異世界新種調査隊。中
時折聞こえる水滴の音が、静寂の薄葉紙を静かに濡らし、破っていく。
それは、我々の行く末を暗示するかのような、目に見えない程の静かな侵食に思えた。
……馬鹿馬鹿しい。だが、このように不快で、無駄な侵入思考に囚われてしまうだけの何かが、この坑道内にはあるのだろう。
私は、負の想像が連鎖する頭を振り払うと、震える手で次のページを捲った。
◇ ◇ ◇
『――神性歴2020年 四の月』
ゴブリン坑道にあるここに物資を集積し、セーフルームより強固なベースキャンプに改造した。
これで、我の調査は更に前進するであろう。調査に付き合ってくれている国家騎士の諸君の為にも、何としても成果を出さねばなるまい。
ここには間違いなく通常のゴブリンとは違う、何かが居る。
何故なら、見たこともない《エーテル(外部魔素)》と、《オド(体内生気)》の痕跡を見付けたからだ。
いよいよ事の真相に近付いている。我の研究に光明が差したと思ったその時、入り口の方から裂くような剣撃が鳴り響いた。
また、ただのホブ・ゴブリン共による襲撃かと思って目を向けると、そこには、にわかには信じ難い光景が繰り広げられていた。
なんと、並み居る屈強な国家騎士の諸君が、ホブ・ゴブリンごときに容易く蹴散らされ、甲冑と衣服を剥ぎ取られているではないか!
それだけではない。奴らは屈強な騎士諸君の尻を……!
……や、やめろ、来るなっ! まさか、まさかまさか!!
奴らは“ホブ・ゴブリン”などではなく、ホモゴブリ
◇ ◇ ◇
――この日付の手記は、ここで途切れている。
……一体、バカ教授の身に何が起こったというのか。皆目見当も付かないが、バカ教授が消息を絶った重要な手掛かりとなるに違いない。
同行した国家特級心理捜査官のアリス女史も間違いないと頷いている。実に頼り甲斐のある頷きだ。
次のページでこの手記は最後となるが、非常に高度で知的な情報の為、文字の組み合わせ自体が視覚を通して発動する魔術となっている可能性もある。
このレポートに目を通す者は、その点を考慮し、細心の注意を払って貰いたい。