生徒会の仕事―良平サイド―
今日も書類が山積みになった机の上に乗っかっている。
俺は、溜息をついてから
「どういう事だよ?」
そう言って、机の横で、ニッコリと笑っている副会長―渡辺宗吾を睨む。
俺の数少ない親友である宗吾は、笑みを崩さすに
「いやね、文化祭の追加予算の要望が、ガンガンやってきてね」
そう答える。
「【予算内に収めろ】って通達していたはずだが?」
「まぁ、世の中、上手く回らないものですよ、会長」
宗吾の笑みは崩れない。
「とにかく、要望全部飲み込んでいたら、予算がパンクしちまう。要望書を読んでから、ムダなものに関しては予算追加出来ない、とでも通達しとけ。この要望書出しやがった連中に」
「了解」
そう答えてから、宗吾は自分の席へ着く。
奴の机にも書類が積み上がっている。
一応、俺に回す書類は、宗吾が選りすぐっているようだ。
それにしても、この量は何だよ?
まったく、人の苦労も知らないで…
「そういや、今日も仲良くご登校だったな?」
宗吾の言葉に、眉を顰める。
コイツ、地雷踏むのを楽しんでやがる。
「別に、毎日、向こうからやってくるだけだよ」
書類を決裁しながら、俺が答える。
おいおい、この追加予算の金額、度が過ぎているぞ…
この前も予算の追加を認めたはずだ。
お化け屋敷…リアルを求めるのは分かるけど、予算は無限じゃない。
こんなの認められるか!
そう言って、【不可】の判を押す。
「またまたぁ、素直じゃないね。良平は」
宗吾の言葉に、カチンときた。
「別に…それに、瑛梨香は…アイツの婚約者だし」
俺の中に諦めモードが漂っている。
「あの事、知らないんでしょ?彼女」
「言ってどうする?傷つけるだけだろ?知らない方が幸せって事もある」
そう…
知らない方が幸せって事もあるんだ。
無邪気に笑う瑛梨香の顔が脳裏によぎる。
「俺は、そうとは思わないけどね…」
宗吾の言うのも、納得出来る。
だが、俺には出来ない。
絶望に呑まれる瑛梨香の顔を見たくない。
いつかは、知られるのだから。
恐らく、結婚した後に…
そう思うと、苦しい。
瑛梨香の悲しむ姿を考えるだけで、胸が苦しい。
今、言った方が瑛梨香の為になるかもしれないのに…
俺は迷っているんだ。
今言えば、俺が瑛梨香を自分に振り向かせようとしている、と言われる。
たぶん、アイツ等は口先だけは上手いからな。
俺に振り向かせたい。
その気持ちがないのは、嘘ではない。
でも、それ以上に瑛梨香が幸せになってほしいという気持ちが大きい。
出来るならば、俺がそうしてやりたい…
だけど、それは叶わない。
分かっているんだ。
頭の中で迷いながらも、書類を決裁していく。
だから、なんでこんなに予算追加があるんだよ?
ほとんどの数を【不可】のハンコを押してから
「終わったぞ」
そうやって【可】とハンコを押した書類数枚を宗吾に渡し
「会計の菊池に渡しといてくれ」
そう言って、【不可】と押した書類は
「こいつは、出した連中に返しといてくれ」
と、言い自分の席に戻る。
軽く背伸びをすると、体中から痛みが走る。
…ってぇ
痛みの原因を思い出す。
俺にとっては、こんな痛み日常茶飯事。
もう慣れた。
だが…瑛梨香…お前をどうしたら…守れる?