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第一話

 ルシアン・ウィルは半年前の自分を引っ叩いてやりたい衝動に駆られていた。


「てわけで、パーティーから抜けてほしいの」


 シャルロット・ガーフィールドは、ニコリと微笑みながら言う。


「……シャル、それは俺に家庭に入ってくれってことか? 主夫になれってことか?」

「はあ?」


 笑顔のまま低い声で威圧された。すぐさま視線をそらし、努めて冷静な対応を心掛ける。


 シャルロットは美人冒険者パーティー<灼剣猟団>のリーダーだ。メンバー全員が見目麗しい女性で構成されたパーティーで、時々、男が助っ人で入ったりする。


 ルシアンは半年前にシャルロットと酒場で意気投合し、その流れのままパーティーに誘われた。一回こっきりの助っ人だと思っていたのだが、正式にパーティーメンバーとして迎え入れられ、今に至る。


 ルシアンは今年で齢二十。婚約者以外とは同衾しないことを旨とする敬虔なミリス教徒(=童貞)な自分にも、とうとうモテ期が来たのだと思っていた。

 よって、パーティーから追い出される意味がわからない。


「どうしちまったんだよ、シャル。お前、なんか変なもんでも食ったのか?」

「だからさ、あんたはもういらないってこと」


 長い金色の髪を指でクルクルいじっていた。既にルシアンから興味など無いかのように肘をつきながら、そっぽを向いている。


「ちょっと待ってくれ。いらないとかいきなり言われても……」

「てかさ、あんた、無神者じゃん。いい加減、足手まといって気づいてほしいんだよね?」

「いや、俺が天慶(スキル)使えないって言ってあるじゃん」


 ルシアンが天慶(スキル)を使えないことはパーティーに所属する前に伝えてあることだ。それでもシャルロットが「剣は使えるんだから行けるんじゃない?」と言ってくれた。


 それが嬉しかった。


 ルシアンはシャルロットが求めるままに我流の剣術を教えた。修行の末、ルシアンが十年以上かけて身に着けた技術を、シャルロットは半年でマスターしたわけだ。さすがに、その才能の差がやるせなかったが、それでも、仲間のため、いや、将来の妻のために惜しみなく全て伝えた。


 だから、とは考えたくない。

 シャルロットがルシアンから学ぶ技術は、もう無い。


 だから、用済みになったとは考えたくなかった。


「……他のみんなもクビには賛成してるのか?」

「満場一致」


 泣きそうになった。


「明日から来なくていいから」


 このままだと騙され利用されたことを受け入れざるを得なくなる。

 嘘でもいい。ポジティブに考えよう。


「そっか、いつのまにか、俺はパーティークラッシャーになってたのか……」


 パーティークラッシャーとは、男だけのパーティーを破壊する女冒険者のことだ。主に恋愛面のゴタゴタでパーティーが解散になる。


「え? どうしてあんたがパーティークラ……」


 ビシッと手で制し「いいんだ!」と叫ぶ。真実など知りたくない。


「俺がいることでパーティー内がギスったりモメるんなら、しかたがない。モテ期ってのも罪なもんだぜ……」


 ルシアンはアンニュイなため息をついた。シャルロットは「なに言ってんだ、こいつ」と言いたげな視線を投げてきたが、自分の心を整えるためには優しい嘘も時には必要だ。


「リーダーとしてパーティーのことを考えるのは当然だ。いいよ、わかった。抜けるよ」

「……まあ、抜けてくれるならそれでいいけど」


 シャルロットは笑顔でうなずいてから心配そうな表情になった。


「いきなりパーティーを抜けるのも大変だと思うんだけど、大丈夫? 特にお金の面とか……」


 本気で心配してくれるということは、まだシャルロットとの結婚は大いにありうるのではないか? ここは精一杯かっこつけて婚約への布石にするしかない。


「いい儲け話があるんだけど聞く気ある?」

「俺がシャルの話を聞かなかったこと、あるかい?」


 キメ顔で言った。


「このツボなんだけど……」


 と言って、小型のツボをテーブルに置く。


「持ってると幸運を呼び寄せるツボなの。でね、そんな素敵なツボを大量生産することができるようになったのよ。今なら一つ、五万レド。高いと思う? それが高くないのよ……」


 ルシアンはキメ顔のまま固まった。


「でね、あんたにツボを十個買い取ってもらうでしょ? で、そのツボをあんたが六万レドで売る。一つ一万円の儲けになるの。更にすごいのは、ルシアンが新しい売り子を連れてくると、その売り子の売上の……」


 最近流行ってる新手の詐欺商法に誘われた。詐欺師マルティンがはじめたことからマルティンまがい商法と呼ぶらしい。


(そっかー、もう俺のこと仲間とか男じゃなくて、金づるだと思ってるんだ……)


 さすがに断わる以外の選択肢はない。


「……あとさ、私、妹が病気で困ってるの」


 この半年の間、妹の話など一度も聞いたことが無い。

 無いのだが、もしかしたら、本当にいる可能性だってある。


 結局、ツボは一つだけ買った。


反応次第で打ち切ります。

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