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アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
2章 アサシンズ・クアッドの隠蔽

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27話 手がかり暗殺

 特務課は、テロリストが使用していたパワードスーツ――『アトランティード』という名称でテロリストは呼んでいた――について調べ上げた。


 結論から言えば、このパワードスーツこそベクターがこの町で姿を消したと主張する解体会社の所有物であった可能性が極めて高い。これまでベクターがパワードスーツのことを黙っていたのは、軍用機に匹敵するパワードスーツを大量に奪取された等とは表だって言えなかったからだろう。


 搭乗員や整備士は恐らく消されている。少なくとも全員生きている可能性は低い。

 パワードスーツの数も解体会社『チューボーン』が書類を誤魔化して運び込んだ重機の数から逆算してもっと大量にあった筈だ。


 問題は、捕縛されたテロリスト集団は元々がテロ活動をするような規模すらない組織の筈であり、解体会社の物資と人間を誰にも気付かれず自分のものにするような力がないことだ。

 そもそも、そのようなことは軍の鎮圧部隊ですら難しい。


 考えられる可能性は二つ。

 ジルベス政府も侵入に気付けていないほど徹底的に隠匿した凶悪組織の犯行か、もしくは解体会社『チューボーン』が最初からテロリストの仲間だらけだったかだ。


 生き残りのテロリスト達は殆ど何も知らなかった。

 パワードスーツの操縦でさえ殆どオート操縦だったらしい。

 データが消えているので詳しいことは分からないが、イーグレッツが見た限り、あれほど高度な動きが出来るオート操縦はジルベスでは開発されていない。どちらかと言えばそうした技術はパルジャノ連合の方が活発だ。


 話の全容が見えてこないまま調査は難航したが、あるとき調査員の一人が怪しい人間を突き止め報告書類を手に駆け寄ってきた。


「アルフレド・ナヴォ。元ベクター所属の建築技術者で、SBP構造の開発の中心人物だった筈なのですが上司に手柄を奪われて会社を追われています」


 ここで一つ、大きな謎に繋がる道が出来た。

 ずっと不明だったテロリストの計画の要――HBP構造の脆弱性を一体どこで知ったのかという点だ。HBPはSBPを基に巨大化させたものに過ぎない以上、構造的な欠陥はほぼ共通している。更に、部下の報告でSBP構造の欠陥がニュースで扱われているよりもかなり酷い欠陥であることも判明した。


 この男――現在行方不明中のアルフレド・ナヴォとベクターの関係に事件の大きな鍵がある。

 そう考えたイーグレッツはこれまでの調査資料を基にベクターに協力を要請した。


 その瞬間、特務課に調査を終了せよとの命令が下った。


「納得がいかん!!」


 歯を食いしばって命令を飲込んだイーグレッツは、特務課の本部に戻るなり机を叩いて叫んだ。

 部下達の反応はイーグレッツを気遣うものが半分、イーグレッツと同じく悔しがる者が半分だ。


「ベクターは絶対に何かを知っている! それも当初我々が想像していたより大きな何かだ! それを自分で調べろと言っておいて後から調査打ち切りだと!? 俺たちを莫迦にしてるのかぁッ!!」


 どんなに叫んで不平不満を口にしたところで、特務課の特権的捜査権はジルベス政府の許可あってのものだ。政府の意向に逆らえば、せっかく通常の警察権力より内部の腐敗を暴きやすい今の環境も悪化し、最悪の場合は特務課が解体されてしまう。

 イーグレッツは己の正義と現実を何度も何度も見比べたが、より多くの人を守るには現実に屈するより他になかった。


 激情を吐き出したイーグレッツは、項垂れて静かに宣言する。


「調査は終了だ……他の依頼がいくつか来ている」

「特務長……」

「だが、データは破棄しない。全部紙にして保管庫に残せ」


 顔を上げた彼の瞳は、まだ諦めてはいない。


「今は、これ以上の調査は出来ない。だがいつか、どこかで、また俺たちと事件はすれ違う日が来ると信じる。その一瞬を見落とさないために……今は耐える」


 若く我武者羅に正義を追求したイーグレッツは、今まで与えられた大義名分を振り翳して数多くの事件を解決してきた。そんな彼にとって今回の事件は何度も天秤の揺れに左右される苦いものになった。

 全てを正義で割り切るには、イーグレッツの正義はまだ未熟だ。

 だから、今は耐える。

 もっと万人を救える正義に辿り着くまで。

 ジルベスが地上の楽園と呼ばれるほど平和になる、その日まで。


 部下達が頷いて作業を開始する中、イーグレッツは調査資料をぺらりとめくってため息をつく。

 そこには、ユアとオウルの身辺資料があった。


(……結局、あれは思い違いだったのか?)


 オウルはあの後、ずっと大人しく自動操縦の車に乗ったまま警察に保護された。

 ユアが主義者の的にされた件も沈静化に成功し、二人は危機を乗り切った。

 オウルに感じた違和感は今も微かに残っているが、証拠もない疑いは正義とは言えない。


(彼の身に何かあればユアちゃんは悲しむだろうしな……この疑心、一旦は書類棚に突っ込んでおくことにするよ)


 世の中には優先順位というものがある。

 今はまだ害がないのなら、もっと危急の人に手を差し伸べるのも正義の在り方だろう。




 ◆ ◇




 その日、先日のアジト襲撃の影響でホテルに泊まる羽目に陥ったオウルは珍しく目の下に隈を作って欠伸をしていた。

 情報操作が容易に可能になったことで、ホテル内では堂々とパソコンで裏仕事の作業が出来たとはいえ、内容が内容なだけにサーペントと二人がかりでもすぐには終わらなかったのだ。

 更なる欠伸をかみ殺したオウルは、


「漸く形になったか、新型リミッター……」

『お疲れ様、オウル』


 あのテロリスト騒ぎは、全てオウルたちが仕組んだ。

 その目的の一つが、ユニットに搭載する新型リミッターのデータ取りだ。


 テロリスト騒ぎの目的は以下の通りになる。


 一つ、特務課にベクターへ疑いの目をむけさせてベクター側に捜査を打ち切らせること。


言わずもがな、これ以上オウルに疑いをかけられ続けると仕事に支障が出るからだ。今回、クアッドが仕向けた印象操作によって特務課と公安はパルジャノ連合が裏で糸を引いているという方向で話を進めるだろう。少なくとも先日のようにオウルに付きまとう暇はなくなる筈だ。


 二つ、ユアを守る為の町の監視網の再構築すること。


 大騒ぎで特務課のハッカーをそちらに注力せざるを得ない状況に追い込んだことで、サーペントは作業を完了させた。当分はこれで問題ない。


 三つ、ファクトウィスパー沈静化とユアに手を出した連中への報復。


普通にクアッドの仕事の範疇だ。ユアを害するあらゆる存在がクアッドの暗殺対象である以上、たまたまだろうが何だろうが火付け役には死んで貰う。これがユアの近くの人間ならやり方を考えたが、ユアと縁もゆかりもないのが逆に彼らの運命を決定づけた。


 暗殺した相手のうち数名はファクトウィスパーを築き上げた創設メンバーだったが、彼らを殺したところでネットの感染症であるファクトウィスパーという概念的組織は変異しながら存続を続けるだろう。ただ、煽り人たちは基本的に賢しいが故に、超大型インフルエンサーがひっそり消されたことに気付いて萎縮するだろう。


 信奉者は狂っていても、煽る側の多くは遊び半分の活動に命など賭けはしない。

 炎上を仕向ける側が鈍れば信奉者の活動も一時的に勢いが衰える。

 そうなれば今この町で加熱した信奉者も熱が冷めてこの地を去り、もっと盛り上がる場所を捜すだろう。ユアを守るにはそれで十分だ。


 そして最後の一つが、警察のユニットに戦闘行動をさせてデータを収集すること。

 映像だけとはいえ、映像から逆算して得られる分析データはかなり有用だった。


「流石に市民様の味方として設定されたユニットは違ったな……」

『そうだね。僕ら基本的に殺せばオッケーだから、求められる事の少ない手加減のデータや飛行データは特に有り難かった。データ取りのための僕らが自分でユニット起動させて演習なんて、とてもじゃないけど場所が確保出来ないもんね』


 サーペントの言う通り、ユニットは動かせば余りにも目立ちすぎる。

 もちろんシミュレーション上のデータでリミッターを作ることは出来るが、ユニットは上限の出力が大きすぎるためパワードスーツより遙かにシミュレーションが難しく、数値の信頼度が低い。こればかりは実戦に勝るものはない。


 そういう意味で、あの『ゼピュロス』は実にいいデータを提供してくれた。


『これで次にアトランティードみたいな敵が出てきたときも両足へし折らなくて済むよ』

「そう願いたいもんだ」

『ところでオウル、ユアちゃんがさ。僕らのユニットにもペットネームがあった方が格好いいって言ってるんだけど、どう?』

「どうじゃねえよ。いらんいらん。数字でいい」


 と――ホテルのインターホンが鳴る。

 オウルは、うんざりしたようにミルク入りで砂糖が溶けきってない好みと不一致なコーヒーを飲み干し、招かれざる客人を出迎えた。

 そこにいたのは、たった数日で飽きるほど顔を合わせたイーグレッツ・アテナイだった。


「おはよう刑事さん。この部屋また襲撃でもされんのか?」

「おはよう。ふむ、ホテルのベッドは体に合わなかったみたいだね」

「襲撃された日の夜にぐっすり寝れるかっての!」

「そうかい? 君くらいふてぶてしいといびきをかいて寝ていてもおかしくないと思うけど……昨日の騒ぎもあったから様子を見に来たんだ。また少し話さないか?」


 おどけて笑うイーグレッツの皮肉めいたからかいに、オウルは心底ため息をついた。

 この男、どうやら最後の最後まで鬱陶しいようだ。

お前は本当にしつこい。

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