意識の狭間から―良平サイド-
暗い…暗い…闇の中を
俺は落ちていく…
あの女に殴られて…
血が出てきて…
それで諏訪が救急車を呼んでいたような気がする…
それから記憶がない。
俺は、どうなったんだ?
もしかして、死んだのか?
はは…
そうか…俺…死んだのか…
瑛梨香…
出来るなら、お前にちゃんと自分の気持ち伝えたかったよ。
好きだって…
愛しているって…
ちゃんと伝えたかったよ。
でも、それはもう叶わないんだな。
体が上手く動かない…
ていうか、重い…
頬に何か落ちた。
『良平の事、好きだって、ちゃんと伝えてないよ』
瑛梨香の声がする。
はは、幻聴まで聞こえるって事は、俺、やっぱり…
どうしようもなく、瑛梨香が好きだ。
『良平、大好きだよ。だから…』
唇に柔らかい感触。
光が見える…
瑛梨香…
お前の顔が見える…
瞳が開く。
目の前には、愛しい瑛梨香の顔。
心配そうに俺を見ている。
「え…りか…?」
信じられなくて、呟いてしまった。
ここはどこだ?
…病院?
…病室?
血を流したんだ…まぁ、当然だよな?
でも、どうして?
どうして、瑛梨香がいるんだ?
俺の傍らでナースコールを押す瑛梨香。
駆け込んできた看護師達。
「すぐに杉井医師に…院長に伝えて!!」
看護師の一人が周囲にそう命じる。
そして、俺の口に付けられていたらしい呼吸器をつける。。
瑛梨香を、一瞥してから
「あなたが奇跡でも起こしたのかしら?」
そう言っていた気がした。
「大野さーん、良平さーん、分かりますか?」
看護師さんの呼びかけに、俺はは力なく頷く事しか出来ない。
しばらくすると、杉井医師がやってきて、俺をいろいろと診察して
「意識が戻ったから、峠は越したでしょう」
その言ってから、父さんに向かって
「院長、もう安心です」
と言っている。
父さんの顔がよく見えない。
ただ…
「よかった…」
と呟いたのが聞こえた。
「良平、すまなかった。私が祥子と文彦の事を放っておいたせいで…」
父さんがそう言っているのが分かる。
俺は、返事しようと口を動かすが、声が上手く出ない。
父さんは俺の口元に耳をやり、俺の言葉を聞こうとする。
「あ…のお…んなは?」
俺の問いに
「…祥子は、捕まった。お前への虐待も含めて事情聴取を受けている。アイツは何も認めていないが…」
父さんはそう答えた。
「がっ…こう…は…きょう…は」
続けて俺が言うのを遮り
「学校の事は心配ない。宗吾君が、後始末をしてくれている」
そう答えてから、瑛梨香を見て
「それより、大事なモノがあるんじゃないか?」
父さんの言葉に、俺は瑛梨香を見る。
『瑛梨香』
唇が動くのに声が出ない。
瑛梨香は慌てるように、俺の口に耳をやる。
「あ…りがと…う」
微かにしか出せない声。
瑛梨香の瞳から涙が零れている。
「目覚めてくれてよかった…」
涙を流しながら言う瑛梨香の言葉。
俺は、必死に笑顔を作って…笑った…と思う。
瑛梨香…
俺は、どうやら…
どうしようもなく…
お前を好きらしい…
目覚めて一番最初に見たのが…
瑛梨香でよかった…と思ってしまう。
俺さ…
ちゃんと言うよ
『好き』だって
『愛している』って
回復したら…
覚悟しておけよ?




