04
カロリーナの言葉に、マティアスは見舞いと称してリリアの部屋を訪れた。
彼女が屋敷に来てすぐに与えられた部屋は、最低限の家具のみが置かれ、好みのものを設えるようにと母イリッカからかなりの額の支度金を渡したと聞いている。
初夜に訪れた時は照明を落としていたため気づかなかったが、この調度品の数では、殆ど支度金は使われていないのではないか。
しかし、そんなことより―――
数ヶ月前、初めて見た彼女は普通の健康な令嬢に見えた。
結婚式で見た時は、化粧が少し整いすぎだと思った。
その夜の寝室では桃色の頬が青褪める様子がいたたまれなかった。
今は―――
「わざわざお運びいただき恐縮でございます」
土色の顔から抑揚のない声がする。
視線はこちらを向いているのに虚な青い瞳は自分を写しているようには見えない。澄んだ青だと思っていた瞳が、酷い隈で濁って見えた。
「その……急に来てしまってすまない」
「いいえ」
「入ってもいいだろうか」
「もちろんです」
「少し……二人で話したいんだが、侍女を下がらせても?」
「殿下がお望みならそのように」
二人きりになると、リリアは侍女が準備した紅茶を淹れてくれた。
「一昨日は……失礼なことを言って申し訳なかった」
「とんでもないことでございます」
無表情なのに顔色が悪い所為で怒っているように見える。
「赦してもらえるだろうか」
「わたくしが殿下を赦すの赦さないのと、そんな不敬を申し上げることはございません」
取り付く島もない。
慇懃な態度なのに、アーネストより無礼に感じるのは何故なのか……いや、こちらに非があるのに何を言っているんだ俺は。
「その、反省している。
お詫びに何か贈りたいのだが」
「殿下が反省すべきことなどございません」
「……しかし現に貴女は怒っているし……」
「わたくしは怒ってなどおりません」
「じゃあ何故作り笑いすらしてくれないんだ」
痴話喧嘩みたいになってきた。
違う。別に俺に笑いかけるとかかけないとか、そんなことはいい。俺も必要以上に関わるつもりもなかった。赦してくれなくてもいい、ただ、ハンストをやめて食事を……
「……夢をちらつかせ、それを砕いておいて、それでも民は笑いかけてくるものだと思っていらっしゃるのね……」
マティアスに聞かせるつもりもないような小さな声が抑揚なく溢れる。
夢?
あの夜に俺が彼女の夢を砕いた?
「………貴女はそんなに俺に抱かれたかったのか……?」
彼女は視線をゆっくりと持ちあげ、それがマティアスを捉えると、
汚い虫を見るように青い目を細めた。