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こんなに空は青いのだから!

作者: 秋元智也

空はいつのも皆に平等だ。暑くても寒くても

雨に濡れてびしょぬれになっても。

2機の飛行船が山間の村の上空を飛んでいた

その1機に乗っているのが上野貴志という。

「いい天気で気持ちがいいですね~」

「油断するなよ。一つ間違えると墜落だからな」

先輩と共に通常ルートを旋回し帰路につく。

そこでいつも山の中腹で絵を描く女性を見か

けた、真っ白なワンピースに大きなキャンバス

上から眺める度に胸が躍った。

上野貴志、それが彼の名前だ。

彼は休みの日に上から見たあの山の中腹へと

足を向けたのである。

「結構登って来たなぁ~今日は居るかな?」

彼女に会いたいという思いで登ってきたの

である。かなり上に登ってきたせいか風が涼

しく感じられた。すると開けたところに大きな

キャンバスを広げて絵を描く女性が見えた。

近づくと話しかけてみる事にした。

「いい天気ですね。何をかいているのですか」

「え!あ~登山ですか?珍しいですねーここに

来るのは野生の猿くらいでしたから。ここか

ら見える景色は素敵ですよね。たまに飛行機

も飛んでいるのが見えるのですよ。あそこか

らの景色はどんなに美しいのでしょうね」

とても嬉しそうに話す彼女は輝いて見えた。

「そうですか?今度僕と一緒にその景色を

見に行きませんか?」

「え!いいのですか?」

彼女は、パッと笑顔を浮かべ嬉しそうに笑っ

た。彼女の名前は柿崎葵。このあたりに住ん

でいるらしい。家まで聞くのは失礼かと思い

その場は自己紹介をして、山を降りた。

たった、1時間話しただけだったが、葵さん

といる時間がとても充実して感じた。

次の休みの日も同じ山の上で約束をした。

そして、次の週末も。

先輩に許可を取り、葵さんを飛行機の後部

座席に載せる事も出来た。

「すごーい、こんな景色見た事ないわ〜

貴志さんって、すごいんですね〜」

「そんな事ないですよ。これくらいなら、

何度でも載せてあげられますよ」

葵さんと一緒にいる時間がとても早く感じ

られ、いつまででも一緒にいたいと思うよ

うになった。

そんなある日、彼女に腕いっぱいの花束を

持っていった。

「葵さん、僕と結婚してください」

いきなりのプロポーズ、彼女は顔を紅く染

めて、喜んだ。しかし、返事は…。

「ごめんなさい。貴志さんにはとってもよ

くしていただいて、嬉しいんです。でも、

一緒にはなれないの。ほかにいい人を探し

てください。私とはいつまででもいい友人

でいて欲しいんです。」

断られた事で、そのあとの事は頭に入って

こなかった。そのまま下山すると、もう

逢いに行く事を控えた。

「あんなにいつも嬉しそうにしてくれてた

のに…ダメだなぁ〜、もう逢いに行く勇気

がないや」

それからは仕事に専念し、気を紛らわせた。

それから数ヶ月がたった頃、雲行きが怪しく

なってきていた。アメリカとの戦争が本格化

しそうだと言うのだ。


政府の要請で飛行機のパイロットには全員

に零戦二十一型に騎乗する事となった。

片道切符の燃料しかなく、お国の為に敵を

確実に仕留めろというのだ。

「なんでだよ!それじゃ、死んでこいと言

ってるようなもんじゃねーかよ」

辞令が出て、もう二度と彼女には会えない

事を示唆していた。

飛び立つ日は、日に日に近づいていく。

後悔はありすぎて、何もできないまま前日

になると、朝早くに彼女に会いに行った。

このまま会えないのは辛すぎる。

せめて、一目だけでも会いたい。

いつもの場所に、いつものように彼女が

いた。

「もう来てくれないのかと思いました

また会えて嬉しいです」

微笑む彼女に貴志は駆け寄ると強く抱きし

めていた。

「今日が最後なのです。なのでお別れを

言いに来ました。」

悲しそうな瞳に陰がさす。

「どうして?私のせい?」

「違う、違うんだ。政府の命令で戦争に行

くんです。二度と帰ってくれない戦争です」

そういうと、貴志は葵を抱きしめるとキスを

した。きっと嫌がるだろうけど、それでも

最後だけでも、好きな気持ちを止められな

かった。すると、葵の腕が貴志の背中に回り

ギュッと握り返して来た。

草むらに横たわると、夢中でキスをした。

最後とばかりに、葵も返してくれた。

一度は振られたけれども、最後にいい思い出

が出来たと、その場を後にした。

残された葵はなんとも言えない悲しさを浮か

べていた。

戦争が始まり始めは一撃当てて、即離脱という

戦法で圧倒的に有利に運んでいたかに見えたが、

だんだんジリ貧になり、航空機の性能も米軍の

方が上回る様になる。

そうなると、撃墜される事が増えて、昨日まで

一緒に飯を食っていた仲間は明日には帰らぬ人

となっていた。

数ヶ月も続くと、疲れがみえ始めいつ死ぬのか

いつ終わりが来るのかと思う人が増えてきた。

そして新たな戦艦が日本に向かっているという

知らせを受けて、政府からの通達は特攻隊とし

て、爆弾を積み敵の戦艦を破壊しろと言うもの

だった。

わかりたくない指示だが、逆らうわけにもいかず、

今までながらえてきたのはその為だったという事

だったのである。最後の晩餐とばかりに味気ない

食事を済ませて、朝一に出発となった。

空がしらむ中、数機の機体が空を舞った。


もう帰って来ることのない大地を見つめながら大空

を舞った。

心残りは彼女の事だけだった。

敵の空母を発見しみんなが突撃する中上野貴志はや

ってはいけない事をやってしまった。

それは、機体を海へと自分で墜落させたのだった。

自分が生き残るために…。


戦争が終わりを告げ、日本は敗戦国となった。

捕虜は捕まり国に帰る事はできなかった。

しかし、希望を捨てず待つ事13年。

日本への帰国を許されたのだった。

         

         つづく。






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