02
白亜のヴィリテ城の一角。
登城したマティアスは宰相にことの次第を説明した。ネブラス山の伐採についてはもう検討が始まっているとのことで、宰相はマティアスがそれを知らなかったことに怪訝な顔をしていた。
リリアがマティアスの書類仕事を手伝い始めた当初、女性の提言を快く受ける役人は殆どいないため、リリアの起案は全てマティアスの名前で出していた。最近は王弟と宰相に相談した結果、リリアにマティアスの臣下として通名を使わせている。
今回のような鉱山開発の中止や流行病などの一官吏の手に余る話は、マティアスが宰相に話して宰相の書類に混ぜてもらうことになっていた。
宰相に報告した後、マティアスはクラウディアの応接室に呼ばれていた。
「驚いた? 王宮の中のことは、それなりに把握してるの」
上品に微笑むクラウディアに、マティアスはばつの悪い顔をした。
「今日のお話、リリアさんが気づいたんですってね。素晴らしいわ」
マティアスは溜め息を吐く。
「―――貴女に隠し事をする気はない。
聞きたいことがあるなら聞いてくれ」
「ありがとう。
わたくし、リリアさんとは仲良く出来ていると思っていたのだけど、教えてもらえなかったし、―――ヴォルフを赦してくれていないと気づかなかったわ。全然だめね」
「アーネストが気づいただけで、俺も教えて貰ってない。ヴォルフのことは、嫌いなわけではないと言っていた。貴女のことはいつも素敵だと褒めている」
「あら」
「アーネストが言っていたんだが……たぶん、彼女にとってはただの空想遊びで、報告するような話ではなかった。隠すつもりなら、たぶんアーネストでも聞き出せなかった」
「でも、ヴォルフが嫌いじゃないなら、どうしてそんな空想を」
「……軽く流して欲しいんだが、俺と貴女をくっつけたかったらしい」
クラウディアが目を丸くする。
「マティアス……」
「なんだ」
「甲斐性が足りないのでは……?」
「ほっといてくれ」
クラウディアは少し考えるようにしてカップの中でティースプーンを回す。
「マティアス、リリアさんがイリッカ様の孤児院で初等教育を進めてるの、知ってる?」
「………いや。聞いてない」
「イリッカ様の次の慈善事業の企画に混じってるのは、知ってる?」
「知らないな」
「………だめな旦那様ねぇ……」
「寧ろ貴女は何故知ってる」
「イリッカ様もリリアさんも、別に隠してないわ。お茶会で相談してるくらいだもの」
リリアはマティアスに随伴する公式の社交場には顔を出すが、いずれ離縁するつもりなのであまり人間関係を構築しないよう、基本的にお茶会の誘いは断っている。クラウディアとイリッカの誘いだけは応じるので、交流の多いこの二人はリリアの参加を客寄せパンダにしている節があった。
「マティアス、貴方はヴォルフの味方でしょう?
リリアさんをちゃんと繋ぎ止めておいてね」
「どういう意味だ」
「イリッカ様に取られないで。
わたくし、マティアスの奥様だから仲良くしたいと思っているの。でも、イリッカ様と二人で面白計画を始めるなら、仲良くはできない」
「……それは、そうだな」
「お願いできる?」
「…………努める」
マティアスは具体的にどうすれば良いか分からず、そう答えるしかなかった。




