つめたオウルは、『K.O.G.』が通り過ぎた後に延々と広がり続けるふかふかの土で出来た畑が月明かりに照らされる様を眺め、一つ息を吐き出した。


「これが宇宙一の社長の後に出来た道か。ただ広いだけで中身がねえな。せいぜいトウモロコシ畑に利用するのが関の山だろ」


 立派な題目に反する中身のなさこそ、あの虚栄心で塗り固められたジュニアの本質だったのかもしれない。それでも、これだけの物を作り出す技術を資金をかき集める能力があったのは確かだ。


 後は、ユア・リナーデルの住む町さえ狙っていなければ本当に偉大になっていたかもしれないが――ユアに危害を加える存在になった時点で、疾うの昔にその道は閉ざされていた。

最後らへん後でちょっと書き足ししました。(11/20)

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