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アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
2章 アサシンズ・クアッドの隠蔽

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26話 塵を暗殺

 アンフィトリス・パークのマッサージコーナーでユアが足つぼマッサージを受けて快感にややだらしない顔を晒してミケがそれを喜々として撮影しているその頃――彼女たちの遙か下、施設の支柱付近では特務課と公安がテロリストの鎮圧と置き土産の有無を念入りに確認していた。


 特務課と公安の関係はお世辞にも良好とは言えないが、今回は事が事だけに対応は素早く、公安側がバックアップに回ることで指揮系統の乱れを解決した。というのも、特務課の所持するユニットは公安には回されていないのが主な原因だ。

 おかげでイーグレッツも堂々とテロリストの正体を調べられる。

 護送に向かわせたナカタが戻ってきて報告を行った。


「生き残ったテロリストの護送は完了しましたぜ。もっとも暫くは口がきけないでしょうがね。情報を引き出す為に何人か生かしておくのは結構なんですが、もう少し加減ってもんを……」

「その加減のせいで犯人が最後の執念を見せて()()が壊れでもしたらかなわん」


 イーグレッツが親指でHBPを指し示すと、ナカタもそれ以上は追求しなかった。

 一方、鑑識はテロリストが所有していたパワードスーツをこの場で解体して詳細を調べていた。

 これはイーグレッツの部下ではなく公安の人間だ。

 パワードスーツに詳しいナカタはそちらに興味があるようだった。


「黄色と黒のカラーリングが警告色感ありやすが、あんなパワードスーツは見たことないですね」

「改造機じゃないか?」

「いえ、フレームの企画からしてそもそもトライオス社のものと違います。しかも全機綺麗に整った同じ形をしてるのを見るに、パルジャノ連合製の可能性も……」


 と、鑑識がざわつき始める。

 何かを見つけたようだ。

 公安側の代表が手招きされるのを見て、イーグレッツは近寄らずに集音機能で音を拾う。


「どうした?」

「このスーツ、パーツの識別番号が削られてますが、ベクターコーポレーション特許の重機技術があちこちで応用されてます。操縦OSもジルベスの軍用をベースにベクターの重機OSの一部が流用されてます。ピラー破壊用の音波装置も金属疲労の測定装置と構造の類似点が多いです。こいつ、ベクター製ですよ」

「なんだと? ベクターがパワードスーツを開発してるって噂はあったが、これがそうだってのか?」

「所感ですが、このスーツはデータ盗んだだけでおいそれとコピー出来るものじゃありません。しかしベクターの工場でなら安定して量産出来る。現にここには十機以上の同型機が存在しています」

「……どういうことだ? ベクターが噛んでるとでも? 馬鹿な。ラージストVが反政府活動など。それにメリットがない……筈、だが」


 イーグレッツの中で点と点が線で繋がってゆく。


 物資ごと姿を消したベクターの解体業者と、解体に使えそうなベクター製パワードスーツ。

 犯人を捜せと命令してきたベクター。ベクター製のスーツを何故か所持するテロリスト。

 そして、ずっと不思議だった謎――そもそもテロリストは特務課さえ詳細を知らないベクターピラーの構造欠陥をどこで知ったのかということ。


「俺たちは、()()()()()ベクターの尻拭いをさせられていたのか……?」


 事件の一部の輪郭が見えてくる中、データの吸い出しをしていた鑑識が悲鳴を上げる。


「急いで切断しろ! やられた、内部に仕込まれた証拠隠滅用のウィルスだ! 吸い上げたデータまで消し飛ばされるぞ!」

「なんだと!? くそったれ! 少しでもいいから手がかりを残せ!!」


 貴重な物的証拠が為す術もなく、音もなしに消えていく。

 しかも、ウィルス対策で切断した瞬間、パワードスーツのハードがぶすぶすと音を立てて燃え始めた。わざわざ目の前で証拠を消す悪辣な隠滅にイーグレッツは臍を噛む。

 こうなっては生き残りのテロリストが持つ情報が頼りだが、こうも周到だと大したことは教えられていないかも知れない。


 その場の全員が無力感に苛まれる中、ウィルスの存在にいち早く気付いた鑑識が己のミスを悔いるかのように深く、深く項垂れ――誰にも見えないように、いたずらっぽくぺろりと舌を出す。

 誰も気付いていないが、彼の顔は映画のスパイが使うような人工皮膚に覆われていた。


『これで公安と特務課に渡る情報は僕たちの想定した範囲内に収まる』

『そいつは結構だがテウメッサ……お前が変装して公安に入り込む必要性あったか? 流石に公安相手じゃリスクの方が高いだろ?』

『そこはそれ、僕にもユニットがあるからねぇ。精々荷電粒子砲を突きつけて『お前だったのかー!』って連中を勘違いさせて逃げるさ。どっちにしろ公安は内部に鼠が入り込んだことが発覚して暫くそれどころじゃなくなるし。結果はまぁ、思ったより間抜けで助かったんだったけど』

『パルジャノ連合の陰謀の虚像どんだけ肥大化するんだよ……まぁいいか』


 通信先のオウルは投げやりになっていた。

 彼は未だに警察署まで自動運転される車の中であり、追っ手はサーペントが町の防犯システムを弄ったことで防がれている。演出の為に敢えて多少はファクトウィスパー信奉者への襲撃を許しているが、オウルは上手くこれを乗り切った。


 テウメッサの工作により、特務課はベクターとテロの繋がりを調べずにはいられなくなる。

 公安も似たようなもので、明日にはお抱えの鑑識がいつの間にか別人とすり替わっていたことに気付くだろう。ちなみにすり替わられた哀れな鑑識は既にテウメッサが暗殺済みだ。


 残る問題はひとつ。


『塵掃除って爽快感あるよな』

『ああ、同感。いいことをするって気持ちいいよね』


 暇つぶし感覚でジルベス最凶の暗殺者集団が守る少女にちょっかいを出した連中に落とし前をつけさせるだけである。




 ◇ ◆




 ミニッツ・マクバガンはジルベス合衆国内でも腕利きのハッカーだと自負している。

 表向きはそこそこいい企業のシステムエンジニアで、裏では仕事時間の暇つぶしに陰謀論を振りまいて左右される連中の様子を楽しんでいる。ジルベスのネットではそうしたことをする人間は珍しくないが、腕の良さで言えば上位の存在だと彼は自負していた。


 そんなミニッツは手で今日のヒゲの整い具合を確かめながら、日課の早朝ジョギングの前にゴミ捨てに向かっていた。


(なかなか盛り上がったけど、途中からちょっと予想と違う感じになったなー)


 彼は先日の『祭り』を振り返り、それはそれで面白かったと頬を緩ませる。

 彼が同じ腕前の連中とともに定期的に行う『祭り』は、馬鹿な陰謀論者たちにムーブメントを誘発させ、それがどれほど盛り上がるかを鑑賞するものだ。それでターゲットにされた人はたまったものではないが、ミニッツはそんなことは気にしない。


(エコーチェンバー現象も知らないバカが一丁前に賢くなったつもりでいるから逮捕されるんだよ)


 実行に移すバカは最初から潜在的犯罪者であり、まともな賢い人間なら絶対に見え透いた嘘に引っかかりはしない。バカが勝手に勘違いしてやらかしたことに自分が責任を取るなどありえない。だから悪いのはダマされるバカだ。

 彼はそう信じて疑わないし、もし責任を追及する動きがあったときに自分に辿り着けないよう小細工もしてある。バカのせいで被害を被るのは御免だからだ。


(そろそろゴミ箱だ。さっさと捨てて一走りしますかね)


 人生は健康が第一だ。

 健康な体なくしては人生の楽しみを味わい尽くせない。


 菜食主義者はバカだ。

 菜食に拘る余り体調を崩したり無駄な時間を使う。

 ジャンクフードばかり食べている者もバカだ。

 健康は金で買うには高くつくのに、添加物と油に塗れすぎだ。


 人生はほどほどがいいのだ。

 ほどほど働き、ほどほど稼ぎ、隙間の時間に自分の技術力を使って暇を潰す。

 それが出来ない低賃金で低学歴の連中が、嘘に踊らされるようになる。

 余裕ある賢い人間の気まぐれの火遊び――それがファクトウィスパーを形作った。

 そう、彼はファクトウィスパーが始まるよう火を放った張本人の一人だった。


(まぁ、あの炎上は途中から雲行きがちょっと怪しかったんで逃げさせてもらったけど。警察の対応が途中から厳しくなった辺り、ホワイトハッカーでも雇ったのかね? 暫くは警察絡みの情報からは手を引くかぁ)


 彼はゴミ袋を持ち上げ、ボックスに放り込んだ。

 すると、何故か放り込んだ塵が自分の顔の目の前にあった。


「え――?」


 彼は一瞬何が起きたのか分からなかった。

 やがて、目の前どころか周囲が塵だらけなことに気付き、自分が頭からゴミ捨てボックスに放り込まれていることに気付いた。誰かが凄まじい力で彼をダストボックスに足まで捻じ込んでいた。


「なっ、おい、誰だ!? 悪趣味なんだよ……うぐ、臭っせぇ!!」


 強烈な悪臭に顔を顰めて藻掻きながらゴミ箱を出ようとするミニッツだったが、足が外に出ない。それどころがどんどん視界が暗くなっていき、完全な闇に包まれた。呼吸をするのも難しいゴミの中でミニッツは必死に藻掻く。


「おい、誰か出してくれ!! な、なぁ!! 誰だか知らないが冗談キツイってこれは!! 今出してくれるなら警察には言わないでおくからさ!!」


 声はボックス内に反響するだけで、誰にも届くことはない。

 代わりに彼に待っていたのは、真上から迫る平らな鉄の塊だった。


『ゴミの体積が規定量を超過しました』


『空間確保の為、セーフティシャッターを封鎖し、ゴミを圧縮します』


 それは万力のように少しずつ、しかし彼の健全な肉体を以てしてもびくともしない強烈な力で、彼の圧縮を開始した。

 恐怖に支配された彼の金切り声は、システムの駆動音と人工音声にかき消されて誰の耳にも届かない。


『暫くお待ちください……』


『暫くお待ちください……』


『暫くお待ちください……』


『エラー1、規定にない異物が混入しています。安全のため、このボックスを一時封鎖します』


 ――この日、ジルベス合衆国で初めて圧縮式ダストボックスに人が圧殺されるという衝撃の事件が起きたが、ネットでは「彼はダストボックスに自分で入ったんじゃないか?」「馬鹿すぎる。保証問題になるメーカーが可哀想だ」「どうせ低賃金の馬鹿な労働者だろう。故障したボックスの方が遙かに高価で人の役に立つ」と彼の死を嘲笑う声が相次いだ。


 また、この死亡事故はゴミの回収システムの信頼を失墜させる可能性があるからと注目度を低く設定され、彼が弄んできたファクトウィスパーの信奉者にさえ「政府の陰謀で彼は殺された」という噂にすらならなかった。


 また、ミニッツ以外にも数名の『炎上を誘発させる側』の人間が病死、不審死、事故死を遂げたが、彼らは自分たちの悪行を周囲に漏らさず証拠も残さないよう立ち回っていたため、誰一人として彼らの共通項に気付かず、暗殺を疑う者もいなかった。


『S:掃除完了。気持ちよかった~』


『O:手伝えなくてすまんな』


『Y:あれ、二人ともなんのお話?』


『S:もちろんお掃除の話だよ』


『O:汚い部屋が綺麗になると気持ちいいだろ?』


『Y:そっかぁ、私てっきり隠語みたいなものかと』


『O:引くわー』


『Y:ヒドイ!!』


 嘘は何も言っていない。

 ジルベスという部屋は、少しだけ綺麗になった。

悪い子はしまっちゃおうねぇ。

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