違和感
今日も、良平と一緒に帰れなかった。
『生徒会の仕事あるから』
それだけ言って、去って行こうとしていた。
『待っている』
私が言うと
『いい、遅くなるから。親に心配かけたくないだろ?』
そっけなく言ってから、行ってしまった。
何よ、何よ!!
人がせっかく誘っているのにぃぃぃ!!
そっけないのにも程があるっての!!
怒りを抱えたまま、家路につく。
だけど、家のポストを覗いた途端に、私の機嫌は激変した。
文彦さんからのエアメール!!
飛び上がるくらい嬉しくて、その場で開封したい気持ちを抑えてから家の中に入る。
「おかえり」
そう言って私を出迎えてくれたのは、私のお母さんである澤部美樹。
専業主婦。
性格は至って…のんびり屋さん?
「あらあら、ご機嫌ねぇ。文彦さんからのエアメールでも来たのかしら」
その通りです。
「うん、文彦さん、マメだよね。この前もらったの2週間くらい前だったのに」
と、言いながらエアメールの封筒をお母さんに見せる。
お母さんは、呆れながら
「早く見たいのは分かるけど、着替えてからにしなさいな」
夕食の準備をしているのは、包丁の音で分かる。
「はぁい」
私は返事をしてから、2階にある自室に向かった。
はやる気持ちを抑えて、制服から私服に着替えて、机の上にある封筒を丁寧に開封した。
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愛する瑛梨香へ
元気にしているかい?
ってこの前も聞いたよね?
僕は元気に勉学に励んでいるよ。
こっちでも勉強は、これからの自分の基礎になるからためになるよ。
返事ありがとう。
瑛梨香の手紙を見ていると元気が出てくるよ。
良平とも仲良くしてくれているみたいで安心したよ。
二人とも大切な家族だからね。
大学進学の件、僕はあまり薦めたくないな。
君には、大野家の…僕の奥さんとして家を守ってほしい。
瑛梨香の気持ちを優先させたいけどね。
僕としては、高校を卒業したら花嫁修業に入ってほしい。
だけど、良平には、あまり近づかないでほしいんだ。
兄から見て、弟は何か内に秘めいているものがある。
悪い意味でだけど。
恥ずかしい話だけど、弟が何を考えているのか分らない。
良平は、僕にあまり好意をもっていないからね。
いつ、瑛梨香に牙を剥くか心配でならない。
だから、あまり良平には近づかないでほしい。
これは、僕からのお願いだ。
不愉快な思いをさせたね。
ごめんよ。
でも、瑛梨香の為を思って、僕も心を鬼にして言っているんだ。
誰が、実の弟を、そんな風に言うもんか。
愛する君の為に言っているんだから、あまり良平には近づかないで。
じゃあ、またね。
返事待っているよ
大野文彦
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読みながら違和感を覚えたのはなぜだろう?
大学進学、文彦さんなら分かってくれると思っていた。
良平に近づくなって、どういう事?
良平は、文彦さんが言うほど…
手紙に違和感を覚えながら、私は返事の為に机につく。
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文彦さんへ
早速のお返事ありがとうございます。
私も、学校生活を楽しく過ごしています。
もうすぐ文化祭なんですよ。
私のクラスの出し物は、『メイド喫茶』なんですよ。
そのメイド服が、とても可愛くて…
写真を撮ってから送りますね。
それと、良平の事なんですけど、
良平は、文彦さんが思っているような人間ではないと思います。
無愛想だけど、優しい人です。
年下の私が言うのは、おこがましいですが
もっと、良平の事を信じてあげてくださいね。
たった二人のご兄弟なんですから。
それでは…
澤部瑛梨香
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書いた後、溜息をつく。
どうして、文彦さんは、良平の事を、あんな風に言うなんて意外だった。
とても、仲睦まじい兄弟だから。
どうしても、信じられなかった。
文彦さんが言う通り、確かに良平は何かを秘めている気がする。
それが何かは、私には分からない。
それに大学進学を止めた方がいい、だなんて…
私は、同じお医者さんになって、文彦さんを助けたいと思っているだけ。
それを否定された気がする。
家庭に入って、奥さんをするのは悪くないと思っている。
でも、それは私の望んでいる事じゃない。
私の気持ち…分かってほしい。
もう一度エアメールを見つめる。
何だろう、胸がもやもやする。
このもやもやの正体は分からない。
ただ、分かっているのは…
このエアメールには、何か違和感があるって事。
それが何かはわからない。
胸に引っ掛かった棘のように、私に言いようもない不安を覚えさせる。
どうして…文彦さんは…