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王甥殿下の幼な妻  作者: 花鶏
第四章 幼な妻との離婚危機
47/109

01



「おいマティアス。この爆弾姫にお説教だ」


 年の瀬が近づき再来年度の予算要望の締め切りが迫る中、書類と格闘しているマティアスの部屋に、リリアを横抱えにしてアーネストが乗り込んできた。業務の確認に来ていた青年が、アーネストのリリアの扱いに目を丸くした。


「………なんだ、藪から棒に。

 市場に遊びに行ってたんじゃなかったのか」


 ここのところリリアは市場にはまったらしく、暇さえあれば市場に行きたがる。忙しいマティアスは殆ど同行できず、屋敷の護衛たちが交代でリリアの供をしていた。今日は久しぶりにマティアスが一日屋敷にいるため、アーネストがそれを仰せつかっていた。


「……先客か。

 後にした方がいいか?」


 リリアを脇に抱えたままのアーネストに、マティアスは眉を顰める。防寒着を着込んだリリアは困ったような萎れたような顔で大人しく荷物になっている。


「ローレンツ、すまないが席を外してくれ。

 とりあえずここまでは進めてくれていい」

「はい。出来たら確認にあがります」


 青年は書類を纏め、一礼して退室した。

 残った書類を一箇所に集め、マティアスはソファテーブルへ移る。


「何があった?」

「リリアちゃんの手柄と、悪さと、どっちから聞きたい?」

「アーネスト、あの、わたくし、まだ何も」

「何も、じゃない。マティアスに黙ってそう言うことしちゃだめって覚えて」


「………手柄から聞く。

 とりあえず、リリアを降ろせ」


 アーネストは子どもにするようにリリアの両脇を持ち上げてマティアスの正面に座らせた。


「リリア、何をしたんだ」

「まだ、何も、してません………」


 リリアは眉を下げ、悪戯を隠す子どものように視線を泳がせる。

 もごもごとはっきりしないリリアに代わってアーネストが話しだす。


「こないだ始まった銅山の開発あったろ。あれ、もう損切りした方がいいかもしれない」

「まだ始めたばかりだぞ。今やめたら全損だ」

「ザムールでバカでかい鉱山が見つかって、じきに銅価格は暴落する」

「……確かか?」


「それから、一昨年開通したネブラス山の搬出路、使い勝手が良くて伐採量が増えてるだろ。加減しないと、数年で山が崩れて下の町が埋まる」

「……そうなのか? すまん、その搬出路自体すぐ分からない」


「あと、最近評判のバクーラ宗派、カダール風邪の薬を配ってるみたいだけど、紛い物の可能性が高い。薬の効果を喧伝してた集団との関係を洗った方がいい」


「―――ちょっと待て、一気に色々言われても……どこで仕入れてきた話だ」


「リリアちゃんが、お前から流れてくる書類と市場で拾ってきた話から見つけた話だ。まだあるぞ」


 マティアスは驚いてリリアを見る。

 リリアは叱られた子どものように肩を竦めている。


「……後で、俺にも分かるように纏めてくれ。断定するには補完調査が要るが、いったんの話として宰相に通しておく」

「……はい」


「これが手柄か? 悪さは何だ」


「今言った諸々やらなんやらで面白計画を立案してた。

 銅山の開発はヴォルフ様の名義だし、搬出路の立案もヴォルフ様だし、バークラ宗派は直接は関係ないけど王都の教会の許可には全部陛下かヴォルフ様のサインが入ってる」


 半年前のデビュタントの記憶が蘇る。

 面白計画。リリアが、ヴォルフを王太子から失脚させようと言った時に使った言葉だ。

 銅山も林木の搬出路も、決定した時点では何人もの確認の上で決定している筈だ。教会の活動許可も、活動要件を満たしたというだけのものだ。

 しかし、結果が振るわなければ人民は不満を募らせ、その不満は名義人のところへ集まる。


 小さくなっているリリアを見るが、視線が合わない。


「アーネスト、その話、他に誰が知ってる?」

「リリアちゃんが他で喋ってなければ誰も知らない」


 マティアスはほっと息を吐く。


「―――リリア。それは反逆だ。貴女がその辺の子どもならまだしも、どうせ具体性のある計画なんだろう。危ないからやめろ。誰にも言うな」

「なにも、してません……誰にも言うつもりもなかったのに、アーネストが誘導尋問するから……」

「あれくらいで喋っちゃうならそのうち誰かに言ってたよ。

 考えるなとは言わない。ちゃんとマティアスと話して、マティアスの意向を確認してって言ってるの」

「……………ごめんなさい」


 アーネストの口調はいつも通り優しいが、厳重な注意であることはきちんと伝わるのが流石だと、マティアスは感心する。


「リリア。俺は立太子を望んでないし、ヴォルフは人としてはさておき王太子としては問題ないと思ってる。

 貴女が無体をしたヴォルフを嫌うのは分かるが」

「別に、ヴォルフ様のことは、嫌いではないです……」

「じゃあ何故そんな計画を立ててる」



「…………マティアス様が、クラウディア様と、結婚できたら良いと思って………」



 アーネストが珍しくぎょっとした顔をする。


 アーネストがそろりと視線を向けると、

 より珍しいことに、マティアスが露骨に不愉快さで顔を歪めていた。




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