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11/21

11、土魔導士、ダルダ団のお頭に成りすます。




「よく来たな、逢いたかったぞ!」とバクラム(オルテガ)はトルトゥーガで一番大きな建物である“領主の館”にて二人を出迎える。


 そして、両手を広げたまま視線は自分の妹……セルフィに釘付けになっていた。



 オルテガは怒っていた。


 なにしに来たんだ本当に! と叫びたかった。


 今すぐにでもセルフィをアークホルン領に送り返してやりたかった。


 だが当のセルフィは、この強面の男たちに取り囲まれる状況を楽しんでいるようだった。キエナとセルフィの二人が深くかぶっていたローブを脱ぐと、バクラムを取り囲む手下たちが色めきだつ。


「お、これがボスの新たな愛人ですかい?」

「どうしたんですボス! 急にセンスが……」



 キエナは目鼻立ちが人形のようにバランスがとれ、銀色のストレートの艶のある髪が背中にまで伸びた美女で、通りを歩く誰もが振り向いてしまう魅力を放っていた。


 もう一人のセルフィは、三つ編みにした髪をターバンのようにひとまとめにし、猫のように大きな目と薄い唇は皆の目を釘付けにした。



 オルテガと言えば、まるで飢えた獣の中に自分の妹を放り込んでしまったような気分であった。


 まだキエナはいい。キエナは自分で自分の身を守ることができるだろうから。


 だが、セルフィなんて、ほとんど子犬のようなものだ。何をされたとしてもほとんど抵抗できないままやられてしまうだろう。あいつは、こんな荒くれもの共の中に来るべきではなかったのだ。



 セルフィはゆったりした足取りでバクラム(オルテガ)に近づくと、その耳元でささやいた。


「そんなに心配なさらなくても大丈夫ですわよ、お兄様」


 そして、微笑を崩さず、セルフィはバクラムに背を向けた。




 苦虫をかみつぶしたような顔をしたバクラム(オルテガ)は、お前が思うほどこの世の中は甘いもんじゃないぞ、と言いたかった。



「おい! 二人の泊まる宿を用意しとけ!」とバクラムは手下に向かって声をはりあげる。「必ず二人で一部屋だ! バラバラの部屋に泊らせるんじゃないぞ! いいな?」



 キエナはすぐにオルテガの意図を察した。


 セルフィを守れ。


 これはキエナにそう告げているのだ。



「そうねセルフィさん。私たち仲良しだから同じ部屋でよかったわね」とキエナは微笑み、セルフィの肩に手を乗せるが、セルフィは明らかに不満気であった。


 だからセルフィは不満を示す目つきをバクラム(オルテガ)に向けるが、バクラム(オルテガ)はそれを黙殺する。


 うるさい! 黙って従え! というのがオルテガの本音に近かった。自身の首がかかっているのに、旅行気分でこの地に遊びに来た妹にかき乱されたくなかったからだ。



「どうぞこっちでげす」と手下が案内しようとするも、セルフィはしばらくその場を動かず、バクラム(オルテガ)を睨み続けた。


「お嬢さん?」と手下が再度尋ねると「いいですわ。今はキエナさんと一緒でも我慢します。今は!」と捨て台詞のようなものを残し、手下とキエナと共にこの場を去っていった。






 すると、しばらくしてから手下の一人がそっと言った。


「今度は可愛いけど、ずいぶん気の強そうなのを選びましたね、ボス」



「ん? まぁ、そうだな。……でもまぁそういうところが可愛いんだよ。お前たちにゃわかんねーだろうけど」



「はぁ」と手下が気のない返事をした。やはりボスの趣味は理解しがたい、と言った顔をしていた。



「いいか? 分かってるだろうけど、俺の女に近づくなよ。もしも、あんなことやこんなことをした日にゃ」



「わかってますってボス。なぁ!」と手下の一人が背後の皆に向かって言うと、手下たちは一斉にうなずいた。




「そうそう、そういえばボス……あの子たちが来る前に何か言ってませんでしたか?」と手下の一人が言った。皆、そうだ、そうだ、という声をあげこちらを見た。



 だからバクラム(オルテガ)は答えた。



「おう。もちろん言ったぞ。さっきの女たちの登場で中断させられちまったがな。俺たちはこんなことをやってる場合じゃねーと言ったんだ」



「ボス、どういう意味でさぁ、気になりますよ」

「そうですよボス! 教えてくださいよ」



 バクラム(オルテガ)は、声の調子を整えてから大きな声で言った。



「いいかテメェら驚くんじゃねーぞ。俺が昨日()ったオルテガの情報によると、王政は手口を変えたらしいんだ。それもとんでもなく汚ねぇことを考え付きやがった。反吐がでそうになるほど汚ねぇ作戦だ。その名も“蛇作戦”」



 手下たちは顔を見合わせる。


「ボス、なんですかい? その蛇作戦ってのは」



「あぁん? だから王政はこの地域を支配するために禁断の手を使ったんだよ。このリーズ領にもう一つある町【アルカーキ】の盗賊団のトップと手を組んだのさ」



「え~!? ブルーの野郎と王政が手を組んだんですかい?」



「そうだ。そんで王家の軍隊とブルーの軍隊の両軍で、このトルトゥーガを狙う腹づもりらしい」



「やべーじゃねーですか!」



「そうだ! だからなんとしても王家の軍隊がここに到着する前に各個撃破しなきゃなんねぇ」



「カッコゲキハ? なんですかい? その言葉」



「え~……。それぞれがくっついて大きな軍隊になる前に、一個一個ぶっ潰すって意味だ。最近戦術の本を読んでるからついそんな専門用語がでちまったかな? あっはっはっは。とにかくだ。俺たちは王家の軍隊がこの地に到着する前になんとしてもブルーの軍隊を壊滅させなきゃならん。だろ!?」



「へい!」



「それでだ。俺は妙案を思いついた」



「すげーボス!」

「そりゃあ、どんな作戦なんですかい?」



「いひひひ。すでに作戦名はつけてある。名付けて“トモダチ作戦”だ」


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