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詩の目次

作者: 冬野三月

 深い闇の中、遠藤は微かな光に手を伸ばした。触れると今にも消えてしまいそうだが、確かにわずかな感触があった。そして暖かかった。それはぬるま湯にも満たないぬくもりだったが、遠藤にはその暖かさが、寒さの中、自分を包み込む陽の光そのものに感じられた。


 しかし唐突に光は消えていく。光は十数秒ほどかけて消えたのだが、遠藤には一瞬にして自分の大切なものが目に見えない何者かに奪われたかのように感じられた。欠落。自分の中のなにかが、もう取り戻せない場所に行ってしまった。消失してしまった。


 遠藤の瞳からも光が消えていく。呆然としてなにか言いたそうなその口は、半開きになったままだ。唇は微かに震えている。消えてしまった暖かな光を求めて、遠藤の瞳が暗闇を彷徨さまよう。


 けれど求めるものはどこにもない。光はもう、世界のどこにも存在しなかった。遠藤はそれを認めなければいけなかったが、あまりにも尊いものを、あまりにも簡単に、そして永遠に失ったことに、遠藤の感情は逆らおうとした。しかし逆らったところで、何が変わるわけもなかった。遠藤の視線はいつまでも宙を彷徨うだけだ。


 呆けている遠藤に、彼を囲い込む闇が語りかけてきた。おまえはもうどこにも行けないんだよ、と。どこにも行く当てはないんだろう、と。このままこの深い闇にうずもれて自分と溶け合おう、と語りかけてきた。


 遠藤は何も応えない。言葉が出てこなかった。遠藤にはもはや何もなかった。自分の中の闇だけが感じられた。


 光はどこだ? 遠藤は誰ともいわず問いかける。光は消えてしまった。もうどこにもないのだ。深い闇だけが遠藤を包んでいた。自身がゆるやかに闇に溶けていくのを、遠藤は遠くに感じた。


 光はどこだ。光はどこだ。遠藤は力の限り叫んだが、実際にはしわがれたような微かな音が喉から発せられたに過ぎない。その声は誰にも届かなかった。やがて遠藤自身にも聞こえなくなった。闇だけがその場に残った。

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