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アサシンズ・クアッド~合衆国最凶暗殺者集団、知らない女の子を傷つける『敵』の暗殺を命ぜられて困惑する~  作者: 空戦型
2章 アサシンズ・クアッドの隠蔽

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25話 不正義の暗殺

 イーグレッツはユニットの最大戦速で移動したい衝動を必死に噛み潰し、上空を移動していた。


「くそ、力場で発生を抑えてもこの速度が限界か……!!」


 本来、ユニットの推力ならば音速戦闘機を優に超える速度で移動出来る。しかし、そんな速度で移動すればユニットの通り過ぎた後には壊滅的なソニックムーブが降り注ぎ、数多の怪我人を生み出してしまうことになる。


 イーグレッツのユニット――ペットネーム『ゼピュロス』は今、バリアのような力場を前方に展開して空気抵抗を極限まで減らすことでソニックブームが発生しないギリギリの速度を保っている。これでも普通なら市街地では許可されない速度だが、逆を言えばそれが特務課のユニット運用の限界だった。


 一秒でも時間を無駄にしたくないイーグレッツは、ユニットの情報処理能力を通して特務課から可能な限り情報を受け取り続ける。


 相手テロリストは親パルジャノ連合側の小規模組織。

 つい最近までテロ活動をするほどの規模と資金力は無いと目されていた。


(バックに誰かいるな。パワードスーツなんてそうそう手に入るものじゃない)


 計画内容はアンフィトリス・パークとそれに連なるアンフィトリス大橋の爆破。

 アンフィトリス大橋は厳密には全て繋がっているが、陸と接点がありアンフィトリス・パークと繋がっている橋は外見上三つに見えるため、それぞれウエストブリッジ、ノースブリッジ、イーストブリッジと呼ばれている。


 計画ではこれら三つのブリッジの底部に爆弾を設置し、橋の均衡を崩して自壊させる腹づもりらしい。今現在、アンフィトリス大橋は行きの道が混雑しているため片側に重量が偏っている。本来はそれでも何の問題もないが、そこを問題にしてしまおうということらしい。

 橋を丸ごと爆破させるだけの火薬が用意できなかったか、設置がバレる可能性があったのだろうが、これは建築物への造詣が深くないと出来ないことだ。


 爆弾自体は既に公安が手配した処理ドローンで処理を開始しているため、最悪いくつか爆発しても被害は最小限に抑えられる。だが問題は数の多さで、テロリストの妨害の可能性も視野に入れざるを得ないため無人機と人員をかなりそちらに割いてしまっている。


「橋の方は公安に任せるとして、問題はパークそのものか」

『はい。パークの柱には少し前に話題になったSBP構造を大型化したHBPハイパーベクターピラー構造が用いられており、テロリストはこの構造の脆弱性の詳細情報をどこかで手に入れていたようです。公安はそちらもマークはしていたようですが、パーク内部を調べたところ、最低でも十機以上のパワードスーツの持ち込みが確認されたことが判明して慌てて我々に協力を要請してきました』

「間抜けにも程がある! そもそもパークの物品管理はどうなってるんだ、まったく!!」


 テロリストの兵器を持ち込ませる杜撰な管理に憤慨するイーグレッツに対し、トーリスはやや施設側に同情的だった。


『なにせ大規模な施設ですからね。扱う物品は余りにも膨大で、人を割くにも限度があったようです。運搬や搬入の際のセキュリティは殆どAI任せだし、改修作業だとかでベクターからよく予定にない重機が持ち込まれているせいでテロ対策意識を持ちづらかったのでしょう』

「ええい、資本主義の大企業はこれだからっ!!」


 机でも叩きたいイーグレッツだが、生憎今いるのは虚空なので深呼吸で気持ちを落ち着けようと努める。


 ジルベスは高度で安価なAIを用いた様々なシステムが社会的に普及している。それらは人間と違って数の多さに忙殺されることもなく大量の情報を確実に処理できるが、相応の知識と技術を持った人間にとっては人間より出し抜き易い。

 AI管理で問題が起きる主な原因は、AI管理を更に管理する筈の人間の怠慢だ。


 暫くすると、橋が見えてくる。

 予想通り連休に合わせて車を走らせる人は多く、渋滞が発生していた。

 その高架下のあちこちにドローンの動体反応が検知出来る。

 市民に見えないよう減速しながら海上を飛行し、トーリスのナビゲーションに従う。


「トーリス、どこへ向かえば良い?」

『そのまま直進すれば作業用の港があります。内部では既に調査が開始されていますが、テロリストの移動の形跡を追うに、パークの重心を担うHBPを支える空洞部分へ向かっていると思われますので、データで送った作業用通路を利用してください。イーグレッツ、ここから先は火器厳禁です。ユニットが中枢で暴れれば……』

「言わずもがなだ。テロリストの手伝いをする訳にはいかない」


 戦略兵器たるユニットが本気で暴れれば、メガ高層用の支柱であろうが破壊は容易だ。

 高出力で大立ち回りなど演じようものなら、支柱を失ったパークは海の藻屑と消える。


「この上には何も知らない数多の市民とそれに応える労働者たちがいる。どんな理由があっても、彼らを危険に晒すことは正当化できないし、その命を奪わせもしない!」


 イーグレッツの頭の中に浮かぶのは、一人の罪なき少女。

 彼女がいるからとは言わないが、彼女の存在が自らの双肩にかかっている。

 拳を握りしめ、『ゼピュロス』のオートフライトで本来なら飛行出来ないほど狭い通路を次々に突破していく。換気扇のファンの隙間をすり抜け、パイプやワイヤーを躱し、なんとかテロリストより先回りして中枢に到着する。


「ここがパークの最大の支柱、ハイパーベクターピラーか……」


 目の前に存在する支柱のサイズは、まさに圧巻の一言だった。

 イーグレッツは嘗て国内の自然公園で世界一巨大だとされる樹木を見たことがある。

 彼は余りの巨木を前に、絵本のように中を掘ってアパートでも作れそうだと思ったが、HBPはその高さとピラーが支える別の支柱たちも含めて圧巻のスケールだった。人っ子一人いない拾い空間に立ち並ぶピラーたちの光景は、まるで宇宙船に突入したような異次元感を覚える。


 だが、見蕩れている時間などない。

 すぐさま『ゼピュロス』の出力を調整し、屋内戦闘モードに切り替える。

 更に、火器を使えないなりに装備を用意する。

 鎮圧用のスタンロッド、足止めに使えるワイヤーショットガン、そして――。


「アクティブシールド、セットアップ。優先防衛対象、HBP。展開開始」


 量子展開で出現したのは、ひとりでに浮遊する大きく堅牢そうな盾だった。

 数は六つでそれぞれが分厚く、『ゼピュロス』と同じカラーリングが成されている。

 イーグレッツが司令を出すように腕を横向きに振ると、各シールドがピラーを守る為に上下に散開する。これは最新型のユニット専用装備で、正確には自律能動的対象防護システムと呼ばれている。

 発動者の命令に従って自主的に浮遊するという未だかつてない画期的なシステムだが、現状では攻撃に転用できるほどの自由度はなく、大型で内部に火器を搭載する技術的余裕もない。

 シールド型になったのは、その大型さを活かすにはこれくらいしか使い道がなかったからである。

 鎮圧には役に立たずとも、防衛ならば多少はこれも役に立つ。


「さぁ、来い……このイーグレッツ・アテナイ、鼠一匹見逃しはしないぞ」


 イーグレッツは呼吸を整え、全神経を周囲に張り巡らせる。

 音のない薄暗い世界に、異常な緊張感が立ちこめる。

 正義の為に秩序を守るという執念が生み出す異常な力場。


 その沈黙を破ったのは――ダクトを通じて出現したそれだった。


 チィチィと甲高く小さな鳴き声を上げてイーグレッツを嘲笑うかのように姿を現したのは、比喩でもないでっぷりと太った鼠が一匹。どこからかモールに入り込み、施設内の害虫駆除から上手く逃げ出してここに居着いた存在なのだろう。


 つぶらな瞳に反して黄ばんだ齧歯類特有の前歯が見る者を不快にさせる。

 鼠は大したものはなかったとばかりに鼻をひくつかせると、踵を返し――ダクトから火花を上げて飛び出してきた巨体に挽き潰されてヂィィ、と短い断末魔を上げて即死した。


『ピラー確認!! 敵性体1!』


 鋼鉄の塊は他のダクトからも次々に出現し、空間に放り出されると同時に手足を広げてワイヤーウィンチを用いて次々に下降していく。

 それは、少なくともイーグレッツは見たことがないパワードスーツだった。

 改造スーツにしては流用品が見当たらず、似たタイプも見たことがない。

 明らかに頑強さとパワーを売りにしたパワードスーツは計十二機。


『味方の損害は無視しろ! ピラー破壊が最優先だ!』

『仲間の死体を踏み越えて支柱に辿り着け!』

『全員、突撃――ガハッ!?』


 鼠を轢き殺して一番に乗り込んだパワードスーツの土手っ腹に、『ゼピュロス』のスタンロッドの先端が叩き込まれていた。イーグレッツは何の躊躇いもなくスタンロッドの出力を最大にした。凄まじいスパークが弾け、パワードスーツが全身を痙攣させて内部から黒い煙をぶすぶすと立ち上らせる。


「一匹も通すかぁッ!!」


 戦闘不能になったパワードスーツを即座に空間の端に投げ飛ばしたイーグレッツの『ゼピュロス』に、所属不明のパワードスーツたちは一斉に『ネイルガン』と『プラズマカッター』を構えて迎撃した。


「遅い!!」


 ネイルガンは一発残らずピラー狙いだったが、イーグレッツはある程度はゼピュロスのバリア越しの装甲で受け、残りはアクティブシールドに防がせながら空中で次々にパワードスーツを仕留めていく。予想以上のパワーに加えてワイヤーウィンチで落下の軌道を変え、時に仲間を足蹴にしてイーグレッツの猛追を掻い潜るテロリスト達。


 だが、テロリストが粘れば粘るだけ、イーグレッツの怒りは膨れ上がっていく。


「そんなものを民を殺す為に持ち出したのか……こんな凶悪なものを平然と人に向けるのか!! 訳の分からない大義の為に借り物の鎧を着込んでテロに加担してッ!! 貴様等は生きていて恥ずかしくはないのかぁぁぁぁーーーーッ!!」


 彼らの抵抗が気に食わない。

 目的の為に仲間を見捨てる姿が気に食わない。

 そうまでしてジルベス合衆国の不正義に熱狂する様が気に食わない。


「この世界はッ!! 正義が勝つべきなのだぁぁぁッッ!!」


 空中で敵を仕留め、敵を蹴りながら加速して次の敵を仕留める。

 超高速の空中戦は次々に速度を増し、狭い空間を三次元的にジグザグに跳ね回りながら瞬く間にテロリストの数を減らしてく。


 テロリストの一人が呻く。


「正義という名の病に冒された異常者め! 己だけが正義と驕るか!」

「人殺しの詭弁を探し破壊を求める醜い悪を滅ぼせるならば、異常者で結構!!」


 この閉所で発揮出来る限界まで威力を籠めた蹴りが、パワードスーツの頭部をテロリストの頭ごと粉砕した。これで無力化した機体は12機――しかし、動体反応がまだあった。

 それは、上方十二機を囮に別ルートから侵入したテロリスト達だった。

 他の十二機より粗末で旧式のパワードスーツはしかし、腰に装着した音波装置のような装備をピラーに押しつける。


「終わりだ!! ジルベスに制裁を!! パルジャノ連合の正義に栄光あれぇぇえぇぇええぇ――え、ブッ」


 音波装置の出力が上がりきる、その直前。

 イーグレッツが空中で蹴り落としたアクティブシールドが砲弾の如く上空から降り注ぎ、テロリストを厚さ30センチほどの鉄の塊に押し潰した。装甲の隙間から勢いよく鮮血とオイルの混合物が飛び散る中、悠々と下降してきたイーグレッツが冷酷に告げる。


「どんな大義名分を抱えようがごみごみに過ぎない。相応しい姿になったな、犯罪者」


 ――その後、特務課と公安の共同作戦は成功という形で幕を閉じ、テロは世間に知られることなく未然に防がれた。一歩間違えれば壊滅的な被害が出ていたかもしれないだけに、誰もが胸をなで下ろした。

 特務課のハッカーも当然、胸をなで下ろした。

 町の管理システムの調査を放棄してまで手伝ったのだから当然だ。


『――オッケイ、オウル。ユアちゃんの監視システムの再構成に成功したよ。基幹システムに擬態したからもう連中の権限で見つけ出せるもんじゃない』

『ご苦労、サーペント。あとはテウメッサの仕事待ちだな。塵は塵、なかなかいい言葉だ。初めてイーグレッツ特務官殿と気が合った』


 その、放棄の瞬間が本当に悪い存在の思惑通りだったことに、気付かずに。

次の投稿はちょっとだけ後れるかもしれません。

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