04(アーネスト視点)
「公然の秘密なんだけど……あいつは、子どもの頃からずっとクラウディア様が好きで、でも当時既に彼女はヴォルフ様の婚約者だったからどうしようもなかったんだ。
十五で軍に入隊してからは会うこともなかったけど、あいつは他の恋人を作る様子もなくて」
そんなマティアスが十七歳の時である。
控えめにずっとマティアスにアプローチしてくる令嬢がいた。
明るい金髪の素朴な容姿の彼女は一途にマティアスを訪ね、こまごまとした気遣いでマティアスの関心を集めた。いつからかマティアスもその好意に応えるようになり、一年半ほど逢瀬を重ねた頃、少しずつ彼女の態度が変わり、次第にマティアスを遠ざけるようになった。
無理強いをしたい訳ではないがせめて理由を、とマティアスが詰め寄ると、彼女は泣きながらマティアスに平伏し赦しを乞うた。
「―――要するに、いつまでも女を作らないマティアスに筆下ろしする為に、イリッカ様の用意した女優だったんだなぁ」
「まあ………」
「まぁ、必要な時もあるんだよ。
マティアスや俺は、政略結婚する可能性の方が高い。将来、覚悟を決めて嫁いできた女の子に、あんまり好みじゃないから抱けない、とは言えないでしょ。政略結婚する女の子は未経験の子が圧倒的に多いし、多少練習しとかないと」
「それは、まあ、そうですね」
「それからしばらく、充てがわれる女性をとりあえずこなしてた時期があって………イリッカ様の手配する女性が魅惑ボディのお姉様に偏ってたから、そんな噂がたったんだろうな」
考え込むリリアの表情に、嫌悪感のようなものが感じられないことに少しほっとする。と同時に、嫉妬も見られないことに脈のなさを感じる。
王都では身分の高い令嬢ほど、適齢期になれば男とはそういうものだと教育されるが、政略結婚の少ないアルムベルクのような田舎ではそんな教育は珍しいだろう。
他に想う相手がいないのならば、一応の夫に対しての独占欲があるべきなのではなかろうか。
そう思ったものの、問い質した答がどうであろうと、アーネストがリリアにしてあげられることはなく、きっと彼女もそんなことは望んでいないのだろうと思う。
「やっぱり初めての恋人は特別だからさ。あいつはあいつなりにその子を大事にしてたし、惚れ込んでいた訳じゃなくても傷ついたと思うよ。
俺は普通に出会って普通に別れたと思ってるけど、もし初恋の三人のうち一人でも女優だとか言われたら切ないもん」
「はつこいのさんにん」
「マティアスがリリアちゃんにくだけた態度なのは、リリアちゃんがまだ半分子どもで、あんまり女の匂いがしないからってのもあると思うんだよね。
せっかくだから無理にグイグイいかないで、あいつに女の子は怖くないって教えてあげてよ」




