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王甥殿下の幼な妻  作者: 花鶏
第六章 王甥殿下の責務
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「陛下は峠は越えたと思われます」


 アイディティア女王が倒れた朝から、あと数刻で丸一日が経つ。深夜の寒さの中、マティアスは何名かの儀長たちと要塞の一部屋で吉報を聞いた。

 呻きながら悶えていたリリアは一時間ほどで落ち着き、足元も覚束ないまま女王の介抱に戻っていた。


 周りが喜びに沸き、それを確かめるように抱きしめ合っているが、それは女王の無事に対してだ。

 女王の介抱の場にマティアスが立ち入ることは出来ず、マティアスはリリアの体調も心配だった。


「リリアさんも無事ですよ」


 振り向くと、老医を伴ったラビンドラが立っていた。


「ラビンドラ殿」

「ただ、毒の影響で暫く吐いたりお腹を下したりするので、陛下と一緒に明日まで神殿でお預かりします」

「毒?」

「ええと、共通語では何という名前なのかな、あの、赤い実の成る……」

「ゼルゼア」


 老医が補足する。


「ゼルゼア……? 毒草の?」


 その鮮やかな実を除けば形の良く似た香草があり、ヴィリテでは毎年誤食による死亡例がいくつも報告されている。マティアスも軍の演習で山籠りする際に習った。大量に摂取すればものの一分で意識を失い、苦しむ時間もなく人を死に誘う猛毒。


「なんで、そんなものが……」


 不思議そうにするマティアスの手を、涙の滲んだ医者が握る。言葉は分からないが、礼を言われているのだと思った。


「ニラジ先生は、若い頃留学されていたので共通語は多少聞き取れるのですが、喋り方は忘れたそうで。どうしてもお礼をと仰るのでお連れしました」


 ニラジと呼ばれた老医は、床に膝をつきマティアスの手に額をつけて何かを言う。


「北方蠍に刺されて生き延びることができるなんて思いもしなかった。殿下が今リリアさんを連れてこの国を訪れていたのは、陛下を生かすため神が采配されたと、殿下とリリアさんに大変感謝していらっしゃいます」


「………いえ、その、俺は何もしていないので……頭を上げてください」


 マティアスは老医の手を取って立たせた。

 訳が分からないマティアスに、ラビンドラが説明する。


「陛下を刺したのは、北方蠍という猛毒の蠍です。これも、普通なら刺されて一時間ほどで死亡するもので、助かった例を聞いたことがありません」


 さそり……あの、転がっていた黒い海老のような生き物のことだろうか。


「北方蠍の毒と、ゼルゼアの毒は相殺するのだと、リリアさんは仰っていたそうですが」


 問いかけるように言われたが、マティアスが知る訳がない。


「リリアの側にいたいのですが、難しいですか?」

「どうしてもと仰るならお運びしますが、神殿が一番暖かくしておりますし、良い寝台があります」

「………そうですか。では、このままでお願いします」


 ふと後ろを見ると、一通り喜びを噛み締めた儀長たちがマティアスに礼を述べようと待ち構えている。リリアが心配していた、不吉な来訪者という評価は免れたようで、リリアは賭けに勝ったのだと思った。




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