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王甥殿下の幼な妻  作者: 花鶏
第六章 王甥殿下の責務
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04



 王都フレアからイドゥ・ハラルの国境まで馬車と川船で三日、国境からは暫く馬に乗ってイドゥ・ハラルの聖都ポルカ・ダユの麓へ向かう。

 日毎に肌に当たる風が冷たくなる。国境付近までの見慣れた森や草原がなくなると暫くは岩の多い乾燥地が続き、奇妙な形をした大きな植物らしきものが点在する。一日かけてそれも抜けると針葉樹の森に踏み入ったが、標高が高くなるにつれ樹木は低く、疎になっていった。


 聖都ポルカ・ダユは山岳地帯の中ほどにあり、麓からは徒歩でほぼ一日かかる。マティアスは屈強なハラル人たちに遅れをとらずに足を進め、リリアは早々に諦められ、荷物としてヤクに乗せられていた。


 ずっと登ってきた山の巻き道を回ると、急に視界が開ける。顔を打つ風が冷たく肌が痛い。顔を上げると、段々畑が広がる集落の向こうに、赤茶色の嶮岨な岩肌に囲まれて白い山が聳えていた。

 マティアスはその美しく厳しい眺望に思わず足を止めた。


 ヤクの揺れに青い顔をしているリリアが何かを言って、運搬人がヤクを止める。


「マティアス様、下ろしていただけますか?」


 ヤクの背中からリリアを下ろす。

 案内人から支給された防寒着でもこもこに膨れたリリアは、マティアスの手を引いてぽてぽてと絶壁に進み、聳える白山を指した。


「あの白いお山が、霊峰ポルカです。

 イドゥ・ハラルの一番偉い神様なので、ご挨拶しましょう」

「神様……王が神なんじゃないのか?」

「王様は、神様の化身です」

「へえ。二番目に偉い神様はどれだ?」

「二番目……は、沢山います。お山じゃないです」

「そうなのか。難しいな」


 リリアはリュックを降ろして悴む手で紐を解く。


「そういえば、俺より大荷物だが、何を持ってきたんだ?」

「ケルビーに薬を貰ってきました。風邪薬とか、傷薬とか、………いろいろ」

「この包みは?」

「布です。一番良い麻布を手配してもらいました」

「……大使から、袖の下は侮辱だと念を押されたのにか?」

「袖の下というか、お香典というか……渡す機会があれば良いですが、無駄になるかもしれません」


 リリアはリュックの中から水筒を出し、蓋に水を注いで地面に置いた。山に向かって膝をつき、何かを言って三度頭を下げた。


「今の呪文、もう一回言ってくれ」

「呪文じゃないですよ。心の中で、おじゃまします、って言えばいいです」


 寒さで鼻を赤くしたリリアが笑って言うので、マティアスも同じように膝をついて挨拶する。


 ―――おじゃまします。なるべく、お手柔らかに願います。


 これが自分を食べてしまう神かと思うと美しい稜線が心に痛かった。



 日が暮れる頃にポルカの要塞に辿り着く。岩肌を削って作られた要塞は、荒々しくも荘厳で、ハラル人の信仰心が顕れたようだった。

 入口に立っていた長衣の男が案内人からマティアスとリリアを引き取り、下男のような男に荷物を持たせて要塞へ招く。


「長旅、おつかれさまでした。

 部屋を用意してありますので、まずは足をお休めください」


 男は穏やかな口調で共通語を話した。




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