1、土魔導士、冒険者パーティーから追放される。
「え?」
土魔導士オルテガは、あまりに唐突な仲間の発言に素っ頓狂な声が口から漏れた。
「今なんて?」
「聞こえなかったのか? オルテガ。だから……、君を追放することに決定した、と言ったんだよ」
ここは旅の宿屋の一室。
オルテガは身支度を済ませ、重々しいリュックをしょい込んだところだった。
オルテガの目の前にはリーダー格の戦士コラゾンが立っていた。
更にその後ろには僧侶マリリンと剣士ストローが同じように腕を組み椅子に腰をかけている。
その三人に共通しているのは冷たい目つきだった。
その目はまるで、氷のように青く光り、一切の言い分を寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。
「いやいや、待って。なんでだよ。今までだってちゃんとやってきたろ?」とオルテガは訴えるも、三人の目つきは変わらない。むしろ、僧侶マリリンが激しく毒ずく。
「はぁ? あんたのちゃんとって一体なに?」
「え? だから俺の土魔法で皆をサポートしてきた。それに、俺は皆の頭脳として、パーティーの統率に努めてきたはずだ」
マリリンが鼻を鳴らす。
「あんたの土魔法ってあのゴーレムを沢山だすアレよね?」
「そうだ」
「たしかに、私たちがレベルが低い時はあんな弱魔法でも逃げる時にはそこそこ頼りになったけど、ここ半年ほど全くあれのお世話になってないのよね」
「いや、その、だって」
「そう私たちは十分に強くなったし、言いたくないけど、土魔法って本当に弱いじゃん」
「弱くない! 最強だ!」
「はぁ……またそれ? 土魔導士なんて最弱職もいいところじゃん。だから、ほとんどの冒険者パーティーで見かけないのよ。つまりこの追放は正当だ、というわけ。それに、あんたのゴーレムは強化できないんでしょう? だからずっと同じ強さのまんまよね? 一般の成人男性よりもほんの少し強いゴーレムなんて何体あってもまるで意味ないのよ。それがどうして分からないの?」
「だけど俺の頭脳は役に立っているはずだ」
「ああ、あんたの作戦だっけ? 戦いの際にいっつもあんたが何故か最後尾に配置されている作戦」
「それは戦術上の理由があってのことだ。司令塔である俺がやられたら、誰が指令を出すんだ。こういう役割の人間は最も安全な位置に配置されると決まっているんだ。どの戦術書にもそう記されている!」
「何が司令塔よ! 何が作戦よ! 我が身大事の保身作戦じゃない! それ!」
「いや……そのだからさ……、それが戦術の基本なんだって……。ストローからも何か言ってくれよ! 俺はパーティーの役に立ってるってさ」
一人だけ終始無言の剣士ストローは冷たい目つきをこちらに向けるだけで、やはり何も言わなかった。
取りつく島がない、と思いオルテガは戦士コラゾンに情けない目つきを向けるも、
「すでに決定したことだ」とコラゾンは言い放つ。
「なんだよ畜生……じゃあとりあえず今まで俺が持っていた物を売って、まずは当面の生活費を工面するしか……」
「ダメだ」とコラゾンは言った。「あれはパーティーのものであって、お前のものではない」
「お宝を手に入れたのは俺だし。実際、俺の土魔法で探り当てたお宝も多い!」
「ダメだ。アレはパーティーの所有物だ」とコラゾンは譲らない。
「なんだよ! 契約期間はまだ続いていたはずだ!」とオルテガは叫んだ。「ミッドランド法にのっとり最後まで戦ってもいいんだぜ?」
「冒険者が法律で戦うというのか?」
「俺はそれでもかまわない」
「ふん」とコラゾンは鼻で笑う。「呆れるしかないな。流石は“アークホルンの落とし子”と言ったところか? 落とし子の癖に貴族の風習が抜けきってないと見える」
オルテガの目つきが変わる。
それはオルテガにとっての禁句だった。
落とし子というのは、つまり私生児である。
ミッドランド法によれば私生児の身分は母親の身分に準拠する。オルテガの父は公爵という高い身分であるにも関わらず、オルテガはその召使いの子であった為に、ミッドランド国での身分は召使と同列のものであった。
オルテガは怒りの形相でコラゾンの顔に自分の顔面を近づける。ほとんど、鼻と鼻がくっつきそうになるぐらい。
「やめなよ二人とも」と僧侶マリリンが二人を引き離す。そして、マリリンはオルテガの顔面を指さす。
「とにかく、あんたの追放はもう決まったのよ。分かったわね?」
オルテガは怒りで顔をそむける。
「契約期間であることを理由に裁判を起こすというのなら、こいつはご破算ってことでいいかな?」とコラゾンは笑い、テーブルの上に置いてあった一枚の紙をつまみあげた。
「なんだそれ。なんだその紙」
「ふふふ。ぼくらだって、少しは悪かったという気持ちがある、ということさ。契約期間内による不当な契約解除の裁判を取り下げる、というのであればこいつを譲渡してもいいと言っているんだ。なにしろこいつは冒険者には不要なものだしね」
「だから、なんだよそれ」
コラゾンはもったいぶったようにタメをつくると、ゆっくりとその言葉を吐き出した。
「あー、これかい? 土地だよ。領地さ。君に領地を譲渡しようと言ってるんだ。まぁ退職金代わりってところかな? もちろん君が今まで獲得した品や、今身につけている装備、道具すべて放棄してもらうがね。
君次第だけど、どうする? 落とし子のオルテガ君」
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