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王甥殿下の幼な妻  作者: 花鶏
第三章 幼な妻の里帰り
39/109

07



 学長と事務的な話を終えて、マティアスは学園(アカデメイア)を散策しつつリリアたちの待っているという食堂を捜す。


 予想外に方々から寄付があったようで、公には活動停止扱いであった学園(アカデメイア)は細々と活動を続けていた。ただ、会員たちに支給する生活費が足りず、ムクティのように街で小銭を稼ぐ会員が増えていた。


 敷地内は建物を継接ぎしているせいで迷路のようになっている。マティアスは方角を頼りに足を進めるが、何度も行止まりにあたり、食堂ではなく中央広場に出た。


 学園(アカデメイア)の中央広場。

 広い芝生の中央に、石造りの階段が円形に盛り上がり、周囲を崩れかけた太い柱が取り囲む。

 九百年前、まだ農業の技術が拙く殆どの市民が農民であった時代に、学問を志す人々が論議をする為に集まった広場。学術の発祥の地として世界中の学者から敬意を受けていることを、マティアスは最近知った。


「もしかしてマティアス殿下?

 リリアを探してるんですか?」


 振り向くと、学舎の窓から長い髪を束ねたそばかすの女性がこちらを見ていた。


「食堂にいるはずなので、食堂を探している」

「食堂ならすぐそこだから案内しましょうか」


 女性は窓枠を乗り越えてマティアスを先導する。一般的には行止まりを意味するであろう壁の穴を潜ると、テーブルと椅子が所狭しと並ぶ広い部屋で、集まった人々の中心に捜していた四人が座っていた。


「なぁ、もう一回やろうぜエルザ。次は勝つ」

「うるさいわね、馴れ馴れしく呼ばないでよ、この下郎」

「君すごいね、アレクシスと喧嘩して勝てる奴なんてこの辺にいないよ」

「リリア、もう会えないかと思ってたよぉ、元気そうで良かった」

「ねぇ、王都ってどんなところ? 国立図書館はもう行った?」


 どうやらリリアは学園(アカデメイア)のマスコット的存在だったようで、歩く先々で声をかけられている。


「リリアぁ! 旦那さん迷子になってたわよ!」


 マティアスを案内してくれた女性がリリアを呼ぶ。


「ヨハンナ! 久しぶり! 今日は実験室から出てきたのね」

「あんたが来てるって聞いたからね」


 ヨハンナは駆け寄るリリアの頭を撫でる。


「ルキウス様のところにはもう行ったの?」

「……ううん。ちょっと遠いから……。

 ロケット、ありがとう。

 おかげで辛かった時も頑張れたの。ずっと大事にするわね」

「可愛いやつめ」


 ヨハンナはリリアを抱きしめて頬にキスする。


「あっ、ヨハンナ、わたくしもう御令嬢だから、……ヨハンナは女性だからいいのかしら」


 リリアが伺うようにマティアスを見る。


「……この辺りでは、友人を抱きしめてキスするのは普通のことなのか?」

「そうですね、わりと普通です」


 そうなのか。驚いたが、そういう文化だというのなら―――


「クチにチューするはアレクシスだけだけどね」

「アレクシス、あんたまだそんな事やってんのかい。リリアはもう人妻なんだよ」


 ヨハンナはリリアの肩に腕を回したまま呆れた声で言う。


「うっせーな。俺にとっては普通のことだ。

 学園(アカデメイア)ではリリアにしかしてねぇだろ」

「次にリリア様にあんなことしたら耳が落ちると思いなさい」

「おっ、もうひと勝負するか?」


 嬉しそうにエルザを挑発するアレクシスをリリアが嗜めた。


「だめよアレクシス。

 今はもう、わたくしの身体を好きにしていいのはマティアス様だけなのよ」


 リリアの爆弾発言に、ざわりと周囲がどよめく。全員の視線がマティアスに集まる。


 著しく語弊がある、と訂正しようと思ったが、アレクシスの視線を見とめて、マティアスはなんだかもう面倒になった。


「……そうだな。俺のものだからな」


 リリアが平静な顔で頷く。

 ムクティが囃すように口笛を吹き、アレクシスは蔑んだ視線をマティアスに向けた。


 エルザが他人事のようにきゃあきゃあ喜んでいるのが鬱陶しかった。



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