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王甥殿下の幼な妻  作者: 花鶏
第一章 幼な妻の輿入れ
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「リリア嬢、こっちが俺の侍従のアーネスト。

 こっちが、今日から必要な時には貴女に付く護衛騎士のエルザだ」


 王弟妃イリッカの『マティアスのわくわく家族計画』対策について相談するため、マティアスはリリアの部屋で会合を開いていた。

 夜に充満していたあの香りがないだけで、随分部屋の印象が違った。


「こんにちは、リリア様。アーネストです」

「エルザです、精一杯務めさせていただきます」


 アーネストとエルザが自己紹介すると、周りより頭ふたつ分背の低い少女が、凛と背筋を伸ばしたままゆったりと宣う。


「ええ、よろしくね。期待しています」

「リリア嬢、この二人は俺の友でもあるし、秘密も守る。楽にしていい。

 というか今日は対策会議だし疲れたくない。普通で頼む」


 マティアスがそう言うと、リリアは貴族らしい優雅な所作を捨てて二人にぺこりと頭を下げた。


「そうなんですね。

 リリアです、ご迷惑おかけすると思いますがよろしくお願いします。

 殿下、わたくしがお茶を淹れてもよろしいですか?」

「うん、頼む。カロリーナは念のため扉にいてくれ」

「承知しました」


「えっなに、仲良くなったの?」

「別に普通だ」


 リリアの部屋に入るのももう五度目。

 こんな頻度で出入りするとは思ってもみなかった。


「新しい側室かぁ…

 イリッカ様ならありうるなぁ」

「ヴォルフ殿下、先日また寝込んでいらっしゃいましたしね。

 イリッカ様のお相手をするクラウディア様が、もう見てて気の毒で」

「……俺の母がすまないな」


「とりあえず、側室はこれ以上要りません! って言える建前が欲しいな」

「マティアス様にちゃんと恋人がいればいいのに」

「いや、子ども作りたくないんだから、恋人作ったら本末転倒っていうか速攻その子が側室候補じゃないか?」

「そうね、多分、マティアス様の繁殖能力を誇示するためにとりあえず貴族の娘なら何人でも召し上げちゃいそうよね」

「やだ、マティアスの後宮ができちゃう……」

「逆に子どもがいてもイリッカ様がマティアス様推しを諦める方法はないかしら……」

「ヴォルフ様に子どもがいない限り無理だろ」

「あっ、マティアス様は性病という設定にするのはどう? 立候補者が減るわ!」


 アーネストとエルザの雑な盛り上がり方に眉間を押さえていると、リリアが心配そうに声をかけてくれた。


「殿下、どうされました?」

「いや……なんか話題に居た堪れなく……」

「……身分の高い方は下半身の管理が大変ですね」

「………リリア嬢、デリカシー」

「あ、はい、すみません」


 二人の軽い応酬に、アーネストが意外そうな顔でリリアを見る。


「リリア様、意外に面白い人だね?」

「ありがとうございます」


 考えるようにしていたエルザが、言いにくそうに呟いた。


「こんなこと言うのアレですけど……子ども作れない女性がマティアス様の側室になってくれればいいのに」

「……わたくし、子ども作れなくなりましょうか?」

「え?」

「は?」


「西国の堕胎具で胎を荒らせば妊娠できなくなるそうなので、それで」


「あほか!!」


 マティアスの怒声が部屋を揺らした。



「……殿下」


 静まり返った部屋に、カロリーナの落ち着いた声。


「あまり大きなお声を出されませんよう。

 リリア様が怯えてしまいます」


 はっとなってリリアを見るとうっすらと目に涙が溜まっている。


「リリア様も、そんなことを仰らないでください。殿下が悲しみます」

「はい、あの」


「……リリア嬢。そういうのは無しだ。

 どちらにしても俺は貴女のような子どもを恋人にはしない。―――怒鳴って悪かった」


「……すみません」


「それだわ」

「どうしたエルザ」


「マティアス様がリリア様にぞっこんになれば良いのよ。だから他の女が来ても見向きもしないし、でもリリア様が成長なさるのを待ってるから子どもも作らないの!」

「な」

「これなら、側室どころか、正妃として誰かが推薦されても、愛するリリア様を正妃に上げたい! ってゴネられるわ!」

「あー……十六くらいまで?

 それならあと二年は逃げられるか」


「……ちょっと待て」


「マティアス、案外悪くないかもしれないぞ?

 正妃にあげなくても、二年あればヴォルフ様も御子に恵まれるかもしれないし」

「待ってくれ」

「待ってもいいよ、でも他に案があるのか?

 やるか、イリッカ様の用意する、おそらく百戦錬磨のお姉様と渡り合うかだ」



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