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6、監査人、土魔導士の妹と出会う。





 今日は水曜日。決行の日だ。



 安宿のベッドの上で監査人キエナは溜息をついた。



 木窓をあけ、外を見ると、外はすっかり暗くなっていた。雲の合間から照らす月明かりが、通りを優しく照らす。



 キエナはもう一度溜息をつく。



 結局オルテガは詳しい話は、教えてくれなかった。



 まぁ見てろ、と言ったままオルテガはどこかに消えたのだ。



 何が、まぁ見てろよ、よ。あいつ……



 あいつが死ねば私も死ぬ。



 なのに、行き先さえ告げないなんて……、すべてが済めば使いをやる……とは言ってたけど……



 土魔法士のくせにえらそうに。



 失敗すれば、この私の命も無くなるというのに……



 すると、その時であった。



 コンコン。



 安宿の扉がノックされた。



 早速使いが来たのだろうか? とキエナは思ったが、そうではなかった。



「お兄様? お兄様いらっしゃるのでしょう? わたくしです。セルフィです。このドアを開けてくださいませ」



 お兄様? セルフィ?



 誰と間違えているのだろう? と思ったが、その瞬間キエナの中にアークホルン家の家系図が思い浮かぶ。



 アークホルン当主、ミハイル=アークホルン。

 妻、ジンジャー=アークホルン。

 その長男、ヘンリー=アークホルン。

 長女、ライサ=アークホルン。


 そして次女、セルフィ=アークホルン。



 セルフィ=アークホルンか。



 キエナは軽く髪を手櫛で解くと、立ち上がり、ドアを開けた。



 すると、両手と背中いっぱいに荷物を抱えたセルフィと目が合った。



 セルフィの視線は兄オルテガを探す。



「お兄様は?」



「今、外に出ていらっしゃる最中です。というより、どうしてここがオルテガ様の泊まっている場所だと分かったのですか?」



「アークホルン家の諜報能力を舐めないでほしくってよ。まぁとにかく、中で待たせてもらうわ」



 そう言ってセルフィはズケズケと部屋の中に入ってゆき、さきほどまでキエナが腰を下ろしていたベッドの上にドカッと座った。そして、こちらを見て言った。



「そういえば、あなたは誰なのかしら?」



「私はオルテガ様の監査人キエナでございます」



「ああ、監査人の方なのね。監査人付き、ということはあの噂は本当だったのかしら?」



「噂?」



「ええ、お兄様がもうすぐ斬首される、という噂です」


 ……


 思わずキエナは言葉を無くす。この場合どういえばいいのか、と思ってしまったからだ。


 見たところ、あのオルテガの言動と違い、この妹は友好的な存在に見えた。



「それで、あなたがそれ(斬首)をお止めにこられたのですかセルフィ様」


「別にそんな目的があってここに来たのではありませんわ」


「では、ここには実の兄の斬首を見物するために来た、とおっしゃるのですか?」


「え?」と大きく目を見開いたセルフィは、口に手をあて上品に笑った。


「ふふふふ。あなたはお兄様のことを何も知らないのね」



 ――?


「どういう意味でしょうか?」とキエナは思わず眉をひそませた。


「そのままの意味ですよ、監査人殿。あなたはお兄様のことを知らない。だから、ひょっとすると自分がお兄様の首を斬るんじゃ……なんて馬鹿なことも考えてる」


 ……馬鹿なこと?


「お言葉ですが」とキエナは反論する。「私は数多くの領主の監査人になりました。無事任期をまっとうする領主もいれば、私に首を斬られる領主も数多くいました。今までの確率から考えてもオルテガ様が斬首されないなんてことは――」



「確率なんて無意味ですわ」とセルフィは笑う。「だって、あのお兄様なのですよ。悪魔の頭脳と呼ばれ、ミッドランド中を畏怖させている我父ミハイル=アークホルンが、唯一その才能を恐れる人物。

 それこそが、オルテガお兄様」



 キエナは目を大きく見開きセルフィの顔を見た。


 あの男が、それほどの男?



「だからわたくしには分かるのです」とセルフィは続けた。「たしかにボォーっとして人を信頼し過ぎる欠点をお兄様はお持ちですが、けっして斬首なんていう目にはあわないだろう、とね。

 わたくしは今まで誰よりもお兄様を見てきました。だから分かるのです。あのお兄様の手にかかれば、天地全てがお兄様の思うがままになる、と」






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 雲の合間から顔をのぞかせていた月明かりが、急に陰り、あたりが暗くなってきた。



 それはまさしく絶好の暗さだった。



 すべてが行われるには絶好の。



 黒髪をかきあげたオルテガは一番大きな屋敷に狙いを定める。



 そして「さてと、いきますか」と小さくつぶやいた。


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