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アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
3章 アサシンズ・クアッドの防衛

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40話 過剰すぎる暗殺

 ――時間はそこに辿り着くまでの全てを明かし、漸く現在へと戻る。


 オウルの眼前に迫るのは山をも貫き移動する怪物。

 キングオブガーデナー、庭師の王。

 その解体方法を頭に叩き込んであるオウルは、ユニット『ナイト・ガーディアン』を駆り上空から見下ろす。


「……改めて見るとマジでイカレてんな、これ作った連中」


 全高一〇〇〇メートル以上、横長の全長はその六倍はある。

 一〇〇〇メートルあれば世界一高い塔と背比べで勝てる高さで、原子力空母を縦に三隻並べたって届かない。その高さの物体が乗り物で、金属製で、動いているなどふざけすぎている。総重量が幾らになるのかは想像もつかず、動いているのが奇蹟ではないかと思える。


 ただ動いているだけでも脅威なのに、この塊には山を丸ごと削岩する機能まである。時として人の信仰の対象となり生物たちにとって世界の一つとも言える山を丸ごと掘り崩して平らにしてしまう能力があれば、もはや町や傾斜など何の障害にもなりえないだろう。


 そして、これを操っているであろうロイド・ベクター・ジュニアの声がオープン回線で響き渡る。


『君が君が君が君が私の私の私の私のこのベクター・ロイド・ジュニアの邪魔をする要因とみてよろしいですねぇぇッ!?』

「だったらなんだ」


 敢えて挑発の為にオープン回線で返事すると、ジュニアは目を剥いて頬を吊り上げた。


『プレゼンテーショォォォォンッ!! のッ!! お時間ですッッッ!!!』

(……ここまでヤバイやつ見るの初めてだな。規模も人格も)


 クアッドの中では人の心が分かる方のオウルでさえ理解を諦めるほどジュニアは様子がおかしかった。嫌なことが起きた町だから消滅させてなかったことにしようとする人間に常識など求めていなかったが、ここまで来ると幻覚作用のある植物でハイになって別の世界に精神が飛び立っていると考えたくなる。


『今から君をなかったことにするこの『K.O.G.(キングオブガーデナー)』はッ!! ケスラーシンドロームによって増え続けるスペースデブリによって宇宙開発の夢を諦めた全人類に明るい未来を提示するベクターホールディングスのインクレディブルなのりものなのですッ!! すなわちッ!!』


 次の瞬間、『K.O.G.』の上部にあったらしい立体装置が五〇〇メートルはあろうかというジュニアの顔面の立体映像を出して満面の破顔を見せつけた。


『この()()()()は、完全実用前提の新世代プラネット・フォーミング。マシィィィンッッ!!! なのですッッ!!!』

(顔……)


 巨大な顔のジュニアのテンションが振り切れているせいでとんでもなくシュールである。今年のファッキンコラージュグランプリで金賞を狙えそうだが、実写なのでレギュレーション違反なのが残念だ。もちろんジュニアは全く気にしていない。


「しかしプラネットフォーミングと来たか……」


 十年前の戦争より更に前、とある愚かな独裁国家がジルベスに対抗する為にジルベス製の人工衛星を弾道ミサイルで片っ端から破壊するという計画を実行した。

 計画自体は成功したのだが、弾道ミサイルで破壊された人工衛星はデブリとなって衛星軌道上を飛び回り、他国や自国の人工衛星まで破壊。更に破壊された人工衛星がデブリとなって更に予想外の方向へ飛び散り、デブリがデブリを生む連鎖によって宇宙ロケットの安全性が確保できなくなったことで人類全体の宇宙進出が頓挫した。

 これが先ほどジュニアが口にしたケスラーシンドロームである。


 ちなみに実行国は全世界の逆鱗に触れて他国からの壮絶な経済制裁の末に完全に国交を断絶され、今現在世界一の貧困と食糧難に喘ぐ国家として存続している。反乱を防ぐために自国民から知恵と文明を奪って国に閉じ込めることで自分の逃げ道も塞ぎ、痩せた土地で飢え死にするために生まれる命を国民と呼ぶ独裁政権の、存続しているが故に終わらない地獄だ。


 しかし、そんな連中も別の居住可能惑星に旅立てれば幸せになれるかも知れない。

 星を改造して人類の生存可能な環境に変える、プラネットフォーミングならば。

 地上の全てが誰かの所有物になった今、新たに開拓可能なのは他の惑星だけだ。

 尤も、ケスラーシンドロームの可能性を無視してその道を閉ざしたが故の今なのだが。


 十年前のジルベスとパルジャノの戦争でもこの影響は双方に対して大きく、今はデブリが命中しても耐えられる最新型人工衛星によって辛うじて持ち直してきているが、デブリ対策設計にかかる予算が膨大なためどの国でも宇宙開発は下火になってしまっている。


 ベクター・ロイド・ジュニアはその環境に風穴を開けるつもりのようだった。


『ベクターホールディングスは世界に先駆けて企業単独で惑星開拓を行ない、その行き来に耐用可能な次世代宇宙航行機を開発し、宇宙進出企業のさきがけとなるッッ!! そしてそれを実現する装置こそが、この『K.O.G.』ッ!! 我らベクターズホールディングスは星を越え、第二の母星に初めて建築を行なうことで人類の輝かしい歴史にその名を永遠に刻むことになるでしょうッッ!! ああ、私は嬉しい……この夢のような事業が実現する様をその目に刻むことが出来る、今の時代を生きる全ての人々の存在に感謝したいッ!!』


 本当に嬉しいのか、天を仰いで熱のある声を漏らすジュニアの口からは涎が垂れていた。

 と、いきなりジュニアの立体映像が目を剥いてオウルの方を向く。

 あまりにも急かつド迫力過ぎて常人なら悲鳴を上げて驚きそうなくらい怖い。


『では今からキング・オブ・ガーデナーのスペックについて説明致しますッッ!!!』


 直後、『K.O.G』が更なる咆哮を上げて加速した。

 大地を陥没させ、粉砕し、粉塵を巻き上げなら。


『この機体は大まかに分けて三つのパーツで構成されておりますッッ!! 一つは正面一杯に広がる我が社自慢の削岩採掘装置ィィィィィィッッ!!!』


 それは『K.O.G.』の巨体を正面からみればまず目につく、というか殆どそれしか目につかないほど巨大な削岩装置の集合体だ。


 バレルのような構造の横向きの回転装置にドリルつきの突起やチェンソーのように回転する鋭い刃が満遍なく取り付けられたそれは、相手がどんなに強固な岩盤でも、同じ金属の塊が相手でも粉砕する凶悪な姿のまま高速回転していた。

 しかもこの回転装置は上部、から下部まで含めて複数の種類が存在し、正面を対象とする際あらゆる角度、あらゆる硬度をあらゆる方法で破砕出来るよう設計が為されていた。


『たぁだの粉砕に収まらず、この装置は粉砕したものを内部で回収し、素材別に分別し、最終的に不要な土をふかふかにして後方に吐き出します!! 資源回収、分別、排出の全行程が完結したこの装置は、通り過ぎた後の大地を平地に変えるという地形の操作さえも可能ッ!! 将来的には山の形状や川の生成のための微調整や地盤固めによってプリンターのように通り過ぎた場所に町の原型を作る活版印刷ならぬ活版印地すら視野に入れているという精緻ぶりッ!! それもこれもベクター傘下の下町の技術者の底力あってこそですッッ!!!』


 さもいいことかのように言っているが、初使用の理由が町の粉砕と住民の轢殺なのでジュニアは下町の底力に謝るべきである。


『更にィ、回収の際により効率的に取り込めるようレーザー切断機能も内蔵ッ!! AIが即座に前方の物質の素材や硬度を判断して最適な形に切断致しますッ!! ではデモンストレーションをどうぞォォォォッッ!!!』


 瞬間、削岩装置に仕込まれた大量のレーザーがオウルただ一人を照準した。

 複数の削岩装置のうちの一部に仕込まれていたものだ。


「ちっ」


 舌打ちと共にオウルは『ナイト・ガーディアン』で高速移動を始め、それに追従するようにレーザーが次々に照射されて夜空をイルミネーションのように彩った。『ナイト・ガーディアン』に届く射角のレーザー数は推定千単位。

 一撃一撃は装甲の脅威ではないとしても万単位のレーザー砲が一点に集中すればその威力と熱量は驚異的だ。


 三次元機動を駆使して辛うじて直撃を避けるオウルは三連装ミサイルポット『トラフィック』を翼に四つ展開して計十二発のマイクロミサイルを解き放ちながらユニット用狙撃ライフル『フッケバイン』でレーザー装置を狙撃する。


 しかし、ミサイルは全て撃墜される。当然と言えば当然で、レーザー兵器はミサイルやドローンを撃墜する兵器として安価なものだからだ。狙撃は命中するが、数千あるレーザー発射口を二つ三つ壊した程度でどうにかなるものでもない。暫く狙撃を続けたが、途中でレーザーの熱に銃身を焼かれたので投げ捨てた。


(面倒だな、このレーザー。長時間照射し続けるのもあれば軍用と同じく単発で発射するものもある。真っ当に回避するのは無理だ!)


 こればかりは避けられなくて当たり前。

 何故ならレーザーの速度は光と同等だからだ。

 照準から発射までのラグも優秀な火器管制システムならリアルタイムでラグを修正してくる。現状ある程度避けられているユニットの性能がそもそも異常なのであって、パワードスーツであったならば秒も保たず中身が蒸発していただろう。


(まだ攻めるには早い。ここで堪えるか……!)


 やむなく『ナイト・ガーディアン』のバリア出力を上げて弾くことにする。

 しかし、手の内を自ら明かしたことでジュニアの表情に僅かな理性が戻る。


『……その機動力、その防御機構。ははぁ、ユニット……ユニットですか。あのパワードスーツ最大手のトライオス・コーポレーションでさえ所持を許されないジルベスの最強兵器が出てくるとは……実に興味深いですねぇ!! 折角お目にかかったんだ、ユニットの耐久力と回避能力の限界を確かめてみましょう!!』


 ジュニアの巨大ホログラムに彼の右手が表示され、ぱちん、とフィンガースナップを鳴らす。

 直後、回避中の『ナイト・ガーディアン』を追うレーザー照準が一斉に増加する。

 光の元となっているのは、回転していない破砕機内部に存在する広いスペースのあちこちからBBバンカーバーストカノンでこちらを照準する無数の『オベリスク』と『アトランティード』、そして『K.O.G.』の上部から次々に出現する数えるのも億劫なほどのドローンだった。

 余りにも多く、黒い靄が飛んでいるような様はイナゴの大群を彷彿とさせる。


「多過ぎだろ……ドローンの世界トップシェアでも狙ってんのか」


 呆れるオウルに対し、ジュニアは突然企業のトップ然とした余裕ある微笑むを浮かべる。


『先ほど『K.O.G.』は大まかに分けて三つのパーツで構成されていると言いましたね? この機体の二つ目のパーツとは生産工場なんですよ。削岩採掘装置で巻き上げ分別された原料は全て工場に運ばれ、大量の三次元構造出力機と最新鋭の組み立てロボットアーム等々、そしてそれを統合管理するシステムによって即座に生産に回せるように出来ています。すなわち、『K.O.G.』は移動する工場でもあるのです……』


 つまり、あのドローン兵器はここに至るまでに大地から回収した資源と、恐らくは元から積んである資源によって現在進行形で量産され続けていることになる。

 そして、それらを維持するのに必要な莫大なエネルギーは桁違いの出力を誇るプラズマリアクターから供給されている。


『ユニットと言えど有限の兵器。この一意的で驚異的で圧倒的な物量を相手にどこまで耐えられるのか、見せてみください』


 オウルは、狂っているくせに意外と打算の働くジュニアをあながち馬鹿ではないと思った。

 彼は所持こそしておらずとも一般人より遙かにユニットというものの情報を知っている。

 余りにも強力すぎてリミッターが不完全であることも、それを差し引いても唯の物量で壊せないことも、そして――ユニットは継戦可能でも中身はいつまでも無事とは限らないということを知っている。

 彼の狙いは既にオウルではない。


「中身がくたばるのを待ってユニットの方をを手に入れるつもりだな。強かな奴だ……ラージストⅤが唯一政府から貸与も所有も関与も全て拒否されている地上最強の抑止力を手に入れれば、政府もおいそれと手が出せない。今回の蛮行もすぐには咎められないかもな」

『蛮行だなんて人聞きの悪い。むしろトラブルをなくしてあげようとしているというのに……君に対してもそうですよ』


 巨大ホログラムの右手がオウルを指さす。


『これより歴史の覇者となるベクターに一切貢献することの出来ない愚図で暗愚で愚鈍で愚劣極まりない存在である君にとって、この世に存在していることそのものが苦痛な筈。でも大丈夫! この私、ロイド・ベクター・ジュニアはどんな下々の声もしっかり余さず聞き届けますとも! そして決定を下しましょう!!』 


 ジュニアの右手が親指を立ててサムズアップし、それを真っ逆さまに返した。


『君は世界からぁぁ~~……リストラ決定ェェェェーーーーーイッッッ!!!』


 瞬間、数千のレーザーが、大量のマイクロミサイルとBBカノンが、膨大なドローン兵器の自爆特攻が降り注ぎ、紅蓮の爆炎が何十、何百と重なり合って大地を粉々に砕く膨大な破壊を『ナイト・ガーディアン』ただ一機めがけて降り注いだ。


 塵の一欠片すらこの世に存在することを許さないという意思を実現する、恐らくは一個人を殺す為に使われたものとしては歴史上最大の――個人的な人殺しだった。

このおじさん人生楽しそうだな。

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