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王甥殿下の幼な妻  作者: 花鶏
第三章 幼な妻の里帰り
35/109

03



 日が暮れた頃、アルムベルクで唯一の貴人を迎えられる宿に到着する。

 エルザが宿の使用人たちと荷物を運び込んでいると、アルムベルク公爵が出てきて迎えてくれた。


「マティアス殿下、お久しぶりでございます」

「お久しぶりです公爵。婚儀以来ですね。リリアとなかなか会わせてあげられなくてすみません」

「その節はゆっくりお話もできず、アルムベルク領を救ってくださったお礼もちゃんと言えないままで……」

「それは父と母がしたことで、俺は可愛い妻をもらっただけですから、頭を上げてください」


 そう言うマティアスに、アルムベルク公爵は一層深く頭を下げた。


「正直……リリアが望んだこととはいえ、酷い扱いをされるのではと後悔ばかりでした……

 仲良くさせていただいていると聞いて、私は、本当に……」


 涙声の公爵にリリアが手を添える。


「お父様、泣かないで。

 マティアス様が困ってしまうわ」

「リリアぁ……結婚式も綺麗だったが、今日も綺麗にしてもらって、良かったなぁ……」

「お父様ったら……」


 マティアスはどう反応すべきか分からず、二人を見守る。領地経営に失敗した公爵として王都での評判を下げたリリアの父は、マティアスには情が深い父親に見えた。


「カール達は元気?」

「元気だよ、お前が送ってくれたお金で、ちゃんと家庭教師もつけている」

「良かった」

「カミラとクララも、お前が喜ぶからって最初は頑張ってたが、ちょっと辛そうだ」

「そう。いいのよ、座学だけが勉強じゃないわ。あの子達のやりたいことを助けてあげて」


 カールと、カミラと、クララ。

 リリアは一人娘と聞いていたが、話の流れから弟妹なのだろうか。


 リリアにはマティアスに興味がないと責めておいて、リリアのことを殆ど知らない自分に気づく。母親は数年前に他界していると聞いているが、これも婚約時の釣書の情報だ。リリアが話してくれないからだが、では自分は尋ねたかというとそうでもない。

 最近はアーネストよりも会話が多い筈なのに、何を話していたかあまり思い出せないのが不思議だった。


「……リリアは、家に帰るか?」


 リリアが不思議そうに振り向いた。


「公爵以外にも会いたい人がいるなら、家に帰ってもいい。その方がゆっくり休めるだろうし」

「いえ、公爵邸はもう管理が追いつかなくて……今お父様たちが暮らしてるのは別邸なので、わたくしの部屋はありません」

「………そう、なのか」


「あの、マティアス殿下、それなら、夕食だけでも我が家でいかがでしょうか?

 子供たちもリリアに会いたがっていますし、お、お口に合うものはないかもしれませんが……」

「だめよお父様、わたくし、初めの頃、王都でご馳走が続きすぎて吐いてたのよ。それくらい食べてるものが違うの。

 ここの宿の、一番良いものが、最低ラインよ」


 娘の厳しい言葉に公爵がへにょりと泣きそうな顔をした。その下がった眉にリリアとの血の繋がりを感じて、マティアスは笑う。


「もし、迷惑でないなら、お邪魔したいな」

「マティアス様?」

「リリアがどんなものを食べて育ったのか、興味がある」



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