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王甥殿下の幼な妻  作者: 花鶏
第二章 幼な妻のデビュタント
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01(アーネスト視点)



「おはようございますマティアス様。

 昨日お姉様方から伺ったのですが、『本番なしでも大満足』というテキストが婦人の間で人気らしく、是非わたくしも取り寄せたいと」

「却下だ」


 朝の挨拶もそこそこに下ネタをぶっこんでくる可憐な少女は、縁あって先月アーネストの主人マティアスに嫁いできたリリア嬢である。


 マティアスがリリア以外のパートナーを選ぼうとしないため、今後の社交場には正式に彼女が同伴することになった。

 女の噂の少ないマティアスが入れ込んでいるということで、暇を持て余す三人の暴君――マティアスの姉君たちの興味を引いてしまったらしく、リリアは昨日、姉君の友人を集めた茶会に参加していた。


「あの妖怪ども、いったい何を吹き込んでるんだ……」


 爆笑するアーネストを睨みながら、マティアスが忌々しげに舌を打つ。



「おつかれさまだったねリリアちゃん。

 マーリンが、躾の良い可愛い子だったって言ってたよ。他の令嬢の評価もだいたいそんな感じみたい」

「良かったです」


 マーリンはアーネストの妹で、マティアスにとっては一番末の従妹だ。


「アーネスト、お前は人の妻をちゃん付で呼ぶな」

「本人が良いって言ってるのに、旦那は狭量で嫌だねぇ……

 リリアちゃん、その本俺が手配してあげようか」

「怒るぞ」


 夫の怒りにリリアが萎れる。


「ありがとうございますアーネスト。

 マティアス様がお望みでないなら、別のテキストを探します」

「やめろ」


「仲、良くなったなぁ」


 遠慮がなくなってきた会話に、アーネストは腹を抱えて笑った。


「そういえばマティアス、今日のこともう言ったのか?」

「いや、まだ……」


 首を傾いで言葉を待つリリアに、マティアスがしどろもどろに続ける。


「その、今日はオフだからどこかへ連れて行くと言ったが……急用が入ったので、延期させてもらいたい」

「はい」

「マティアス、言葉を濁すなよ。ちゃんと説明して怒られろ」

「………軍の演習に誘われたので参加したい。

 貴女との約束が先だったのに、申し訳ない……」

「かまいません」


 リリアが微塵も落胆しないことに、マティアスが複雑な顔をした。自分とのデートを楽しみにしてもらえなくてガッカリしてるなら良いことだ。

 マティアスは元々身内と判定した人間には甘く、リリアと過ごすこともそれなりに楽しそうである。


(リリアちゃんの方が、どう思ってるのかいまいち分かんないんだよなぁ……)



「アーネスト?どうかしましたか?」


「うーん、マティアスが一日軍事演習に参加するなら、俺、一緒にいなくてもいいかなって……

 リリアちゃん、街にお忍びに連れてってあげよっか?」




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