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アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
3章 アサシンズ・クアッドの防衛

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31話 センス暗殺

 ベクターで発生したジュニアの乱は、すぐにはクアッドも把握できなかった。

 如何に彼らと言えど地上最高峰の企業のセキュリティを筒抜けにすることは出来ない。

 なので、このときに異変とも呼べない違和感を察知してベクターの動向を探り始めたサーペントの判断は、その時点で最善手であったと言えるだろう。


 だが、サーペントも違和感程度の情報を仲間にすぐさま報告はしない。

 よって、アジトに遊びに来たユアが極めて脳天気なことを言い出しても耳を貸す余裕はあった。


「ユニットに名前があった方がかっこいいと思います」

「……」

「……」

「……」

「かっこいいと思います!」


 この場にいないサーペント以外の三名がぽかんとする中、ユアは再度両拳を握りしめて力強く言い直した。そういえばユアは意外とヒーローものが好きらしいが、唐突な提案に全員の反応が遅れた。

 いち早く冷静になったテウメッサが顎をさすって唸る。


「ユニットにペットネームをつけるってことかい? 確かに僕らのユニットは便宜上ゼロワンとかゼロツーとかって読んでるけど、ペットネームなんて最初からないから考えたこともなかったな」

「……さてはイーグレッツのユニットに名前があったって話を聞いて思いついたな」

「その通りです! 絶対あった方がいいですよ!」

(力説の合理的根拠が一切見当たらねぇ……)

「ユアちゃんってばやっぱり面白~い! 良い名前だと気分が上がるもんね! もう、この天才さんめ!」


 ミケがユアに抱きついて頬ずりするのを「くすぐったいですよぉ」と恥じらいながら受け入れるユア。まだミケに魅了されている訳ではないようだがオウルは適当なところでミケの襟首を掴んで引き剥がした。


「ご主人様に嫉妬されたにゃー」

「誰がお前みたいな狂猫飼うか」


 ぽいっと彼女をソファに放ると、オウルはため息をついて部屋の面々を


「民主主義は素晴らしき人類の知恵だ。ペットネーム案に賛成か反対か、ここで多数決を取る」

「僕は別に反対する理由がないなぁ」

「私さんせ~」

「俺は反対。しかし多数決によりペットネーム案採択された。あー民主主義って本当クソだわ。こうして人類の歴史には茶番と無駄が増えていくんだろうな」


 投げやりな態度から既に諦めていたことが分かるが、それでも一応文句は言う辺りがオウルらしいとユアは思った。そもそも民主主義が嫌ならリーダー権限で決定すれば良いのにしないあたり、妙なところで彼は普通の選択をする。それを発見するのはユアの小さな楽しみだ。

 テウメッサがひそひそオウルに確認を取る。


「賛成しといてなんだけど、あっさり決めさせちゃっていいの? サーペントに至ってこの場にいないし」

「いいもクソも、ユアが勝手に名付けたところで俺らがユニット使うときに堂々名乗らなきゃいけない決まりなんざないんだから何でも一緒だろ。で? お前の自慢のネーム案を聞こうか。言っとくが一緒に考えろとか言うなよ」

「大丈夫、今日の歴史の授業中に考えておいた!」

「歴史のセンコーに怒られてしまえ」

「だって眠くなるんだもん。まずね、サーペントさんは『ウィザード』!」

「ふぅん。意外と普通だな」


 想像を絶するダサダサネームが飛び出す可能性を憂慮していたオウルは拍子抜けした気分になる。いきなりサーペントから始まったのも意外だった。彼女が目撃したことのあるユニットはオウルのもののみだから、てっきりそちらから来ると思っていた。

 由来は、恐らくは凄腕ハッカーのことを『魔法使い(ウィザード)』と呼ぶことに起因しているのだろう。分かりやすくて短いのでペットネームとしては悪くない。


「次にテウメッサさんは……『ジョーカー』! どうですか?」

「へぇ、かっこいいじゃない。理由を聞いてもいい?」

「冗談とか言って人を笑わせるのが上手そうだから! あと本気出すと強そうな感じもトランプのジョーカーっぽいかなぁなんて」

「そう思って貰えるのは光栄だね。ようし、次の君のピンチには僕がかけつけちゃうぞ! ははは!」


 テウメッサは気に入ったようだ。

 ジョーカーは道化師と混同されるので様々な顔を使い分けて人を欺くテウメッサには妙に似合っている気がする。が、ユアはテウメッサの裏の顔を見たことがないので何も深く考えずについえているのだろう。

 意外と似合う名前を考えるものだとオウルはユアのネーミングセンスランキングを格上げし、追い抜かれたミケを最下位に蹴落とした。ランクインメンバーがクアッドしかいない寂しいランキングなので大した名誉でもない。


「ミケさんはね! 『エンプレス』!」

女帝エンプレスかぁ~……ワレ、女王様ぞ! 頭が高い、ひかえおろーう!」

「言ってろ馬鹿猫」


 他に比べてやや偉い感じなのはユアの中での彼女への好感度の高さだろう。

 真実を知らないとは実に羨ましいことである。

 ちなみにエンプレスはタロットのアルカナでもあり、正位置だと恋愛や結婚関連の良いことを意味し、逆位置の場合は生活的マイナスが多い。オウルの独断と偏見によるとその逆位置の示すものの中で軽率、情緒不安定、過度な性行為はまんまオウルたちから見たミケに当てはまる。本人が真の愛を追い求めている点も含めてかなり皮肉の効いたペットネームだ。無論これも本人に自覚はないだろう。


「で、最後はオウル! なんだと思う?」

「死刑囚とかゾンビとかテロリストとか首つり男とか見世物小屋のチンパンジーとかどうだ?」

「なんでそんなスルスルとマイナスイメージばっかり出てくるかなぁ。てかその名前好きで使う人いなくない?」

「アイアンヒーローとか呼ばれるよりはマシだ。個人的には」


 それなりに真面目に考えて欲しかったらしいユアは頬を膨らませるが、まぁいいかの一言で流す。そして、少し照れくさそうに最後の名前を告げる。


「オウルのペットネームね……やっぱり『ガーディアン』かな」

「つまんな」

「即答!? ひどーい! これでも真剣に考えたんだよ!?」


 抗議するユアには悪いが――いや、内心悪いと思ってないが――なんのイジり甲斐もない名前である。確かに長時間直接護衛しているオウルに守護者ガーディアンという名前は分かりやすいが、これまでの三人に比べてひねりもなければ皮肉もない。

 ユアは「じゃあ何がいいのさー!」と腕を振り上げて精一杯の抗議をするが、オウルは無視してユアが自分の机の前に広げたノートをとんとん、と指でつつく。


「じゃ、発表会が終わったところで宿題の続きでもしたらどうだ?」

「うううぅ……せっかく現実逃避で盛り上がってたのに、オウルのいじわる! なんで護衛はオッケーなのに宿題の手伝いだけは頑なにしてくれないのさ!?」

「お前が宿題をするかどうかはお前の判断の問題だろうが。宿題が苦痛だから教師を暗殺しろってんなら請け負わないでもないが?」

「結構ですっ!!」


 両手を交差させて×印を示したユアは大きなため息をつき、ノートに再度向き合った。

 ちなみにオウルが目を離す度にテウメッサに助けを求める視線を向け、彼が申し訳程度のヒントを与えているのは見て見ぬ振りをする。オウルは別にユアの宿題遂行を監督している訳でもなんでもないのだから。

 ミケも直接手伝いをする気はないようで、ユアの耳元で優しく応援する。


「だいじょーぶ、ユアちゃんは勉強毎日がんばってるんだから。こつこつやってれば必ず終わるから、終わったら一緒にお菓子食べようね?」

「くぅぅ、お菓子と聞くと食べたくなる食いしん坊の自分の胃袋が憎いよう!」

(馬鹿みたいな会話してら……ま、いいか。立て続けに二度もデカイ問題が来たんだ、そろそろこの護衛任務も安定期に入って良い頃だろ)


 ――サーペントがベクターの異変の証拠を漸く掴んで通信を送ってきたのは、このすぐ後のことだった。

こんな日がこれからもずっと続けば良いのに(フラグ)。

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