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エピローグ『幸せな家庭』

「こらー純!!」

私の声が響き渡る。

視線の先には、小さな子供がいる。

「ちゅうしゃこわいもん!!」

純は、逃げようとする。

あれから7年が経とうとしている。

私は、良平と同じ大学の医学部に合格した。

必死に、勉強した甲斐があったものだ。

何とか私は内科医として医師免許を取った…

ここまではいいよね…うん。

でも、目の前にいるのは5歳の男の子。

私は、在学中に妊娠した。

父親は、当然良平な訳で…

すったもんだの末、私は良平と結婚して【大野瑛梨香】になった。

出来るなら、大学を卒業してから…籍を入れるつもりだっただけど…

順番が、狂ってしまいました。

仕方ないか…

当然なんだけど、私は出産の為に休学をしてしまい、良平とは1年遅れで大学を卒業した。

大学の外科医として、活躍していた良平。

私も内科医として、頑張っていました。

それなりに経験を積んだんだけど、1年前…

急に良平は、医師のいない離島に行くと言い出した。

当然、若手のホープである良平を止める周囲がいて、私にも説得してくれと頭を下げられた。

私は、黙って良平について行く事にした。

周囲の止める声を無視して、私達は医師のいない離島に赴任した。

老人が多い、この島は、私達を歓迎した。

そして、1年経とうとしているが…

「どっこいしょ…」

オバサン臭い言葉を言いながら私は立ち上がる。

「ママ、オバサンくさい」

純の言葉に、ムッときたが、私はお腹をさすり

「君のお兄ちゃんは、泣き虫でヘタレなんだぞー」

と言う。

今、私のお腹には第二子がいる。

「わぁ!!ひどいよ!!ママ!!」

必死な様子で純が言うと

「だって、注射怖いんでしょ?お兄ちゃんになるのに」

私の言葉に純は

「…こわくないもん」

小さく呟いた。

「じゃ、おいで」

そう言ってから、看護婦の水島さんに

「すみません。用意をお願いします」

と言う。

40代半ばの水島さんは、ニコっと笑い

「分りました」

と、答えて注射の用意をする。

恐る恐る、やってくる純。

「怖くないからねぇ」

水島さんの言葉も届かない。

今にも泣きそうだ。

水島さんから受け取ったワクチン注射を手に取り

「はい、おいで」

と、純に言う。

泣きそうな顔の純が、恐る恐るやってくる。

「はい、ジッとしていてね」

水島さんが、純を押さえる。

純は、目をギュウッと瞑ってから涙を堪える。

針が刺さった瞬間、涙が零れた。

「はい、終わり」

そう言ってから

「純、偉かったね」

そう言って頭を撫でる。

純は、お腹の赤ちゃんに向かって

「ほら、おにいちゃんは、つよいんだぞー」

と言っている。

微笑ましい。


「今日は、良平先生が帰ってくる日ですよね?」

水島さんの言葉に

「ええ…本土での発表は上手くいったらしいです」

私は、笑顔で答える。

「ママ!!」

純から呼ばれ

「何?」

と答える。

「あそびにいっていい?」

目を輝かせている。

「だめよ、注射したばかりなんだから。少しの間、大人しくしておきなさい」

当たり前だ。

純は、不機嫌になり(こんな顔は良平にそっくりだなぁ)

「でもーまこととあそぶって、やくそくしているんだよ」

口を尖らせている。

「大丈夫よ、誠君も、もうすぐ注射しにくるから」

そう言った途端、診療所のドアが開き、子供の泣き声が聞こえてくる。

どうやら、誠君が来たようだ。

「ほら、誠君も注射なんだから、二人で大人しくしておきなさい」

そう言った後、誠君がお母さんと共に診察室に入ってくる。

純を見て、誠君は泣くのを止める。

男の意地なんだろうか

「こわくないもん!!」

と、言っている。

今まで泣いていたのにね…

私は、誠君にも注射を施してから、よっこいしょ…と立つ。

が…

腹部に痛みが走る!!

これは…5年前に経験したぞ…

「瑛梨香先生!!」

水島さんが慌てている。

私は、痛みに堪えながら

「福島さん…お願いします…」

力無い声で言う。

福島さんは、島で唯一の産婆さんである。

「分りました」

そう言ってから、水島さんは急いで診療所を後にする。

いったーーーい!!!

激痛に堪えながらいると、

「ママ、だいじょうぶ?」

心配そうに純が顔を覗き込む。

激痛に堪えながら、純の頭を撫でて

「大丈夫よ、純、もうすぐお兄ちゃんになるからね」

そう笑顔で…たぶん笑顔で答えた…と思う。

「瑛梨香!!」

そこに勢いよく入ってきたのは良平。

タイミングよすぎ!!

「さっき、水島さんに聞いて…」

そう言ってから私の腰を撫でる。

「大丈夫か?」

心配そうに言う良平に

「…それ、純の時も言った」

余裕の笑みを見せて…るつもりの私。

「バカ!そんな余裕見せるな!」

良平は、腰をさすりながら

「あと少しがんばれよ…」

そう言った。


「おぎゃあぁぁ!!」

その声が響き渡る。

いつの間にやら、待合室にはたくさんの人が集まってきていた…らしい。

どこからどうやって伝わったのか…

「やったぁ!!」

自分の事のように喜んでいる人もいる。

温かい人情に溢れた島…

その一つ一つに感謝する。

「元気な女の子ですよ」

福島さんが産まれたばかりの我が子を私の目の前に。

元気に産声を上げている、私達の娘。

「…女の子か」

上が男の子だったから、今度は女の子がいいなって思っていたけど。

涙がこみ上げてくる。

それ以上に

「よかった…」

男泣きしている良平がいる。

…ねぇ、純の時もそうやって泣いていたよね。

良平って、結構涙もろい。

こりゃあ、この子が大きくなってお嫁に行く時、相当泣くな。

そう思うと、笑えてくる。

「名前、どうする」

ヘトヘトだが、良平に聞くと

「女の子だから、【穂波ほなみ】って決めてた」

ずいぶん前から考えていたんだろうな。

必死に考えていた姿を思い出し、再び笑えてくる。

「穂波…はじめまして」

泣き続ける我が子にそういうと

「産まれてきてくれて、ありがとう」

純の時にも行った言葉を、穂波にも投げかける。

「ほら、良平先生」

キレイに洗って産着を着せられた穂波。

良平は、壊れモノを扱うかのように抱きあげる。

また、男泣きしている。

「お前は、嫁にやらないからなぁ」

泣きながら言っている。

あの、良平ってバカ?

そんな20年くらい先の事、今言ってどうするのよ?

その姿を福島さんは、クスクスと笑っている。

ほら…笑われているじゃないの。

ちょっと、恥ずかしい。

純はというと、いつの間にか待合室で寝ていたらしく、住民の皆様に叩き起こされた。

従って機嫌が悪い。

「ほら、純、妹だぞ」

良平の機嫌良い声。

純は、目を見開いて

「妹!!」

ご機嫌は、一発で直ったらしい。

良平に抱かれている穂波を見て

「はじめまして。おにいちゃんだよ」

ニコニコ笑いながら、純は指で穂波の頬をツンとつつく。

これが、幸せ…なんだね。


私…何も知らずに


何も知らないで…


ずっと、守られていた事なんて…


全然気付いていなくて…


でも、今は分かるよ…


守ってくれた事


良平…ありがとう…


そして、愛しているよ…


これから、家族で仲よくしていこうね

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