9話 拳銃好きの暗殺
オウルは拳銃が好きだ。
持ちやすく、取り回しやすく、殺しやすい。
ユニットの過剰なパワーは本来暗殺には必要ない。厳重な警備も群衆も鼻歌交じりにすり抜けて暗殺対象に致命の凶弾を叩き込むだけなら、巨大なライフルもミサイルも必要ない。その無駄のなさがオウルは好きだった。
そんなオウルにとって、ユニット専用拳銃『ブリッツ』はお気に入りの武器だった。
ユニットを使うとなればもっと手っ取り早い武器や破壊力で確実に敵を倒す武器がある。下手をしたら武器を使わず徒手でどうにかなる場面もあるだろう。対して拳銃にはライフルの射程も、マシンガンの連射性も、ミサイルの範囲攻撃と追尾性も、『スライサー』のような回避の困難さもない武器だ。
それでもオウルは、『ブリッツ』が好きだ。
何故なら、『ブリッツ』は対パワードスーツ戦で最も無駄のない武器だからだ。
「かかってこいよやられ役。ユニット・アクションだ」
オウルの挑発に数名のパワードスーツが反応した。
「ほざけ、玩具を手に入れてはしゃぐだけの若造が!!」
「我らのスーツ『アトランティード』はベクターの重機技術の粋を集めて作られた究極の解体機!! 軍用を遙かに上回る馬力と耐久力と圧倒的な破砕力の前に砕け散れぃ!!」
「……重機ねぇ。黄色と黒のカラーリングがそれっぽいだけだろ」
オウルの無駄口をかき消すように二機がオウルに向けてアンカーガンを発射。
対物ライフルの射撃に匹敵する破壊の杭が次々に飛来する。
オウルはそれに微塵も動揺を見せず、ただ身を反らして杭を躱すと『ブリッツ』を左右一発ずつ発砲。解き放たれた弾丸がそれぞれ射撃を行うパワードスーツの胸部に直撃した。別のパワードスーツたちがせせら笑う。
「俺たちの『アトランティード』にそんな豆鉄砲が効くものかよ!」
「ユニットってのはそんな貧弱な武装を使うのか!? はははは、は……?」
彼らはすぐに異常に気付く。
拳銃の弾丸を受けた同胞がぴくりとも動かない。
よく見れば、パワードスーツには弾丸が貫通した痕がはっきり残っていた。
その穴から、ごぼ、と、オイル混じりの血液が漏れ出した。
射撃をしていた二人のパワードスーツパイロットは即死していた。
「は……?」
オウルは唖然とするパワードスーツ部隊に次々に『ブリッツ』を発射する。
全ての弾丸が正確無比に胸部に命中し、『アトランティード』は次々に無力化されていく。
「く、クソがぁぁぁぁ!!」
当たったら死ぬという認識を漸く抱いた他のアトランティードたちが脚部からモーター音の唸りを響かせる。アトランティードの踵から車輪が展開し、即座に集団戦闘の陣形を取る。
アンカーガン、プラズマカッター、パイルドライバー、音波装置が絡み合った複雑な陣形を即座に構築出来るのは軍時代の経験故だろう。陣形が組まれた直後、キィィィィン!! と、耳を劈く不快な高音――超音波がオウルに殺到する。
「無様に這いつくばれ、ユニット!!」
「それはもういい」
直後、ユニットからも同じ超音波が発生してアトランティードたちの音波を相殺した。
オウルは先ほど空中で突然動きが鈍り、クラウンのアトランティードに拘束されたが、その原因は相手の音波装置にあった。彼らは超音波を一点で融合させる技術を使って空間にピンポイントの空気の断層を作ったのだ。
だが、タネが割れれば対処は容易だった。
「ユニットは水中でも戦えるのを忘れたか?」
「まさか、ソナーキャンセラー!?」
「ご明察、そしてさようなら」
オウルが『ブリッツ』を発砲し、音波装置を構えていたアトランティードのパイロットが貫かれ、絡繰りを見抜いた者も絶命した。次々に仲間をやられたパイロット達はこれ以上の小細工を切り捨ててオウルに肉薄する。
そんな中、リーダーのクラウンだけはそれに微塵も動揺せずに状況を分析する。
「逆位相の音波をぶつけることで音波は相殺可能……アクティブノイズキャンセリングか。それを使われちゃ潜水艦は為す術なしってわけだ。そしてその拳銃の弾……」
立ったまま死んだ部下の乗るアトランティードをしげしげと眺めたクラウンは弾痕をパワードスーツ越しに指でつつく。
「見たこともない弾頭だが、恐らく着弾の瞬間に対象に強い衝撃を与え、その上で着弾の衝撃で弾丸の中から『もう一つ弾丸が飛び出す』二段構えの構造か。コスト度外視だが凶悪だな。ますます味わいたくなったよ、少年……」
クラウンの蕩けたような視線の先で、オウルは次々に迫り来るパワードスーツを次々に射殺していた。
「うおおおお!!」
「これ以上はやらせん!!」
二人がかりでプラズマカッターを構えて大ぶりに振り回すアトランティードを跳躍して躱し、空中で身を捻って真上から発砲。二発の弾丸がパイロットを頭頂部から貫いた。
「お前らの犠牲、無駄にはぁ!!」
その瞬間を狙って尾のアンカーを高飛び棒代わりに飛んだアトランティードがパイルドライバーを突き出す。命中と同時に内部の機構が働き対象を粉砕する破砕槌を、オウルはその腕を手の甲でそっと受け流すとわざと射角に角度を加えてアトランティードに発砲。着弾の衝撃でパイルドライバーの動きが逸れ、近くに接近していた別のアトランティードの胴体に直撃した。
ゴジャッ、と、金属が紙くずを破るようにドライバーに貫かれた。
中身は当然即死し、仲間を貫いたパイロットも着弾時にとっくに死んでいる。
「……このパイルドライバーは流石に喰らうとまずそうだな」
戦争ではリーチがなさすぎて役に立たずとも、アトランティードの機動力と重装甲があれば白兵戦では馬鹿にならない破砕力だ。本来は建築物を破壊するためのものなだけあって、無慈悲なまでに衝撃が凄まじい。興味を持ったオウルは先ほど頭頂部を撃ち抜かれて沈黙したアトランティードの後ろに着地すると二機に手を当てる。
「システムクラック、簒奪」
アトランティードたちはパイロットが死んだだけで機械としては一部が破損したに過ぎない。
オウルはユニットのクラッキング機能で瞬時にアトランティードを支配し、パイルドライバーをパージさせると二つのドライバーを上空に放り投げ、自らも跳躍すると足を回す。
すると、パイルドライバーがユニットの踵の上辺りに吸い込まれるようにドッキングした。
アトランティードのパイロット達がアンカーガンで銃撃しながら叫ぶ。
「虚仮威しを!! 装備のID認証とMPJ規格の不一致だ、使える筈がない!」
高度に情報化された今の社会、軍や警察の武装は全てID認証を通らなければ使用出来ない。それはベクター社でも独自規格で同じ事をしている。
更に、パワードスーツ類は装備の換装を簡易かつ迅速にするために腕部や脚部、腰部にエネルギー供給機構のある共通の規格の接続機構――MPJを持つが、ベクター社の専用作業装備は国内共通規格とは違うものを使用している。
不具合でエラーが起きたら良い方で、最悪の場合はジョイントが破損してエネルギーの流出が止まらなくなる無謀な行為――ユニットの足に装着されたパイルドライバーが迫る中、パイロットはどうせまともに発動する筈のないドライバーを敢えて受けることを選択した。
受けた瞬間にプラズマカッターで仕留める――。
「使えるんだなぁ、これが」
「がぺっ」
彼の意識は頭頂部から叩き込まれたパイルドライバーの一撃で破砕され、衝撃が全身の骨を砕け散らせた。
「ふーん、面白いなこのパイルドライバー。持って帰ってサーペントに解析させるか」
「き……貴様ぁぁぁぁーーーーーッ!!」
パイロット達は怒りの余りに絶叫する。
一方的に弄ばれ、戦略を装備の性能差で覆され、あまつさえ武器を奪われて敵に利用される。兵士としてこれ以上の屈辱はなく、そしてそれを実行出来るユニットという規格外の怪物に彼らは怒り狂っていた。
「こんな兵器があったなら、今まで戦場で命を散らしてきた兵士達は何だったんだッ!! こんな技術の十分の一でも前線に反映させていれば、させていればぁぁぁぁ!!」
「礎となった俺たちを虐げ、踏み潰し、影に押しやったジルベスの――これが新たな力か!!」
「ああそうだろうよ、確かにこんなもんがあったらヒーローになれる!! 国の為にしか動かない薄汚いヒーローだ!! ハハハハハハ!!」
戦場の怨嗟、見捨てられた怨嗟、今という社会に対する怨嗟。
地獄の炎でどろどろに煮詰められた、鬱屈した激情の発露だった。
しかし、オウルは彼らの思いに同情も共感も否定も拒絶もしない。
「だからなんだ?」
獣のような瞬発力で加速したオウルは疾走しながら左右に四発『ブリッツ』を発砲すると舞うような足技でパイルドライバーの一撃を次々にアトランティードに叩き込む。
一撃一殺、全ての攻撃が文字通りの必殺。
ある者は絶叫しながら、ある者は怒りのあまり我を見失い、ある者は純粋にふざけた戦いに喜びを感じながら――等しく死んでいった。




